お前ら、働いてくれ【ガラーヌ編5】
「…扉が……開いたのか…」
ピグマは気づけば洋館の床に倒れていた。
ガラーヌがそっとタオルで彼の額を拭っている。
「おかえりなさい、ピグマさん。……いえ、ピグ=マリオさん。」
「……ああ。帰ってきたんやな、ワイ……胎から……」
そうつぶやいた瞬間、ピグマ自身もぎょっとした。
いま、自分は何を言った?胎? ピグ=マリオ?
なんやそれは?
「ちょ、待て待て。ワイは誰や。ピグマ・リオンや。観測とか鍵とか知らんし、
ツボも粉も買ったことないし……!」
「焦らないでくださいねェ~。魂が目醒めるときは、誰でもちょっと混乱しますゥ~。
でも大丈夫、ここに導きの音叉がありますから。」
ガラーヌはそう言って、妙な形の金属器具を取り出した。
それをチーン……と鳴らすと、不思議な倍音が空間に満ちていく。
ポーン、ポポーン……
頭の奥に、ぬるい水が流れるような感覚。
言葉が溶けていき、記憶がにじんでいく。
「……観測者は、世界を記録する者……記録することで、存在を確定させる……あなたが見ていた“現実”は、あなたが選んでただけなんですよォ……」
「……せやったんか……」
ピグマは知らぬ間に、頷いていた。
「全部、幻やったんか……あれは仮の層……
ほんまのワイは、観測者……鍵……。」
ローブを着せられたピグマは、その晩の集会で静かに座っていた。
蝋燭の灯が揺れる中、低く詠唱を始める。
「……アール・ヴァル・セーレ……ナミア・コル……」
その声に、狂気はなかった。ただ、従順さと、深い陶酔があった。
ガラーヌは微笑む。
「ふふ……やっと、目覚めましたね……我が星よ。」
ピグマはすっかりハマってしまった。