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第9話 力比べ

「貴様、またしても隊長を愚弄するか! このお方はクロトエ騎士団一番隊隊長レイ・ステラー様だぞ!」


 ザインと呼ばれた騎士が声を荒げた。

 レイさんは苦笑いしている。


「いいのだ、ザイン。この者はアル・パート。私の友人だ。今日会ったばかりだがな」

「今日会ったばかりで友人と! 信用なりません!」

「いいのだ」

「ハッ! 失礼いたしました!」


 このザインさんは、どうやらレイさんに絶対服従のようだ。


 それにしても、レイさんの一番隊隊長は本当なのだろうか?


「あの、失礼なことを言ったらすみません。レイさんって隊長さんなんですか?」

「ええ、そうなの。隊長なんて不相応な役職をもらってしまってね」


 ザインさんが俺を睨んでる。


「そうでしたか。騎士団の隊長……」


 騎士団の隊長となると、その地位は非常に高い。

 騎士団の中では団長に次ぐ地位だ。

 それも一番隊は騎士団のエースと聞いたことがある。

 エリート中のエリートだろう。

 俺ごときが気軽に話せる相手ではない。

 俺はこれまで気軽に接していた非礼を詫びることにした。


「あ、あの、レイさ……。ステラー様、これまでの数々のご無礼、お許しください」

「アル、やめなさい」

「い、いや、でも」

「いいのよ、アルは私の友人。友人になるのに過ごした時間なんて関係ないわ。レイでいいわよ」


 とても優しい口調だ。

 レイさんに友人と言ってもらえたことが嬉しかった。


「そうだ、ザイン。あなたは一番隊で最も力が強いのよね」

「ハッ! 隊長には遠く及びませんが、その自負はあります」

「では、今からアルと力比べをしてみなさい。アルのことが分かるかもしれないわよ」

「命令とあらば。しかし、私とて騎士団のプライドがあります。こんな子供と……」

「いいのよ」


 ザインさんにも優しい口調になっているレイさん。

 ちょっと可愛い。

 でも、こんなことを口に出したら怒られそうだ。


 それにしても、宿のロビーで騎士と力比べするなんて信じられない。

 今朝家を出る時には、こんなことが起こるなんて想像すらしていなかった。


「アルと言ったな。私はクロトエ騎士団一番隊副隊長ザイン・フィリップだ」

「え! よ、よろしくお願いします。アル・パートと申します」


 一番隊の副隊長と聞いて俺は驚いた。

 これまたとんでもなく偉い人だ。


 ザインさんの年齢は二十五歳前後だろう。

 身長は俺よりも高く百八十セデルトほど。

 薄茶色の短髪に整った顔立ち。

 真面目な好青年という印象だ。

 軽鎧(ライトアーマー)で体型ははっきり見えないが、引き締まった筋肉質の身体をしているのが分かる。

 実戦で鍛えられた筋肉だろう。


 俺たちはテーブルに肘を付け、お互い手を握り合う。

 そして、レイさんが合図を出す。

 ザインさんは様子見なのか、まだほとんど力を入れていない。

 俺を試しているのだろうか。

 どうするべきかと考えていたら、ザインさんの顔が真っ赤になってきた。


 もしかして、ザインさんは本気を出しているのだろうか?

 どうするべきか。

 ザインさんの名誉を守るために負けるか、苦戦した振りをするか。


 ふとレイさんの顔に視線を向けると目が合った。

 レイさんの美しい顔に笑みがこぼれ、俺に頷く。

 こうなることが分かっていたのだろう。


 俺は右手にほんの少し力を入れ、ザインさんの腕を押し倒した。


「アルの勝ちね」

「た、隊長! こ、これは、どういうことですか!」

「これがアルの力よ。それにしても想像以上ね……。私も正直驚いているわ」


 しばらく沈黙が流れ、レイさんが俺の顔に視線を向けた。


「アル、その力を国のために使ってみない?」

「た、隊長! もしかして!」


 俺よりも早くザインさんが反応した。

 俺もその意味は汲み取れる……。


「いや、あの、俺はただの鉱夫ですよ」

「しかし、その力は騎士以上。ねえアル。クロトエ騎士団の入団試験を受けてみない?」


 突然の申し出に反応できず、俺は固まってしまった。

 レイさんが、ザインさんに視線を移す。


「ザイン、アルの力はどうだった?」

「た、確かに力は強かったです。しかし、この者が騎士団など務まるわけなど」

「騎士団は常に有能な人材を募集している。違うか?」


 ザインさんの言葉を遮り、レイさんが畳み掛けた。


「し、失礼いたしました。仰る通りです。先入観で物事を見るなと、隊長に教えていただいておりました。確かにこの私が力で完敗です。この者は新しい戦力になるかもしれません」


 ザインさんの意見が変わった。

 そして、真剣な眼差しで俺の肩に手を置く。


「アルよ。騎士団の入団試験を受けるんだ」


 ザインさんまで入団試験を勧めてきたが、俺はこの急展開についていけない。


 ただの鉱夫が騎士?

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