表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/414

第62話 忍び寄る暗殺者

 墓を掘っている腐食獣竜(スカベラス)は五頭。

 その後ろにもう五頭いた。

 レイの言う通り十頭の群れだった。


 俺は山で暮らしていたので夜目は利く。

 スカベラスまで十メデルトほどの距離に近付き、全力で石を投げた。


「ギィャッ!」


 スカベラスの短い叫び声が暗闇に響く。


「スカベラスってあんな声で叫ぶのか」


 石を投げた場所へ近付くと、一頭のスカベラスが泡を吹いて倒れていた。

 残りのスカベラスは逃げてしまったようだ。

 レイとエルウッドが俺の元へ来た。


「ねえ、アル。牽制って言ったわよね? どうして一頭死んでるの?」

「え? ど、どうしてと言われても。石を投げただけなんだけど……」

「本当にもう……。まあでも一頭は討伐する必要があったからちょうどいいわ」


 レイは呆れながらも、俺と一緒に死骸を森の中へ運ぶ。

 そして腰からナイフを取り出したレイが、スカベラスの首筋にある大きな血管を切った。

 血の臭いを出すためだ。


「恐らくこの死骸を漁りに、他のスカベラスが寄ってくるわ」

「来るかな?」

「ずっと原因を考えてたのよ。スカベラスたちは、人間の墓を掘るほど空腹だった。この森で食料が取れなくなったのでしょう。理由は分からないけどね」

「なるほど。じゃあ、この死骸を漁りに来るか」


 俺たちはまた茂みに隠れた。

 しばらくすると、レイの予想通り死骸を漁りに来たスカベラス。

 二頭が死骸を咥えて引きずり始める。


「住処に持って行くようね。アル、追跡しましょう」

「分かった」


 俺は隣にいるエルウッドの頭を撫でる。


「エルウッド、少し離れていてもスカベラスの臭いを追跡できる?」

「ウォウ」


 エルウッドは首を縦に振った。


 俺たちは馬にまたがり、松明を手に持ち、スカベラスに気付かれないように離れて追跡を開始。

 恐らく五キデルトほど進んだだろう。

 森の中に洞窟を発見した。


「エルウッド、この中にいる?」

「ウォン」


 エルウッドの追跡能力はさすがだ。

 これで住処を特定できた。


「さて、アルどうする? 住処が分かったわよ」

「スカベラスは完全な夜行性だから、一旦戻って日中に討伐しようか」

「そうね。それがいいと思うわ」


 俺たちは洞窟の場所が分かるように、途中の木々に印を付けながら村へ戻る。

 明日の日中にスカベラスを討伐すれば、この直請けクエストはクリアとなるだろう。

 村へ帰るため、真っ暗な森の中を進む。

 しかし、俺はどうしても違和感が拭えなかった。


「レイ、やっぱりこの森おかしい」

「どういうこと?」

「なんというか、この森に入った時から、異常なほど生き物の気配を感じないんだ」

「夜だからじゃなくて?」

「山の上で暮らしていた時と同じ気配なんだよ。山の上も生き物なんて一切いなかった」

「そうね……。これまでの状況とあなたの感覚から推測すると、強力なモンスターが住み着いた可能性があるわ。この辺り一帯の獲物を狩り尽くした結果、スカベラスの食料がなくなり人の遺体を漁り始めたのでしょう」

「となると、そのモンスターの討伐が必要?」

「今は憶測だもの。まずはスカベラスを討伐しましょう」

「そうだね。目の前の問題を解決しよう」


 俺は真っ暗な森を見渡す。

 あまりにも静かすぎる森だった。


 ◇◇◇


 アルとレイから二百メデルトほど離れた茂みに、赤く光る二つの眼光。

 完全に気配を消すことができるその生き物は、人間と馬、そして狼牙を見つめていた。


 アルですらその気配に気付かない。


 ◇◇◇


 俺たちは森を抜け、墓場の篝火を消し宿へ戻る。

 深夜だったが宿の主人は待っていた。

 部屋に入りそのまま就寝。


 翌朝、朝食を取り、改めて昨日の洞窟へ向かう。

 スカベラスの討伐だ。


 森の木につけた目印のおかげで、迷うことなく洞窟に辿り着く。

 松明に火をつけ洞窟へ侵入。

 入り口から百メデルトほど進むと、大きな空洞に出た。

 暗闇を松明で照らす。


「スカベラスだ」


 俺は小声で呟いた。

 岩場の地面で寝ている九頭のスカベラスと、一頭分の骨を確認。 


「レイ、行くよ?」

「ええ、いいわよ。私はね、確かに暗闇は怖いけど、モンスターは平気なのよ!」


 これまでの鬱憤を晴らすかのように、レイが細剣(レイピア)を振る。

 こうなったらレイの剣は止められない。

 俺が一頭斬る間に、レイは三頭斬る。

 恐ろしいスピードだ。

 一振りで確実に一頭を仕留めていた。


 あれほど正確に急所を捉えられるものなのか?

 俺はレイの技術の高さに、ただただ驚くばかりだった。


 完全に寝ていたスカベラスに為す術はない。

 ただ黙って斬られるだけだった。

 珈琲を飲む時間よりも早く、俺たちは九頭のスカベラスを討伐。


「ふう、討伐完了ね」

「さすがだね、レイ」

「ふふふ、ありがとう。じゃあ討伐証明を剥ぎ取りましょう」

「討伐証明?」

「解体師がいない時や、素材を持ち帰れない場合、その一部を持ち帰って討伐した証明に使うのよ。スカベラスのような小型の竜骨型は、尻尾の先端を持ち帰るのがセオリーね。一頭で一つしか取れないから」

「なるほど」


 九頭分の尻尾の先端を切り落とし革袋に入れた。

 食い尽くされた一頭の尻尾の骨も忘れない。


「これで討伐完了だね」

「ええ、怪我がなくて良かったわ。帰って村長に報告しましょう」


 そのまま洞窟を出た。

 これで無事クエストは終了。

 あとは村へ帰るだけだ。


 ◇◇◇


 獲物の気配を感じた赤い目は、完全に気配を絶つ。

 物音一つ立てずに、ゆっくりと近付く。


 二百メデルト、百メデルト、五十メデルト、四十、三十、二十。

 ここまで来たらもう隠れる必要はない。

 一気にスピードを上げ、獲物に飛びかかる。


 いつものように、絶対に失敗のない狩りを始めた。


 ◇◇◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ