第二話 混沌が現れる
七つの大罪を倒し、訓練を行いつつも平和な日々を送っていたフューエル達。その平穏を崩す息吹は、既にすぐそこまで迫っていた。
地上に亀裂が走り、地上班の天使達によってその場所が封鎖されてから数日後。亀裂の下の活動が落ち着いてきた為、フューエルは隊員達に任せて一度天界に戻っていた。いつもの帰宅の感じではなく、やけに真剣な面持ちで。天界に戻ってすぐにエデンの元に向かい、ユグドラシルの元へエデンと共に向かう。
《ユートピア、だったな。カオスが再生成される日は今日で合ってたか?》
無言で頷いたユートピアからは普段の柔らかい表情が消えている。
《前回…といっても数百年前の記録だけど、その時生まれたカオスは凄く凶暴で天使が何人も殺されたの。今回の魂がユグドラシルでリセットをかけられるといっても、同じように凶暴なカオスが生まれるかもしれない。だからあなたを呼んだの。》
《カオスの能力は分かってるか?》
《幸いにもそれは分かってる。血に猛毒を含ませて、その毒が入った血ならいつでも操れるのが一つ目。もう一つは…その…》
《躊躇わなくていい。》
《…ユグドラシルでリセットをかけても、所謂ステータスとか、記憶とかがそのまま保存されること。》
《…なるほど…。》
ユートピアと会話中、突然ユグドラシルが光を発する。そしてその光が一箇所に集まり、人型となって発散される。どさっという音と共に、やや濃い目のピンク色の髪をした女性が倒れ込む。その場にいる全員で最大限警戒しながら様子を伺う。数秒経った後、倒れたまま動かないカオスと思われる人物の体に数十秒間ノイズが走る。ノイズの中に、男性化したような姿や化け物のような姿がほんの一瞬、しかし何度も映し出される。ノイズが消え、少し時間が経った後その女性が起き上がる。
《……あら、随分なお迎えね。取り敢えずタオルか何か貸してくれるかしら?これから生まれると必ず水浸しなのだけは不快だわ…。……黙ってないでなんとか言いなさいよ。》
少なくとも現在は友好的に接しようとしているのか、一定の距離から彼女から近付こうとはせず話しかけてくる。数秒の沈黙を最初に破ったのはエデンだった。
《…私からの質問に答えてくれればタオルでもなんでも貸してあげるよ。私は君と戦わなくて済むのならそれで良い。》
《…はいはい、聞きたいことは何?私が分かることは少ないと思うけど。》
《名前の確認と、今の君に争う気があるのか無いのか。ユートピアちゃんの前で嘘は通じないよ。》
めんどくさそうに小さくため息をつき、フューエルの後ろに隠れているユートピアをちらっと見てから話し始める。
《名前はカオス。英語にスペルはC、H、A、O、S。それでカオス。争い事なんて心配しなくても、私は何もする気は無いわ。何もされなければ。面倒ごとは嫌いなの。》
《……本当みたいだね。まぁ嘘をつくメリットもないか。分かった。この天界へようこそ、カオスちゃん。》
エデンはそう言ってカオスにタオルを渡す。カオスは小さく《ありがと》と言って髪を拭きながらユグドラシルの部屋を出て行った。
第二話です。亀裂の次はカオスの誕生。怒涛の勢い。