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内気すぎる最強令嬢の勘違い英雄譚~わ、私は英雄なんかじゃありませんっ!~

作者: 氷河の一輪
掲載日:2024/02/07

 剣と魔法の世界"エーデルワイス"。

 そこには由緒あり歴史のある学園がある。そこには世界中の天才や秀才、上級貴族などが集まる。

 その学園には噂の絶えない"貴族令嬢"がいる。

 その貴族令嬢の名はリシア・ハーメルン。


 リシアは自分の教室の前で大きく息を吸う。そして手を合わせ、毎日欠かさず行っているお祈りをする。


(どうか今日は誰にも話しかけられませんように……)


 そう、リシアは内気すぎるのである。だが彼女は毎日人に話しかけられてしまう。普通の内気な令嬢なら誰も声をかけないだろう。なのになぜ彼女は話しかけられるのか、……それは彼女が()()だからである。



「リシア様! どうか世界を脅かす魔王を倒してください!」

(今日こそ()()完璧で超人でお美しいリシア様に世界を救って頂くわ――‼)

「……ごめんなさい」

(どうしよう、また話しかけられてしまったわ――‼)



 エーデルワイスは去年から魔王の活動が激化し、世界滅亡の危機に立たされているのである。

 そのため、エーデルワイスに栄える国々は手を組み魔王を討伐するために巨額の費用を投資して最強の軍を編成し、魔王城へ送り込んだ。結果は惨敗。戻ってきた一握りの兵士は、誰も五体満足で生還することはできなかった。

 世界中が絶望する寸前、一筋の希望の光が現れた。

 帝国の男爵令嬢リシア・ハーメルン。絶対に、ごく普通の男爵令嬢と侮ってはいけない。

 生まれは平凡だが、それ以外すべては非凡であった。


 まずはその頭脳。リシアは一を聞いて十を……否、百を知った。成績は国々の王太子を抑え、いつも主席。周りからは尊敬の目で見られていたが……

(はぁ……今回も主席とっちゃった。手加減したつもりなのに、また目立っちゃった。次は全部白紙にしようかな?)

 ……リシアは頭は良くても性格は誰が何と言おうとも()()である。


 次にその身体能力と魔力。リシアの細い腕をなめてはいけない。リシアは見た目こそは触っただけで壊れてしまいそうだが、その肉体は高密度の魔力で埋め尽くされている。オリハルコンの刃ですらリシアを傷つけることはできない。

 なぜならリシアの魔力は歴代の英雄や魔神すらも軽く凌駕するほどの魔力の持ち主なのである。

 実技試験でも次期魔当主や次期騎士団長を抑え、堂々の主席である。リシアの洗練された魔法を見て、周りは頬を赤らめて見惚れているが……

(またやってしまった……。もぉ! 私の手加減が下手なんじゃない! きっとみんながへっぽこ魔力なんだ!)

 ……いいえ、リシアがおかしいだけだと思いますよ?


 最後にその秀麗な容姿。肩まで伸びる柔らかく癖のない桃色の髪に、長いまつ毛のかかった澄んだ碧眼。すらりと伸びる白い手足。身長はやや大きいが、それすらもリシアの美しさをより引き立てる。いつもどこか遠くを見ている瞳に、同姓である者も異性である者も、全ての者が等しく惹きつけられた。

(彼女は何か深いことを考えているのだろう。僕が・私が支えてあげたい――‼)

 彼らは一つ、勘違いをしている。

(みんなが私を見ている!? なんで!? どうしよう、落ち着かなきゃ‼)

 リシアは深いことなど何も考えていない。本当にただのポンコツである。



 リシアはいつものように陽の光が優しく当たるところで本を読む。

 そして……周りの面食いの男共もいつものようにリシアを盗み見る。

 その儚げなリシアの横顔に今日も哀れな男共は魅了されていくのである。

 リシアの顔は罪である。否、大罪級の容姿である。今日も無意識に奴隷を増やし続けるのである。

(あぁ、今日もなんてお美しいんだ……)

 当の本人はと言うと……

(今日も見られてるっ!? いつも見られているけど、カツアゲかな? 怖いっ‼)

 ……顔に出さずにこんなことを考えられるのはシンプルに尊敬できる。

「リシア様! 僕と、こ、ここここ、こんにゃく(婚約)してくだひゃいッッ!!」

「……」

(何言っているの? この人は? こんにゃくって何!? 私をこんにゃくにするってこと? 怖いっ!!)

「お前ぇぇえええ!! よくも抜け駆けしたな? リシア様、こんな奴ではなく侯爵家の跡取りであるこの私を!」

(みんな私をこんにゃくにしたいの!?)

 ……その発想が凄いや。普通、婚約がこんにゃくに聞こえたとしても、噛んだことくらい分かる!


「何やら騒がしいね」

「「「王太子殿下っ!?」」」

(きゃっ!! あの変な目で見てくる王子様!? 怖いっ!!)

 ……リシア、変な目ではなく、それは恋焦がれている目だと思いますが?

「リシア……ずっと言おうと思っていたんだが、僕と婚約してくれませんか?」

 王太子は美しく咲く花の庭園を背に、リシアの前で跪く。そして輝く宝石のついた指輪を差し出した。

 誰もが思い描く理想のプロポーズ。

 ……だがリシアにはハードルが高すぎた。

「婚約? 婚約……婚約……こんやく……こんにゃく……こんにゃく?」

 リシアは大勢の人に囲まれたせいで、キャパオーバーしてしまった。

 "婚約"が"こんにゃく"に聞こえ、またもや怯えてしまう。

 そして……王太子が突然のプロポーズをしたせいで、たくさんの生徒が集まってきてしまった。

 そのせいでリシアは、より混乱してしまった。

 リシアの混乱により、まさかの悲劇が起こってしまった。


――ブオン


 不穏な音と共にどこからかともなく頭に角の生えた美男子が現れる。

 その美男子とは……


「「「魔王ッ!?」」」


 何が起こったのか、解説すると……

 まず、知っての通りリシアは混乱してしまった。大勢の人の視線から免れるために、リシアは本能的に『召喚魔法』を()()()で発動させてしまった。

 『召喚魔法』は発動者の魔力量に適した魔物が召喚される。そして、リシアの魔力量に合ったのが魔王というわけだ。

 『召喚魔法』はお互いが同意しないと成立しない。だがしかし、魔王は自ら同意し召喚に応じたのだ。

 その理由は……目立ちたがり屋だからだ!

 この悲劇には、リシアの混乱・チートな魔力量・馬鹿な本能・魔王の目立ちたがり屋な性格などの奇跡(?)が重なり、起こってしまったのだ。



「お、お前は……魔王!?」

「フハハハハ! 如何にも。 我は絶望の魔王、ヴァルブーラである」

「「「ヴァ、ヴァルブーラ……!」」」


 周りの者は皆、魔王の凄まじい威圧に恐怖し、動けずにいた。

 一人を除いて。


「ぶぁるぶーら……?」


 噛みながら言うリシアに、周りの空気が少し和んだ。だが、魔王はそれを良しとしない。自分以外の者が目立つことを許すことはないのだ‼

 なぜなら……魔王は極度の目立ちたがりだからだ!


「……我はこの学園を壊しに来た! 精々恐怖しろ!」


 その言葉で皆は震え上がり、"こいつは正真正銘、絶望を与える魔王……!"と、思った。

 だが、この魔王の本質は絶望の魔王なんかではない。 たしかに力は絶望の魔王そのものだが、断じて絶望の魔王と呼ばれるほどの残虐な性格を持ち合わせていないのだ。


(フハハハハハ! 召喚されたおかげでみんなが我のこと見てる♪ やったぜぇ!)


 ……こんなこと考えている魔王、見たことがありません! 夢がぶち壊されてしまう!


「――!? その魔力……さてはお前、人類の最後の希望と呼ばれているリシアだな?」

「え……?」

(誰、この弱そうな人……)

 リシアはこんな状態なのに、どこまでもマイペースである。

「まずは見せしめとして人類の希望であるお前を()()! 我と決闘しろ!」

 その魔王の言葉に周りはざわめき、人が段々と集まってくる。そして、魔王とリシアを取り囲むように移動した。

 誰も“倒す“という魔王らしからぬ言動を指摘せず、リシアを助けようともせず、観戦者としての立ち位置に立った。

 ……まぁ、リシアは誰の助けも要らないほど強くはあるが。だが()の立ち位置からしたら複雑な心情だ。


「頑張って、リシア様ーーー!」

「魔王なんかに負けるなー!」

「好きです! 付き合ってくださぁい!」


 リシアは極度の人見知り。そんなことをしたら逆効果。……だが、そんなことは彼らは知りえないのだ。


 一度、彼らの立場になって考えてみよう。

 当たり前だが、彼らは人の心を読むことなどできない。完璧に本性を隠している二人の本性など、知るはずがないのだ。

 いつも健気に本を読む物静かで美しい人類の希望である最強令嬢 VS 世界を滅亡させようとする最凶災悪である絶望の魔王。

 はたから見たらその二人が純粋に決闘しようとしているようにしか見えない。

 そんな状況を目のあたりにしたら……? そりゃぁ、人類の希望であるリシアを全力で応援するしかない!



(ど、どどどどどど、どうしよう!? 何が何だか分からないけど、みんなが私を見ている!)

 普通、魔王と決闘となったらそんなこと考えませんが……? 脳が通常の人なら『魔王との戦い。俺が勝たなきゃ人類が滅びる……‼』とか、『負ければ死ぬ! 絶対に勝たなければ!』とか考えますが……?


(こうなったら、速攻で倒すしかないね!)


 リシア!? どうか待ってください! 相手は魔王! 瞬殺したら逆に目立――


――ドゴン


 リシアは早く皆の目から逃れるために、決闘を終わらせるために、人類の限界を超え、光の速度で魔王をぶん殴る。魔法などではなく、物理で……ただの暴力で魔王を倒した。

 魔王はそのまま悲鳴もあげることなく空のかなたへ吹っ飛んでいった。

 皆はポカーンとし、数十秒間の沈黙が流れた。


「す、すげぇぇーー!」


 その一人の言葉から、一気に歓声が溢れかえる。

「あの魔王を倒した!」

「これで世界は救われたっ!」

 皆が歓喜で泣きながらリシアを称える。普通の人なら皆に称えられれば喜ぶだろう。……もう一度言うが、リシアは極度の人見知り。このような状況、耐えられるはずがない。


「~~~!?」

(何!? なんで決闘で勝っただけなのにこんなに称えられるの!?)

 リシアは耐えきれず、全力で逃げてしまった。もちろん、人類の限界を超えた光の速度で。



♢♢♢一ヶ月後♢♢♢



 あれから一か月が経った。

 リシアは未だに英雄として全世界から称えられている。

 少し変化したことと言えば、、、皆のリシアを見る目が変わったことである。

 あの決闘の後、リシアが逃げたことで恥ずかしがり屋なのかもしれないと気づいたのである。少し違うが……まぁ、及第点ということにしておこう。

 今までは一方的に皆がリシアを見て、惚れて、勝手に妄想していたが、今はリシアの本当の姿を見ようと奮闘し、優しく見守っているのである。

 それに影響され、リシアも段々と内気な性格が直りつつある。

 今は友人ができ、少しずつだが本当の気持ちを素直に言うことが出来るようになっていた。

 だが、完全に直ったわけではない。

 まだ極度の人見知りで、皆に勘違いされることも多い。

 それに……彼女は手加減と言うものを知らないようだ。またしても皆に注目されるようなことをやらかしてしまう。



「「「リシア様! あなたはまさに英雄です!」」」


「いいえっ! わ、私は英雄なんかじゃありませんっ!」



 今日もまた、リシアは勘違いされ、英雄譚を増やし続けるのである。

 少しずつで良い。少しずつ本当の気持ちを伝えていきなさい。いつかリシアが勘違いされずに楽しく生きていけるように。


 母はいつでもあなたを見守っております。

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