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第86話 新しいランク

 続いてリチャードが俺の顔を見る。


「アル。討伐スコアを更新する。後ほど人事機関(シグ・フォー)へ行くがいい」

「分かりました」

「そして今後のことだが、アルはもう規格外すぎる。そこで、ギルドはアルに新しいランクの検討を開始した」

「新しいランク?」

「そうだ。Aランクより上はない、そこでSランクを新設する。決定にはもう少し時間がかかるがな。これは他言無用だぞ」


 リチャードの発言にレイが反応した。


「そうですね。アルはもうAランクを超えてますもの」

「わっはっは、そう言うがね、レイ。君もSランク候補なのだよ」

「待ってくださいリチャードさん! 私は何もしてません!」

「君だってアルに負けないどころか、それ以上の実績を持っている。それに、アルとパートナーを組んでいけるのは君だけだ」

「最近の私は……何もできてません」

「そう言うな。アルだって師匠の君がいないと何もできまい。それに君は世界的に名が知れている。実績も知名度も申し分ない」

「ふうう、分かりましたわ。ギルドの決定に従います」

「そうしてくれ。もしSランクが決定しても浸透には時間がかかる。恐らくSランクの存在自体、当面は世間に伝わらないだろう。もしかしたらバカにされるかもしれん。そういう意味でも、人格者であるレイとアルが適任なのだよ」

「評価していただいてるのですね」

「もちろんだ。ただし、君たちの評価は人事機関(シグ・フォー)のユリア・スノフ局長とギルマスが担当だがな。わっはっは」

「はああ、面倒事を全部押し付けてるわけですね」

「それも君たちの役目だ。わっはっは」


 リチャードが笑いながら一度珈琲を口にする。

 そして俺の顔を見た。


「さて、アルはしばらく休むといい。ダーク・ゼム・イクリプスの討伐から二週間後にウォール・エレ・シャットの討伐だ。これは尋常ではない」

「え? だ、大丈夫です!」

「ダメだ。三ヶ月はクエスト禁止だ。ギルドに周知するから支部を変えても無駄だぞ。直請けもダメだ。いいな」

「三ヶ月も?」

「莫大な金貨を稼いだだろう? 初めて来た帝国だ。ゆっくり観光でもどうだ。いい国だぞ。わっはっは」


 話し終えると、リチャードとギルは部屋を出ていった。

 部屋に残っているのは俺とレイとウォルターだ。


 ウォルターが顎を撫でながら、俺の顔を見る。


「ネームドを討伐しすぎてクエスト禁止になる奴なんて初めて見たぞ! お前は本当に凄いな! ガハハハハ」

「悪いことしてないのにクエスト禁止って……」

「いい機会じゃないか。どうせ剣もないことだしな」

「そうだった。新しい剣をどうしよう」


 ウォルターが珈琲をすする。

 そして、意味深な笑顔を作った。


「アルの新しい剣だが、我々開発機関(シグ・ナイン)が作る。それもダーク・ゼム・イクリプスとウォール・エレ・シャットの素材でな」

「え! 本当に?」

「もちろんだ。お前はシグ・ナインとエンドース契約してるんだぞ?」

「そ、そうだけど、なんだか申し訳ないよ」

「気にするな。シグ・ナインにとってもメリットしかないんだからな。ガハハハハ」

「分かったよ。ありがとうウォルター」

「鎧に関してはすでに設計中だったが、改めて一から作り直す。ネームド二頭から作られた剣と鎧なんてこの世にないぞ!」

「話を聞くだけでも凄いよ」

「何を他人事のように言っている! 二頭ともお前が狩ったんだぞ! ガハハハハ」


 相棒だった片刃の大剣(ファラゴン)が使えなくなるのは悲しいけど、新しい剣も鎧も楽しみだ。


 さらにウォルターは、片刃の大剣(ファラゴン)を可能な限り修復すると言ってくれた。

 元々歴史に残るほどの素晴らしい剣だったし、ウォルターにとっては双子の弟が打った剣だ。

 実戦では使えないが、鑑賞用に修理してくれるとのこと。


「ちなみにな、新しい剣と鎧に関しては、うちの局長が開発に参加するそうだ」

「シグ・ナインの局長って、確かローザ・モーグさん?」

「そうだ。彼女は今でこそ局長をやってるが、天才鍛冶師でもあるんだ」


 以前会った時は、確かに自分でも開発したいと言っていた。

 続いてウォルターはレイを見る。


「レイよ、お前の剣と鎧も作るぞ」

「剣はこの虹の細剣(レイピア)で十分よ」

「ダメだ。廉価版をレイモデルとして売る。契約書にも書いてあっただろう」

「そうだったわね。分かったわ」

「レイモデルは売れるぞ! ガハハハハ」


 確かにレイモデルは売れそうだ。

 女性冒険者は欲しがるだろうし、噂によるとレイには熱狂的なファンがいるらしい。


「開発はアルのクエスト禁止期間中に行う。三ヶ月で作ってみせるからな」

「ありがとう!」

「期待しておけ! ガハハハハ」


 ウォルターにお礼を伝え、俺たちはシグ・ナインを出た。

 そして、数軒先にある人事機関(シグ・フォー)へ向かう。


「こんにちは。討伐スコアの更新に来ました」

「わっ! アル・パート様!」


 受付嬢に驚かれながらも、窓口でギルドカードの討伐スコアを更新。


 ◇◇◇


 冒険者ランク A


 <討伐スコア>


 ネームド

 ダーク・ゼム・イクリプス(槍豹獣(サーべラル)

 ウォール・エレ・シャット(岩食竜(ディプロクス)


 Bランク

 霧大蝮(ネーベルバイパー)

 大牙猛象(エレモス)


 Cランク

 腐食獣竜(スカベラス) 十頭


 ◇◇◇


 討伐スコアを眺めていると、レイが俺の肩に手を乗せてきた。


「討伐スコアにネームドが二種類って異常よ。私でも一種類なのに」

「ウォウウォウ」

「うっ、エルウッドまで」


 これで一通りの手続きが終わった。

 レイとエルウッドと街を歩く。


「それにしても、採掘へ行くって出かけて、なぜウォール・エレ・シャットを討伐してるのかしら。意味が分からないわ」

「ウォウウォウ」

「うっ、そ、それは本当にすみません」

「用事のついでにネームドを討伐するのは、世界でもあなただけよ」 

「色々と自覚するようにします」

「そうね。あなたは己の実力をもっと知るべきよ。もう私を遥かに超えてるんだから」

「そんなことないよ!」

「あのねえ、自分で言うのもなんだけど、私だって最強と謳われたクロトエ騎士団の団長だったのよ? その私が冷静に分析した結果よ?」

「はい」

「分かればよろしい。ふふふ」


 ウグマの重厚で美しい街を歩く、俺とレイとエルウッド。


「そういえば、アルとこうしてゆっくり街を歩くのって初めてね」

「あー、そうかもしれない。いつも馬で移動だし、クエスト中だったからね」

「たまにはいいわね」

「そうだね」


 ゆっくりできることは嬉しいけど、俺はクエスト禁止期間中のことを考えていた。


「……ねえ、レイ」

「なあに?」

「三ヶ月も何しようか。レイはクエストできるでしょ?」

「そうね。私は禁止されてないけど、アルと一緒にいるわよ。ふふふ」


 レイの言葉が嬉しい。

 俺は冒険者として結果を焦ったり、レイに追いつきたいと急いでいたのかもしれない。

 しばらくはクエストのことを忘れて、少し立ち止まってもいいだろう。


「レイ。リチャードさんが言っていたように、帝国を観光してもいいかな?」

「もちろんよ。たまにはゆっくりしましょう」

「じゃあさ、今日は家の皆で食事へ行こうよ!」

「いいわね」

「今日は俺がごちそうするよ! 馬車も予約して、皆でレストランへ行こう!」

「ふふふ、楽しそうね。行きましょう」


 俺たちは高級商業地区のコンシェルジュへ行き、諸々の手配を依頼した。

 そして急いで自宅へ戻る。


 夜になり、執事のステム、メイドのエルザとマリン、庭師のミック、俺とレイとエルウッドの全員で、ウグマの高級レストランへ行った。

 たまにはこうして皆で外食するのも悪くない。


「アル様、このような機会をいただき感謝いたします」

「とても美味しかったです。今度メニューを真似してみますね」

「アル様ー! 私はもう、どこまでもアル様についていきます!」

「こんなに高級なレストランは初めてでせえ。ありがとうございます」


 皆に喜んでもらえたようだ。

 とても楽しい夜になった。


「アル、今日はごちそうさま!」

「ウォウウォウ」


 俺は自分一人だと何もできない。


 家のことを全部やってくれるステム、エルザ、マリン、ミック。

 装備を全て提供してくれる開発機関シグ・ナイン

 最大の評価をしてくれる冒険者ギルド。


 そして、常に一緒にいてくれるエルウッドとレイ。


 皆がいるから冒険者として活動できていることを実感した。

 これからも感謝を忘れずに、自覚を持って冒険者として活動していこうと思う。

第五章が終了しました。

幕間と設定資料集を挟んで、第六章が始まります。


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