ざまぁされそうな騎士団長の息子は、ツンデレな憤怒の悪魔にいつも叱られてます
特定の作品の模倣ではなく、童謡から連想した思い付きです。
「バカっ!! バカっ! このおバカ!! そんなんだからヒドインなんかに舐められるのだっ!!」
俺の主がポカポカと胸と叩いてくるが、その小さな拳ではまったく痛みを感じない。
「だって……このままだと風邪ひきそうだったし」
「そんなのは自業自得だっ!!」
「うん。でも困っているの見たら、放っておけなくてさ……」
「アイツは、それが分かってやっているのだっ!!」
またさっちゃんを怒らせてしまった。
自作自演で、噴水に落ちて濡れ鼠になった転生者・通称ヒドインに、俺が思わずタオルを差し出してしまったからだ。
「もうっ、このおバカっ! お人好しも大概にしろ。これではお前のほうこそ、放っておけないではないか!」
「ご、ごめんね、さっちゃん……。いつも心配ばかりかけて」
「勘違いするでない!! さっちゃんはお前の心配をしているのではないっ!!ただ、己の下僕の不甲斐なさが許せないだけなのだっ!」
素直になれないさっちゃんは、今日もプンプンと腹を立てる。
◇◇◇◇
「お前は、クソ女神の選んだ転生女に狙われていて、このままだと破滅する運命なのだ! 助かりたくば、このさっちゃんに使える下僕となるが良いぞ。我が配下とならば、脆弱なるお前でも、面倒を見てやろう!」
女神に押し付けられた、破滅の運命とやらを逃れる代わりに、押しかけ主を得てしまった。
小さな女の子にしか見えない彼女は、異世界からやって来た偉大なる悪魔。とっても強いらしい……。
そんな話を真に受けた訳ではないが、子供の夢を壊すのも忍びなくて……、ごっこ遊びに付き合うようなノリで俺は受け入れてしまったんだ。
どこの子かは知らないが、こんな夢見がちな子を放っておける訳がない。
彼女の話が本当のことだと理解できたのは、かなり後になってから……。
押し売りは、どちらも変わらなくても『さっちゃん』は俺のことを考えてくれているだけマシだろう。何よりこの子は、かわいいのだ。離れることなど既に考えられなくなっていた。
小さくてかわいいさっちゃんは、感情表現が極端で、いつも怒ってばかりなんだ。
「何をやっている、軟弱者がっ! しっかりするのだっ!!」
「そんな装備で大丈夫なのか? …………ほれ見ろ、だから言ったのだっ! このおバカっ!!」
「まったく、お前という奴は……。あんな目にあったというのに……。お前が怒らないから、さっちゃんが代わりに怒っているのだぞ!!」
上から目線で叱られても、なぜか腹が立たない。
俺のためだと思えば、どこか嬉しくて。
そんなふうにいつも怒っているところも、かわいいと感じてしまう俺だけど、さっちゃんにはもう少しだけ、素直になって欲しいんだ。
―― もっと、激しく、厳しく、罵ってくれたっていいんだよ……。
怒りの汗に濡れた小さなあんよで、踏みつけてくれたっていいんだよ……。
さぁっ! さっちゃんの好きなように、もっと素直な気持ちを露わにして、俺を攻めたててくれっ!!
「いい加減にしろっ! このおバカっ!!」
◇◇◇◇◇
「ごめん、俺には組織とか向いていないと思うんだ……。それより自分の中での、本当の騎士道を追求する道を、選びたいんだ」
「そうですか……分かりました。あなたの選んだ覚悟の道に、幸多からんことを願っております……」
辺境伯令嬢からの、未来の辺境騎士団長としての、婿養子の話は、お断りした。
これで婚約破棄からのざまぁへの道は、回避できたぞ。
その後もヒドインに魅了されなかったことで、卒業後の追放も無くなったので、破滅回避は無事成功。
めでたしめでたしなのだが、俺は一介の冒険者として、さっちゃんと一緒にいることを選んだのだ。
「さっさと行くぞっ!! このノロマっ!!」
「はいはい、待たせてごめんね」
「バカモノっ! 『はい』は一回だっ!!」
「はーい!! 分かりました。ご主人様」
さっちゃんに、こうして叱られる日々こそが、俺の生きる道。
心の底から仕えたい、俺の本当の主は、さっちゃんだけだから。
短編詐欺の意図はなく、バナナのお取り扱いがないのは仕様です。ここにないなら、ないですね。
続きはスプラッターかノクターンになるので、各自脳内でお願いします。
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他の短編も、基本的に名前なしのテンプレで構成されています。
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