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第71話 自信

 護衛クエストは問題が起きたら対処するのではなく、前提として問題が起きないような行動と警備が必要だとレイから教わった。

 初めて経験してみて分かったが、討伐クエストよりも遥かに神経を使う。


 レイは国家レベルで警備をしてた。

 一切の隙がなく、とても勉強になる。

 依頼主のザールも、その手際の良さに感動していた。


 クエスト開始から数日が経過。

 ここまでは、モンスターの気配を感じることはなかった。


「アル。順調だけど、多少の不自然さを感じるわね」

「もしかして、ダーク・ゼム・イクリプスの出現と関係が?」

「そうね。ダーク・ゼム・イクリプスの出現地域は、ちょうどモアからウグマの五百キデルト内だもの。関係あるでしょうね」

「そういえば、俺たちが帝国に入った時も、不自然なほど安全だったよね」

「ええ。ダーク・ゼム・イクリプスがモンスターを狩っていたと考えると、辻褄が合うわね」

「もし護衛中に遭遇したら危険だ」

「こればっかりはもう運よ。遭遇しないように祈るしかないわ……」


 ウグマを出発して一週間が経過。

 ここまでは非常に順調だった。

 いつものように街道を進んでいると、前方に一台の馬車を視認。


「アル、エルウッド、あの馬車怪しいわよ。警戒を」

「え? わ、分かった」

「ウォン」


 レイは隊商の警備隊へ、警戒の合図を送った。

 俺は左手で馬の手綱を掴みながら、右手で剣の柄を握る。


 馬車とすれ違う。

 何事もないようだ。

 しかし念のために警戒は解かない。


 約十メデルトほど離れると、隊商の警備隊に安心感が見えた。

 それは油断ともいう。


「まだだ!」


 レイが叫ぶ。

 そのタイミングで、馬車の幌が開き三本の矢が飛んできた。

 レイは予想していたかのように、三本の矢を細剣(レイピア)で叩き落とす。

 さすがは神速と呼ばれるレイだ。


 俺は馬から飛び降り、エルウッドと馬車の目の前まで走り寄っていた。

 馬車の荷台には弓担当三人、剣を構えた五人の計八人の姿が見える。


 俺は片刃の大剣(ファラゴン)を抜き、牽制の意味も込めて馬車の幌ごと叩き斬った。 

 幌の支柱も斬ったので、幌が荷台を覆い隠す。

 幌からもがいて出てきた八人の襲撃者。

 俺とエルウッドが襲撃者の前に立ちふさがると、襲撃者たちは武器を捨て完全に戦意喪失した様子だ。


 レイと警備隊隊長がこちらに駆け寄ってきた。


「アル、怪我はない?」

「ああ、大丈夫だよ。レイこそ弓を受けて平気?」

「問題ないわ」

「それにしても、三本の矢を一瞬で叩き落とすなんて、レイは本当に人間離れしてるね」

「何を言うの。馬車の幌ごと斬る人間なんて初めて見たわよ」 


 俺とレイの前に警備隊隊長が立ち、頭を下げている。


「二人ともお怪我は? 我が隊の油断が危険を招いてしまいました」

「ええ、そうね隊長。油断があったわね」

「申し訳ありません。それにしても、あなたたちの強さはデタラメすぎる」

「私じゃないわよ。アルが異常なのよ」


 レイがそう言いながら俺の顔を見た。


「ちょっと! レイだって異常だよ!」


 隊長が警備兵に指示を出し、襲撃者を拘束した。

 どうやら盗賊のようだ。


「お二人に感謝します」

「お気になさらず隊長殿。これもクエスト任務ですから」

「この盗賊はどうしますか?」

「そうね。街まで近いので、このまま連行しましょう」


 その後は何事もなく、街へ入ることができた。

 警備隊が盗賊を街の帝国騎士団へ引き渡す。

 そして改めて隊長と護衛の打ち合わせを行い、俺たちは宿の部屋に入った。

 旅の間、俺とレイは隊商の経費の関係から、同じ部屋に泊まっている。


 俺は今日のことをレイに質問してみようと思っていた。


「ねえ、どうしてレイはあの馬車が怪しいって分かったの?」

「御者の様子よ」

「え? どういうこと?」

「普通の御者は馬車用の長いムチを持つのよ。でも、あの馬車の御者はムチも持たずに、いつでも剣を抜けるような体勢だったのよ」

「なるほど」

「全ての状況を逃さず確認しなさい。もちろん、目に見えない事象もあるから予測や経験も大切よ」

「分かったよ師匠。ありがとうございます」

「たまには私も役に立つでしょ?」

「何言ってるんだよ。レイから教わることは、まだまだ山ほどあるんだから」

「ふふふ、これからもよろしくね」

「ウォウウォウ」


 その後の護衛は順調で、予定通り目的であるモアの街に到着。

 十七日間のクエストは無事終了した。


 モアで諸々の手続きを行い、クエスト終了のサインをもらう。

 ザールは追加報酬として、俺とレイにそれぞれ金貨1枚を現金で支払ってくれた。

 冒険者ギルドは暗黙のルールとして、報酬の十パーセントまでなら追加報酬を受け取っていいことになっている。

 それもギルドには申請不要という、冒険者にとっては嬉しい条件だ。


 隊商とザールに別れの挨拶をする時が来た。


「イーセ王国の治安はいいですわ。私が保証します」

「元団長のレイ様ですから、説得力が違いますね」

「ふふふ、ありがとうございます。それでは、隊商の無事と成功に祝福を(リ・クロトエ)

「あなたたちに神の御加護を」


 俺とエルウッドもお礼を伝える。


「ありがとうございました!」

「ウォウウォウ!」


 俺たちは隊商と別れて、すぐに拠点のウグマへ引き返す。

 帰ったらギルドへクエスト終了の報告だ。


「ねえ、レイ」

「なあに?」

「せっかくだからさ、帰りに直請けクエストをした村と、メドの街へ寄って行こうよ」

「いいわね。村長さんや女将にも会いたいわね」


 初めての護衛クエストを終え、俺は意気揚々と帰路につく。

 帝国の景色にも見慣れて、俺は少しずつ冒険者としての自信を持つようになっていた。

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