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第69話 エンドース契約

 冒険者ギルドから五百メデルトほど歩く。


「アル、ここが開発機関(シグ・ナイン)よ」


 三階建ての石造りで、一階部分の半分は店舗になっている。

 冒険者用の装備品や道具を売っているのだろう。

 俺たちは店舗に入らず、横のロビーへ入り受付で事情を説明。

 すると、二階にある支部長室へ案内された。


「シグ・ナインのウグマ支部長、ウォルター・ワイヤだ」

「アル・パートです」

「レイ・ステラーです」


 ウォルター・ワイヤは、髭を蓄えた筋肉隆々の男だ。

 それにしても、ワイヤのファミリーネームには心当たりがある。

 そして、この容姿に既視感……どころではなく、間違いなく会ったことがある容姿だった。


 俺の考えなどお構いなしに、ウォルターが興奮して俺の剣を指差す。


「おい! お前たちの剣はなんだ? 見せてみろ!」


 さすがは開発を専門とする機関の支部長だ。

 俺たちの剣にすぐ気が付いた。


「こ、これは凄いな。誰が作った?」

「イーセ王国のクリス・ワイア氏です」

「なに! クリスか!」

「クリスを知ってるんですか?」

「知ってるも何も、双子の弟だ。ガハハハハ」

「ええ! クリスのお兄さん!」


 容姿も笑い方もクリスとそっくりだ。


 俺とレイはウォルターに剣を渡す。

 ウォルターは食い入るように剣を見つめている。


「クリスめ。弟のくせに凄い剣を作ったものだな」

「俺の剣は二度と作れないと言ってました」

「むっ、確かにな。この黒紅石を素材とした剣は、配合が全く分からない。まさに奇跡の一振りだろう……」


 ひと目で黒紅石と見破ったウォルター。

 相当な鑑定眼を持っていることが分かる。

 弟が打った剣を誇らしげに見ていた。

 そんなウォルターに、ここへ来た目的を告げる。


「ウォルターさん、鎧を作りたいんです」

「ウォルターでいい。敬語もいらん。ガハハハハ」

「アハハ、クリスにそっくりだ」


 俺は大きな麻袋からダーク・ゼム・イクリプスに切られた軽鎧(ライトアーマー)を取り出す。


「うーむ、これは凄い。紙のように切られておる。鎧の意味などないな」


 ウォルターは鎧を軽々と持ち、様々な角度から切断面を観察している。


「アルとレイは、この先もこのレベルと戦っていくのか」

「ええ、そうよ」


 答えたのはレイだった。


「そうか……」


 ウォルターは鎧を見ながら、何かを考えてるようだ。

 そして少しの沈黙のあと、意を決したような表情になった。


「よし分かった! アルとレイ、お前たち専用の鎧を作ろう」

「え! 俺たち専用の鎧?」


 俺は思わず大きな声を上げてしまった。

 しかし専用ともなると、料金も凄いことになりそうだ。

 この剣だって加工代だけで金貨百枚もする。


「で、でも、専用の鎧って高価なんでしょ?」

「そうだ。かなりの金がかかる。だが、アルの将来性とレイの知名度はおいしい。これを放っておくのはもったいない。料金は全てシグ・ナインで負担しよう」

「え! そんなことしたらギルドに怒られるんじゃ?」

「安心せい! シグ・ナインはな、ギルドから一切の予算を受け取っておらん! 全て独自運営だ! お前たちのことはシグ・ナインで面倒を見る。武器も防具も完全にバックアップしよう。ガハハハハ」

「そ、それはありがたいけど、大丈夫なの?」


 さすがに全て無料では、シグ・ナインでも厳しいのではと思った。


「心配無用だ。シグ・ナインがお前たち専用の防具を開発する。凄腕のお前たちが使う防具だ。開発していけば、きっといくつかの特許も取れるだろう」


 さらにウォルターが得意気に説明する。


「そして完成したら廉価版を販売する。お前たちの名を冠したモデルだ。こりゃ売れるぞ! お前たちをサポートすれば、シグ・ナインに莫大な金が入るって寸法だ! ガハハハハ」


 なるほど、俺の名前では売れないと思うが、レイのモデルは確かに売れそうだ。

 特許も取れるのであれば、商売として成立するだろう。


「お前たち専用に軽くて動きやすく、それでいて頑丈な鎧を開発する。ただし、開発には時間がかかる」

「分かったよ」

「その間、アルは代わりの鎧を使ってくれ。この切られた鎧は研究用にもらうぞ?」

「ああ、大丈夫」

「あとな、シグ・ナインが持っていない素材は、お前たちに採ってきてもらうぞ。いいか?」

「それも問題ないよ」

「よし、善は急げだ。契約書を作ろう」


 それを聞いて、レイがウォルターに問いかけた。


「シグ・ナインと私たちのエンドース契約というわけね?」

「そうだ! さすがレイだ。分かってるな。今後は鎧以外もお前たちの武器や道具も開発していくぞ! ガハハハハ」


 俺たちはシグ・ナインと、装備品一式の提供契約を交わした。


「よし、さっそくアルとレイのサイズを測るぞ」


 身体のサイズを測り、筋力や運動能力も測定。

 しかし、俺は全ての計器を壊してしまい、シグ・ナインの職員が唖然としていたのだった。


 ――


 全ての手続きが終わると、夕焼けが始まっていた。

 俺たちは、シグ・ナインから新しい家へ向かう。


「ねえ、レイ。結局、防具にお金使わなかったね」

「そうね、私も驚いているわ」


 レイ曰く、装備の提供なんて前例がないそうだ。

 間違いなく、百年間一度も撃退すらしたことがないダーク・ゼム・イクリプスを撃退した影響とのこと。


「シグ・ナインはいくつもの国際特許を抱えていて莫大な収入があるのよ。鉱山も持っているらしいわ。ギルドから一切の予算を受け取ってないから自由に行動できる。だからギルドの独立機関と言われているのよ。たまに暴走もするみたいだけどね」

「そ、そうなんだね。でも……今回は暴走だよなあ」

「ふふふ、それは私たち次第でしょう」

「アハハ、そうだね。シグ・ナインが損しないように頑張るよ」


 しばらく歩くと、ギルドが用意してくれた家に着いた。

 ギルドからあまり離れておらず、市街地の好立地に建っている。


 二階建ての一軒家で、広い庭、馬小屋、弓の練習場もある。

 そして驚いたのが、執事一人、メイド二人、馬の世話係兼庭師一人が滞在。

 皆、冒険者ギルド専属の職員だそうだ。

 四名全員で俺たちを出迎えてくれた。


「アル様、ようこそおいでくださいました。レイ様、お久しぶりでございます」

「ステム・ソーガン! 久しぶりね。あなたが執事をしてくれるの?」

「左様でございます」

「嬉しいわ、ステム。お世話になるわね」


 レイは相変わらずギルドで顔が広い。

 毎度レイの凄さを知る。


「アル・パートです。よろしくお願いします」

「執事のステム・ソーガンと申します。アル様とレイ様の雑務はもちろん、この家のことは全て私が取り仕切るのでご安心ください」

「あ、ありがとうございます」


 執事がいる家なんて信じられない。

 さらに食事はメイドが全て用意してくれるそうだ。

 それどころか、人件費も食費も全て家賃に含まれているとのこと。

 これで月の家賃が金貨六枚は確かに格安だ。


「ふふふ、これはアルの活躍への期待ね。ギルドはこれから相当あなたを頼ると思うわよ」

「え? だって俺はまだ新人だよ?」

「その新人が、誰もなし得なかったダーク・ゼム・イクリプスの撃退をしたのよ? 期待しかないでしょ?」

「そ、そうなのかな」

「ふふふ、本当にアルは相変わらずね。でもそこがあなたのいいところよ」

「それ褒めてる?」

「もちろんよ。ふふふ」


 俺たちは笑いながら、新しい家へ入った。

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