第五話 鎮圧
七つの大罪を倒し、訓練を行いつつも平和な日々を送っていたフューエル達。その平穏を崩す息吹は、既にすぐそこまで迫っていた。
《(行方不明に関しては以前ニュースで見ていた。その誰もが若い女性だった。何故女性だけなんだ…?)》
フューエルは被害が集中している場所へ向かい高速で飛んで行く。
《この辺りだな…。念の為仕舞っておくか…。》
フューエルは緊急時用のハンドガンとナイフを取り出し装備し、ヴァルキリーをコンパクトモードに切り替える。周囲は虫やカエルの声が鳴り響く、街灯が一、二本程度あればいい程度の暗さだった。
《良い雰囲気だねぇ。》
フューエルはそのまま歩き出していく。しばらく歩いたが、何も起こらない。
《(今日はここじゃなかったか…?)》
そう思って数歩歩いた瞬間、遠く、しかしはっきりと鈴の音がなる。
《!》
即座に、しかし自然な動きで銃に手をかける。ゆっくりだった鈴の音のペースがだんだん上がり、フューエルに最も近付いたタイミングで鈴の音が消える。そして、次第に声が聞こえ始める。
【とぉ〰︎〰︎りゃんせ………】
《(とおりゃんせ…確か江戸時代とかの…)》
【とぉりゃんせ………こ〰︎〰︎こはどぉ~この……】
《……(どこから来る…どうやって攫う…?)》
いつのまにか、フューエルの耳元まで、その声は接近していた。
【ほそみちじゃ?】
フューエルは敢えて反応せずに立ち止まっている。
【………………………………………………】
《…》
【お前は違う…。】
その声を最後に、気配も音も声も、全てが消えた。
《…消えた…?諦めたのか…?》
フューエルは周囲を見回すも、誰も何もいない。ぱっと見は先程と何も変わらない光景。しかし、一つ異様な点があった。
《…静かすぎる。カエルの声も、虫の音も、何もない…。》
瞬間、フューエルの首筋に冷たい感触が走る。それに気付くと同時に振り払い飛び退け銃を構える。しかし、レーザーサイトは何も捉えず闇に消えている。次第に小さくカエルのような声が聞こえ始める。しかし、どこか異常な感覚に襲われる。
《…仕方ない…ヴァルキリー、ソナーパルス》
合図と共に収納されていたヴァルキリーが展開されソナーパルスを放ち、周囲の地形から生物までを索敵する。
《…なんなんだ…この数は…!》
ヴァルキリーのソナーが検知した堕天使の数は、暗闇に紛れて見えていなかったが目視だけで五十体以上はいる程だった。フューエルはすぐに戦闘態勢を整えミサイルを放つも、堕天使の集合体はミサイルを捕らえる者や弾き飛ばす者もいて命中したのはたった数発程度だった。フューエルは腕をクロスに組みヴァルキリーの上部に搭載されたエネルギーを固めた太刀を二本、それぞれのユニットから取り出し双剣にする。
《かかってこい、堕天使共》
順調に数を減らすも、堕天使は有象無象の如く湧いて出てくる。そのどれもが今までの堕天使以上に気味の悪い姿となっていた。戦闘を続ける中、ヴァルキリーが突然喋り出す。
[検知完了。堕天使コード:エリミネイト。過去、この地で倒された堕天使の特徴と一致しました。何者かが復活させたか、堕天使本人の怨念の具現化と推測。大量の堕天使の中から本体を倒さねばなりません。推奨:氷属性による制圧。本体は氷耐性が付いているようで凍りません。]
《了解!》
ヴァルキリーの剣を搭載していた部分が扇風機のような機構に変わり、外側に空気を飛ばすように回転し固定される。
[システム:オールグリーン。バッテリー残量:56%。アイスコア、起動完了。猛吹雪による低体温症に、ご注意ください。]
ヴァルキリーのアナウンスが終わると同時に変化した機構から冷気が発生し、堕天使を囲うようにどんどんと冷気が強くなっていく。激しかった堕天使達の動きも鈍くなっていき最終的には凍りつく。その中で唯一、動き続けている堕天使を発見する。
《フルバースト!》
フューエルの太刀に氷を纏わせ、その氷エネルギーの刀身を堕天使に飛ばす。その剣は、周囲の凍った堕天使によって身動きが取れなくなったエリミネイトを意図も容易く貫いた。エリミネイトがどろどろに溶けていき、完全に消失した瞬間に周囲の黒い影も消滅した。
[おめでとうございます。凍らせたことにより、堕天使化させられそうだった人の一部を救う事に成功しました。しかし、症状が進行していた人に後遺症が残る可能性は否定出来ません。]
《…それはその人次第だ。元凶を倒せてよかった、と思うべきだろう。》
フューエルは腕に寄せたヴァルキリーの通信パネルで救護班を現在地に呼び出し、天界に戻って行った。
フューエルが帰還する頃には既に、太陽が空を赤く焼いていた。
第五話。無事に倒せてよかったね。