お前ら、働いてくれ【ガラ妃編3】
翌日。
町の中央広場に設けられた特設裁判所。
豪奢なテントと臨時の玉座。フランス王、噂好き、野次馬、暇な貴族たちで、異様な熱気に包まれていた。
そこに現れたのは、堂々たる態度の被告人。
漆黒のマント一枚。その下は、何も着ていない。
「本日も、裁かれに参りましたわ!」
どこまでも明るく爽やかに、被告人席へと歩くガラ妃。
審理が始まる。
「被告、ガラ妃。貴女はロゼリア伯爵家邸に侵入し、〈夜泣きのルビー〉の盗難未遂に及びました。何か弁明は?」
「はい。まず第一に、わたくしが盗むつもりで邸に入った証拠がどこにありますの?」
「ガラスケースを壊しにかかった時点でェ‥」
「そォれェはァ‥落とし物を拾おうとしただけですわ!」
「ケースの中に落ちていたとッ?」
「ええ。‥わたくしの心が、ですけれども。」
「…‥。」
裁判長は頭を抱える。
傍聴席のご婦人たちがざわつく。
「さらに申し上げますと、この姿、この無垢なる裸体こそ、わたくしがいかにやましいことなど何ひとつしておりません!という証明なのですわ!」
彼女はバッとマントを翻し、キラキラとポージングを決めた。
「ご覧なさい! わたくしの潔白なる肉体美! 罪を犯す者に、こんなにツヤのある尻が育ちます!?」
どこからか「なるほど……」という声。
変なとこがパキつきはじめる判事。
夢中でスケッチを始める画家。
賛同の拍手が起こり始める。
結果ッ!
「よって被告、ガラ妃。……無罪ッ!」
「フッ‥やはりそうなりますわよね!」
勝ち誇った笑顔で、ガラ妃は広場を後にした。
彼女のマントがはためくたび、歓喜と若干の混乱が巻き起こる。
そしてガラ妃は、誰にも聞こえぬように小さく呟く。
「フランス‥肉体芸術の解る素晴らしい国でしたわ‥。次こそは成功させてみせますわ。義賊として…!」
その後フランス王から正式に誤認逮捕の謝罪と賠償金が支払われた。その義援金でチョコの味を知らないカカオ農家は20%くらい減った。