第96話 狩猟開始
ついに槍豹獣の生息地がある森林に入った。
トーマス兄弟が森の中の開けた場所にキャンプを設営。
こんな場所を知っているとは、やはり運び屋の土地の知識は凄い。
俺もすぐに行動開始。
「では、調査に行ってきます」
俺は一人で調査に出た。
トーマス兄弟が作ってくれた周辺の地図を見ながら、サーベラルの生息地へ入る。
そこで早くも痕跡を発見。
モンスターの大きな骨が落ちていた。
恐らくサーベラルが食べた残骸だろう。
そして、近くの大木で大きく抉れた三本の傷を発見。
間違いなくサーベラルの爪痕だ。
これは縄張りを示す行為だと、オルフェリアから教わっていた。
サーベラルの生息を確認したので、一旦キャンプへ戻る。
「オルフェリア。サーベラルの痕跡を見つけた。おびき出したいから餌が欲しい」
「分かりました。角大羊を用意してます」
オルフェリアが用意してくれた角大羊はなかなか大きく、百キルクほどはある。
それを大きな麻袋に入れ持ち上げた。
「え? 一人で持つんですか?」
「これくらいなら簡単に運べるよ」
オルフェリアもトーマス兄弟も驚いている。
「じゃあ、行ってくるね」
俺は麻袋を担いで、改めて痕跡を発見した場所へ向かった。
袋から角大羊を出し、茂みに隠れる。
今回は罠を仕掛けず、餌に飛びついてきたらそのまま討伐するつもりだ。
原始的だが、これが一番早いだろう。
俺一人なので討伐スピードを重視した。
しばらくすると、モンスターの気配を察知。
「しまった! 赤頭熊だ!」
現れたのはサーベラルではなく、Cランクモンスターのグリーズだった。
体長は四メデルトほど。
Cランクとはいえ、場所によっては森の主と呼ばれるほどの恐ろしいモンスターだ。
人の頭よりも大きい手には五本の鋭い爪がある。
その爪で攻撃されたら、人間なんて簡単に死ぬだろう。
グリーズが餌に喰いついてしまった。
「仕方ない……」
俺はグリーズに向かって走り出し剣を抜く。
グリーズも俺に気付き、咆吼を上げ、大きな手を振りかぶる。
構わず剣を振った。
俺の剣、黒爪の剣はダーク・ゼム・イクリプスの爪を加工したものだ。
凄まじい切れ味を誇る。
それを証明するかのように、グリーズが振り下ろしてきた腕を斬り、そのまま首まで切り落とした。
「この剣は本当に凄いな。片刃の大剣よりも切れるぞ」
為す術もなくその場で絶命したグリーズ。
俺は討伐証明となる短い尻尾だけ切り取り、死骸をそのままにした。
血の匂いもある新鮮なグリーズの方が、サーベラルを呼び寄せることができると思ったからだ。
俺は再度茂みに隠れる。
――
狩猟クエストは忍耐だ。
ひたすら待つ。
だが、サーベラルは現れず、だいぶ日が傾いてきた。
陽の光が遮られる森の中は暗くなるのが早い。
これ以上暗くなったら討伐は厳しいだろう。
一旦キャンプ地へ戻ろうかと思った矢先に、モンスターの気配を感じた。
「これは! サーベラルだ! よし!」
俺が知っているサーベラルは、漆黒のダーク・ゼム・イクリプスだけだ。
目の前に現れたのは通常個体のサーベラル。
黄金色の体毛に黒の斑点がある。
その毛皮は非常に高値で取引されているらしい。
「初めて見たけど、確かに綺麗な柄だな」
目の前のサーベラルは体長八メデルトほど。
まだ若い個体のようだ。
俺はサーベラルの後方からそっと近付く。
餌に夢中になっているサーベラルは、こちらに気付いてない様子。
だが、約十メデルトまで近付くと、さすがにサーベラルも俺に気付く。
俺の姿を見た瞬間、唸り声を上げて飛びかかってきた。
「ガグォォォォォォォ!」
さすが最強のAランクモンスターだ。
一切の躊躇がない。
モンスターの中でも圧倒的な瞬発力を誇るサーベラルの攻撃は恐ろしく速い。
だが、ネームドであるダーク・ゼム・イクリプスには遠く及ばない。
あの速さを体験した俺にとって、このサーベラルの動きは遅く感じる。
飛びかかってくるサーベラルに向かって、剣を上段から下段へ振り下ろす。
サーベラルは俺と交差し、そのまま俺の左右を通り過ぎ、地面に滑り落ちた。
サーベラルは起き上がることができない。
それもそのはず、俺は飛びかかってきたサーベラルを頭から尻尾まで、真っ二つに斬っていた。
「しまった! 素材鎧に使うんだった!」
二つに別れたサーベラルの死骸を見つめ、どうしようか悩んでいるとオルフェリアとトーマス兄弟が来た。
オルフェリアは縦に両断されたサーベラルを見て、声が出ないほど驚いている。
「ごめん、オルフェリア。今回はサーベラルの素材を鎧に使うんだけど、真っ二つに斬ってしまった。これ大丈夫かな?」
「え、ええ。そ、そうですね。鎧なら……大丈夫だと思います」
「そうか、良かった!」
オルフェリアはすぐさまサーベラルを解体していく。
凄まじい技術だ。
俺はオルフェリアの一挙手一投足を見逃さない。
トーマス兄弟が防腐加工をしながら荷台に積んでいく。
あっという間に解体と積み込みが完了。
「それではギルドに報告しますね」
オルフェリアはギルドから貸与されている連絡用の大鋭爪鷹を飛ばした。
全てが片付きウグマへ帰還。
荷台でくつろぐ俺に、オルフェリアが水出しの珈琲を淹れてくれた。
「サーベラルを一瞬で狩猟する人なんて見たことがありません」
「ぐ、偶然だよ」
「サーベラルクラスになると、狩猟は容易ではありません。現地で慎重かつ入念に調査して発見。そこから少しでも自分たちが有利になる場所へ誘導するんです。この誘導が難しいのですが、一流の冒険者様たちはこの誘導が上手いんです。誘導ができたら、役割を決めたパーティーで狩猟というのが一流の冒険者様の狩猟方法です。それでも成功率は六割、良くて七割程度でしょう」
「そ、そうなんだ」
「それをアルは場所なんて関係なく、たった一人で、それも一撃で狩猟してしまう。他の冒険者様から見たら理不尽の塊ですね。フフ」
「いや、あの……」
オルフェリアが笑っていた。
モンスターを解体していたとは思えない、とても美しく清楚な笑顔だ。
俺は今回の狩猟で考えてたことを、オルフェリアに伝えることにした。
「オルフェリア。初めて解体師や運び屋と一緒にクエストへ来たけど、とてもやりやすかった。これからも一緒に行きたい」
「え?」
「運び屋は地形のプロだ。街道以外の道を簡単に進むことができるし、モンスターの出現地や危険地帯も知っている。キャンプ地だって把握している。こんなに素晴らしい知識を持ってる運び屋がいれば、冒険者は移動中に狩猟のことだけを考えることができる」
「そうですね」
「そして解体師がいれば、モンスターの弱点はもちろん、依頼の採取素材を傷付けないで狩猟する方法を教えてもらえる」
「仰る通りです」
「冒険者、解体師、運び屋がチームを組めば、狩猟クエストは絶対に早く、安全かつ確実に行うことができるはずだ」
オルフェリアが大きく頷いた。
「アル、実は私もそれを考えていたんです。そして私は、それが空路で実現できないか考えています」
「空路? 空路って、空ってこと?」
「ええ、そうです」
「空で移動できれば、冒険者も、解体師も、運び屋も皆一緒に移動できます。時間も短縮可能。さらには今まで行けなかった地域へ、狩猟や討伐に行くことができます」
「それは確かに凄い。でも、空なんて飛べるの?」
「アルは軽い空気を知ってますか?」
「軽い空気? いや、初めて聞いた」
「世界のどこかに軽い空気というものがあるそうです。これを探して、私は絶対に空を飛ぶ」
「す、凄いよ、オルフェリア! 君はやっぱり天才だね!」
「あの……アルはこの話を聞いてバカにしないのですか?」
「バカになんかしないよ! だって実現したら革命だよ! 手伝えることがあったら何でも言って」
「あ、ありがとうございます!」
オルフェリアの瞳が涙で潤んでいた。
空を飛ぶなんて信じられないけど、オルフェリアならできるような気がする。
俺は全力でオルフェリアを応援しようと思った。




