第四話 怪奇事件
七つの大罪を倒し、訓練を行いつつも平和な日々を送っていたフューエル達。その平穏を崩す息吹は、既にすぐそこまで迫っていた。
《パラノイア…えー…は行…》
先日の濃霧事件から数日、フューエルは天界の大図書館で過去に出現を確認された堕天使達の資料を調べていた。
《あった…。戦闘タイプでは無いからか情報量は多少多いようだな。…堕天使名パラノイア、能力は…濃霧の出現と煙を吸った人間に取って最も恐怖となる姿を見せる、か…。私達天使には通じないようだが、これじゃ人間にとっては害ではあるだろうな…。》
一通り調べ終えたフューエルは資料集を閉じ棚に戻す。その足で外出しようとした時、図書館内に居た子供の天使二人の会話が聞こえる。
《ねぇねぇ知ってる?最近人間さん達のところでおかしな話がまた出始めたみたいだよ》
《なにそれー?》
《えっとね、たしかー…夜一人で歩いてると、歌が聞こえてくるんだって。最初は小さいんだけど、どんどん近付いてきて大きくなって、振り向いたり反応したりして聞こえてる事を見せちゃうと…》
《見せちゃうと…?》
《どこかに連れてかれちゃうんだって!怖いよねぇ、僕達も連れてかれちゃうのかな?》
《僕達は二人でいるんだし大丈夫なんじゃない?》
《そっかぁ》
《…(なるほどね。噂の一人歩きの誘拐か、それとも…)》
フューエルは本を選ぶふりを辞めて自宅に戻り、準備を整えて夜を待つ。
そして、日付が変わる直前となった。
《…さて…。》
ヴァルキリーを装着し、自宅の扉を開け外に出るといつもの笑顔のエデンが立っていた。
《や、フューエルちゃん。こんばんは。》
《エデン団長…なんで私の家に…?》
《フューエルちゃんは多分知ってると思うけど、地上の行方不明事件の調査でしょ?》
《はい…まぁそうですが…》
《…申請は?》
《…………》
露骨に目を逸らすフューエル。
《最悪事後報告でも良いとは言ったけどね、私が申請書を用意してるのはちゃんと理由があるんだよ。》
《はい…。》
《フューエルちゃんは強いから無いとは思うけど、もし以前の七つの大罪レベルの堕天使が関わってたら突飛な装備じゃ勝てないかもしれない。そうなった時、申請があって調査に向かったのを私が知ってれば帰ってこなかった時の異常に気付けるでしょ?私は皆が大切で心配だからこういうシステムにしてるんだよ。》
《はい…。》
《今までは軽い調査や緊急のものだったりしたから目を瞑ったけど…警告しとくよ。今回の調査、誰か他の人も呼んでおいた方がいい。ここまで狡猾に、かつ何十人も人が行方不明になってる。相手の知能が高い、もしくは裏に何かいるか、どっちかだと思うよ。》
《……覚悟の上です。ヴァルキリーも研究班に頼んで以前より強化しています。必ず帰ってきます。》
《…せめて、明日ってわけにはいかないかな》
どこか寂しげな笑顔でエデンがそう呟く。
《…今この時に、危険な目に遭ってる人がいるかもしれないんです。誰か一人でも救えるなら、私は行きます。》
《……君ならそう言うよね。フューエルちゃんの覚悟を蔑ろにするのも本意じゃない…。気を付けて、行っておいで。》
《行ってきます。》
フューエルはそう言い残しヴァルキリーで飛び立って行った。
《…ただの誘拐事件だったら、どんなに良かったかなぁ…。》
エデンはボソッと言い残し、風で乱れた髪を直しながら本部へと戻って行った。
第四話。フューエルの独断行動は目立ちすぎたようです。