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第81話 異変

 採掘していると、黒く光る鉱物の結晶のような物が落ちていることに気付いた。

 大きさは拳より二回りほど小さい。

 俺はその結晶を拾った。


「見たことがない結晶だな。ここで採れるのか?」


 鉱夫の俺でも見たことがない結晶だった。

 黒深石に似ているが、こちらの方が密度も硬度も高いと思われる。

 どう見ても岩壁から採れたものではない。

 ひとまずポケットにしまい、そのまま採掘を続けた。


 採掘は順調に進み、そろそろ夕焼けが始まりそうな時間帯。

 目的の黒深石は採掘できなかったが、いくつかの希少鉱石が採れた。


「君、凄いね。まさか希少鉱石を採っちゃうなんて」

「この採掘場はレベルが高い。掘ってみて分かったけど、もっと掘り進めればまだまだ希少鉱石は出てくると思うよ」

「そうなんだ。やっぱり上手い人が採掘すると違うんだね」

「アハハ、そんなことないって」


 俺は今日採れた希少鉱石をシーラに差し出した。


「シーラ。これは開発機関(シグ・ナイン)で使ってよ」

「え? 売ったら金貨数枚にはなるでしょ?」

「だって、ここはシグ・ナインの鉱山でしょ。それに俺が欲しいのは黒深石だからさ」

「君って無欲なの? バカなの?」

「ちょ、ちょっと! 違うって! これは滞在費として使ってよ」

「分かったよ。アルは律儀だね。ありがたく頂戴するよ」

「さて、じゃあ今日はここまでにして駅へ戻ろうか」


 シーラはこのまま地上へ戻る予定だ。

 俺はしばらくここに滞在して黒深石を採掘する。

 駅に到着したところで、俺は拾った結晶のことを思い出した。


「そうだ。シーラ、この結晶は見たことある?」


 ポケットから黒い結晶を取り出す。


「何これ?」

「さっき採掘場で拾ったんだ。どうも岩壁から出たものではないような気がするんだよね」

「シグ・ナインでも見たことがないな。アルは?」

「俺も長年鉱夫をやってるけど初めて見た。黒深石に似てるけど、感触的に密度と硬度が高いんだよ」

「なるほど。触っただけで硬度と密度まで分かるんだ。……キモ」

「ちょっと!」

「あははは。冗談はさておき」


 冗談とは思えないのだが……。

 シーラの表情が変わり、右手を顎につけ考えている。

 しばしの沈黙のあと、何かに気付いたような表情を浮かべた。


「ねえ、アル。これって、もしかしたら体内生成鉱石かもしれない」

「体内生成鉱石って……」

「モンスターの体内で作られる鉱石のことだよ」


 モンスター事典によると、体内で鉱石を生成するモンスターが竜骨型に数種類存在する。


「ねえシーラ、帝国内で最も出現する体内生成モンスターは?」

「一番多く出現するのは岩食竜(ディプロクス)かな」

「ディプロクスか。確かディプロクスは翼があるよね。この標高を考えるとディプロクスが濃厚か」

「そうだね。アルの予想通りだと思う」


 ◇◇◇


 岩食竜(ディプロクス)


 階級 Bランク

 分類 竜骨型鎧類


 体長約八メデルト。

 中型の鎧類モンスター。


 岩石を主食としている二足歩行のモンスター。

 太く短い足、使用せず退化した小さな手、背中には中型の翼を二枚持つ。

 尻尾は太く、長さは三メデルトほどと体長に比べて短い。


 名前の通り、岩石を食べることで有名。

 岩石に含まれる不純物、特に微生物を栄養源とし、体内に吸収している。

 吸収されない岩石の成分は皮膚に排出され、結果的に純度の高い鉱石が生成される。

 これを体内生成鉱石と呼ぶ。


 岩石を噛み砕く頭部は、上顎よりも下顎が突き出ている。

 下顎に巨大な牙が四本、上顎に二本、合計六本生えており、大牙の隙間に小さくて平たい無数の歯が生えている。

 岩を噛み砕くことに特化。

 鉱石を体内生成することで、皮膚の色は薄灰色。


 性格は温厚で、鉱石を食べること以外に興味がない。

 しかし食事の邪魔をされると激昂する。


 鉱山に出現する傾向にあり、過去多くの鉱夫が犠牲になっている。


 ◇◇◇


 俺はモンスター事典の内容を思い出していた。


「ねえシーラ。もしかしたら、ディプロクスのせいで鉱山が荒らされ、希少鉱石が採れなくなったんじゃないのかな?」

「そうだね。ディプロクスがこの結晶を排出したと考えれば、全ての辻褄が合う」

「困ったな。どうしようか」

「アル。……君ってたった一人でネームドを討伐した凄腕のAランク冒険者でしょ?」

「シーラが何を考えてるか分かるけど、ディプロクスって凄く硬いよ? 俺一人じゃ討伐は難しいかも」

「討伐しなくていいよ。撃退して欲しい。このままじゃ鉱山が危険だ。希少鉱石の採掘もできない」

「そうだな。確かに危険だ」

「これはシグ・ナインからの依頼とするよ。状況が状況だけに、条件は後付けでいいかな?」

「分かった。任せるよ」


 俺はクエストを受けることにした。

 形としては直請けクエストになるが、シグ・ナインから直接の依頼だ。

 ギルド依頼のクエストになるのだろうか。

 まあ撃退してから考えよう。


「アル。僕も今日は泊まっていくよ」

「え? な、なんで?」

「だって岩食竜(ディプロクス)だよ? 岩を食べるんだよ? 見てみたいじゃん?」

「そもそも出現するか分からないよ?」

「でも見てみたいじゃん?」

「まあ気持ちは分かる。俺も岩を食べるところは見てみたい」


 今回は撃退メインなので、それほど危険度は高くないという気持ちがあった。

 危なくなったら退却すればいいし、この場所なら周りに被害も出ない。

 それにシーラは鉱山の責任者である上に、このクエスト依頼者である。

 俺は従うだけだ。


 シーラはゴンドラに、今日採掘した希少鉱石と手紙を入れた麻袋を乗せた。

 手紙は以下の内容だった。


 ◇◇◇


 標高三千メデルトにモンスター出現の可能性があるため、絶対に近付かないこと。

 モンスターはAランク冒険者のアル・パートに撃退を依頼。

 連絡用の大鋭爪鷹(ハースト)をこちらに飛ばすこと。

 我々は数日間三千メデルトの駅に滞在する予定。


 ◇◇◇


 ゴンドラを見送って、俺たちは宿泊の準備を行う。

 日没直前になり、地上から一羽の大鋭爪鷹(ハースト)が飛んできた。

 シーラは次に、ハーストを使ってウグマのシグ・ナインへ詳細を書いた手紙を飛ばす。


 日没と同時にリフトは停止。

 鉱山の業務が終了したようだ。

 その日の夜はシーラが夕食を作ってくれた。


「シーラの料理って、意外と美味しいね」

「君も大概失礼だね」


 食事を終え、この日はそのまま就寝した。

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