お前ら、働いてくれ【冒険者たち編3】
淡路島は静かだった。
奈良の神鹿に比べれば、明らかにまだ現実のふりをしている雰囲気があった。
だが、その静けさは不自然なほどだった。
「……なんか、静かすぎ?」
「観光地で人類の声が一切しないの‥怖い」
ガラ乃たちは港近くの廃ホテルに拠点を構えた。配信は継続中、チャット欄では心配する声と投げ銭が交錯している。
〈この前まで淡路に住んでたけど、急に水族館から音楽が聞こえるって噂あったんよ〉
〈やめとけ、絶対こいつら行くやつやんそれ……〉
「……行くか」
夜。
水族館は、今や完全無人のはず。
それなのに、聴こえてくる。
妙に間の抜けた、しかしどこか洗脳的なメロディーが。
「これ、聞いたら駄目なやつじゃない?」
水槽の奥。
見えたのは、巨大なクラゲのようなもの。
が、それはクラゲではなかった。
タコ足のついたグランドピアノが、水中で優雅に旋律を奏でていた。
「あれが、音楽魔獣……!」
「なにその単語初めて聞いたんだけど!?」
「伝説の存在らしい。作曲で人間を惑わし、たまになにかしらのランキング入りするって」
「すごいや……」
ガラ乃はカメラを最大倍率にズームした。
「いいねこれ、【閲覧注意】水中ピアノモンスターと狂気の夜で行こうか」
「ついに怪談系に突入してきた……」
「どうでもいいけど今、ガラシャずっと踊ってる」
「え、マジで?」
「無意識に音楽に操られてる」
「でもキレがすごいな……」
音楽魔獣は唐突に姿を消した。
ガラシャは回復したけど振り付けだけ覚えていた。
「一回帰らない?」
「無理。再生数、うなぎ登りだし。」
その夜も、彼女たちは配信を終え、視聴者からの「どこまで行くんだこの人ら」というコメントを眺めながら、廃ホテルでごろ寝した。
旅は続く。




