お前ら、働いてくれ【ガラーヌ編】
ある日、ピグマはガラーヌが宗教団体を立ち上げていることを知った。
「なんや、ガラーヌ。カルトやっとるんか。別にエエけど家庭壊したりするなよ。揉め事起こさんようにな。細々ツボ売るくらいにするんやぞ。」
「うちはそんなんじゃないですよォ~。もっとこう……心の居場所、みたいな……ほら、癒しの場ってやつですゥ~。」
その口調はいつも通りのゆるさだったが、目の奥に何かしらの確信を秘めていた。
ガラーヌが主宰するその団体の名は〈内奥醒神会〉(ないおうせいしんかい)」。
パンフレットには、あなたの中に眠る星の記憶を目覚めさせましょうと書かれている。
週に二回、ニコシアから少し外れたレンタルスペースに信者が集まり、蝋燭の炎を囲んで星母への祈りを捧げる。
「星母は見ておられます。私たちの周波数が整えば、星母の導きが現れます」と、ガラーヌは真剣な顔で語る。
会の活動内容は、一見するとスピリチュアル系の自己啓発に近い。
だが、その中にはいくつか不可解な儀式や用語が存在した。
たとえば、入信の際には「魂の名〈アースネーム〉」を授かる。儀式中には独特の言語での詠唱が行われる。ガラーヌ曰く、「高次元の存在と波長を合わせるための神語」らしい。
さらに最近では、信者の間で「聖なる水」なるものが密かに販売されているという噂もある。
一本金貨800枚で、「飲めばカルマのしがらみが流れる」とのこと。
ピグマは、翌週の集会にふらりと顔を出してみることにした。
表向きは「興味本位」で、内心は「どんなアホなことやっとるんか確認しとかなあかん」という警戒心からだ。
場所は、郊外にある古びた洋館。
もともと画家のアトリエだったらしいが、今はガラーヌが借りている。
館の中には、白いローブ姿の男女が十数人。年齢も性別もばらばら。
皆が目を閉じ、低くうねるような声で詠唱していた。
「アール・ヴァル・セーレ……ナミア・コル……」
なんやこの呪文、ピグマは思わず眉をひそめた。
そのとき、壇上に立つガラーヌが、ゆっくりと手を広げる。
「星母は今夜も、私たちを見守ってくださっています。どうか、自分の内なる光に耳を傾けてください…カルマは溶け、記憶は目覚め、魂は巡るのです……」
信者たちの顔が恍惚とするなか、ピグマはそっとガラーヌに近づいた。
「あのな、ガラーヌ。お前これ、もうツボ売る段階越えとるやろ。なんやねん星母て。カッコつけるなァ‥。」
「ピグマさん……ちゃんと感じてくださいよォ。星母の存在、あなたも分かるはずですって……。前世、あなたは光の観測者だったんですから。」
「はァ?ワイ前世コンビニ店員やった気ぃするけどな?」
ガラーヌは微笑む。その顔には、まるで狂気も悪意もなかった。
あるのはただ、信じきった者の、まっすぐな確信だけ。
ピグマは背筋に微かな寒気を覚えた‥。