お前ら、働いてくれ【ガラーヌ編4】
「ちょ、お前……ほんまに何なんや、これ。なんでワイが鍵やねん。」
ピグマは黒革の書を抱えながら、じりじりと後ずさった。
ガラーヌは一歩、また一歩と近づいてくる。
「ピグマさん、あなたはもう目醒め始めてますよォ。
夢、見たでしょ? 星母の眼。封印の光。
全部、あなたの記憶の底にあったんですゥ~。」
「夢や!脳の電気信号や!ワイの魂はコンビニに置いてきたわ!」
「前世のあなたは、星母の封印を見届けた観測者。自ら鍵となって、封印の中に意識を沈めたんです。でもいま、扉を開けなきゃいけないんですゥ~。時が、来たんですゥ~……!」
そのとき、ガラーヌの目が星のように光った。
本当に、星が浮かんでいた。虹彩の奥に、瞬く無数の恒星。
ピグマは思わず息を呑んだ。
(やばい、ほんまにコイツ、なにか見えてるんちゃうか……?)
次の瞬間、彼の意識がふっと遠のいた。
目を開けると、そこはどこか異様な空間だった。空は深い藍色。地平線には塔のような結晶が並び、足元は雲に浮かぶ石畳。
「……ここ、どこや……?」
「観測者よ。」
不意に背後から声がした。
振り返ると、巨大な目が浮かんでいた――まさに夢で見た存在だ。
その瞳には、ガラーヌのような姿がいくつも映っていた。微笑んでいる。静かに、ただし確実に狂っている。
「おまえは扉。おまえが開け。われは還る。」
「いやいやいや、ワイ関係ないし!?
勝手に扉にせんといて!?ワイ、そんなん専門外やて!!」
だが石畳の下から、無数の手のようなものが伸びてくる。
彼を取り囲み、絡め取り、中心へと引きずっていく。
「ピグマさん……ようこそ星母の胎へ……」
それはガラーヌの声だった。