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第61話 墓荒らし

 現場へ向かう村道を進みながら、レイが冒険者ギルドについて教えてくれた。


 冒険者カードの登録者は全世界で約三十万人。

 そしてギルドの各機関職員や関連組織、下部組織を含めると四十万人を越える超巨大組織とのこと。

 俺は多いと思ったが、レイに言わせるとそれでも少ないそうだ。


「冒険者ギルドがない地域や依頼料金が払えない人々は、モンスターが出ても何もできないか、もしくは自分たちで何とかするしかないわ。だから貧しい人々のためにも、騎士団では国費でモンスターを退治するようにしたのよ」

「レイが始めたの?」

「……そうね。ある人の理念を受け継いでね。でも、当時は騎士団の中で反対も多くて大変だった。だけど、リマやジル・ダズ、ザインたちが協力してくれて、今では騎士団の理念にもなっているわ」


 レイがどこか懐かしそうな表情を浮かべている。


「レイは本当に凄いな。俺なんかじゃ到底レイには追いつけないよ」

「何言ってるのよ。すでに師匠の私よりも強いくせに。ふふふ」


 レイは笑っているが、俺はレイを心の底から尊敬していた。


 しばらく村道を進むと、俺たちは現場の墓地に到着。

 墓地は森を切り開いて作られている。


 馬を降り、さっそく調査開始。

 クエストの基本は調査、発見、追跡、討伐、報告だ。

 全ては調査から始まる。


 まだ太陽は頭上に来ていない。

 墓荒らしは夜に行われる。

 日没まで時間があるので、じっくりと調査可能だ。

 俺は革の手袋をはめ、荒らされた墓の調査を開始。


 掘り返された土を手に取ると、土が粘り気とともに光沢を帯びていることに気づく。

 粘膜のような粘り気のある液体が混ざっているようだ。


 レイとエルウッドは墓地の周りの森林で調査をしている。

 エルウッドはレイから離れない。

 恐らく昨日のレイの姿を見ているからだろう。

 本当に頼りになる心優しい相棒だ。


 ある程度調査を済ませ、レイと合流した。


「アル、どうだった?」

「荒らされた墓の土に、粘膜のような液体が混ざっていたよ。生物のものだと思う。あと、二本足で歩いたような大きな足跡と、尻尾を引きずった跡、そして遺体を引きずったような跡もあった」

「私たちも森の中で、アルと同じ跡を見つけたわ」

「目撃情報に光る物体もあったよね」

「そうね。目撃情報と痕跡からモンスターの仕業で間違いないわね」


 レイが試すように俺の顔をうかがっている。


「アルは特定できる?」

「そうだな……。全てが当てはまるのは腐食獣竜(スカベラス)だと思うんだけど、どうかな?」

「素晴らしいわ。私も同じ考えよ。スカベラスだと思う」


 俺はモンスター事典を思い出す。


 ◇◇◇


 腐食獣竜(スカベラス)


 階級 Cランク

 分類 竜骨型脚類


 体長約三メデルト。

 小型の脚類モンスター。


 頭部の三分の一を占めるほどの巨大な眼球が特徴。

 長い尻尾でバランスを取りながら、二足歩行を行う。

 手はほぼ使用しないため、短く退化している。


 竜骨型の中では顎の力が強くないため腐肉を好む。

 他の肉食獣やモンスターから獲物を横取りすることがあり、森の掃除屋という異名を持つ。


 完全な夜行性で、大きな眼球は僅かな光も認識する。

 そのため日中は暗い洞窟にいて、絶対に外へ出ない。


 群れで行動するため、Cランクといえど討伐難易度は高い。


 ◇◇◇


「スカベラスはCランクだけど、群れで行動するから厄介よ。痕跡から恐らく十頭ほどの群れね」


 レイは群れの規模まで分かっている模様。

 本当に頼りになる師匠だ。


「アル、どうする?」

「調査結果を報告して、村長に相談しよう。モンスターなら討伐しなきゃいけないでしょ?」

「そうね」

「でもそうなると報酬は上がるよね」

「ええ、今回の村の予算だと厳しいわね」

「どうしよう。でも討伐しないと村が危険でしょ?」

「そうね。うん……大丈夫。私が何とかするわ」


 ギルドに顔が利くレイだ。

 緊急事態だし、ここはレイの力に頼ろうと思う。


 俺たちは宿へ戻り、待機していた村長へ今回の結果を報告。


「村長さん、本件は間違いなくモンスターの仕業です」

「モンスター! そうであれば討伐していただきたいのですが……その……予算が……」


 村長が申し訳無さそうな表情を浮かべていた。

 俺はレイの顔に目を向ける。

 すると、レイが分かっているという表情で頷いた。


「今回の予算は金貨三枚ですよね?」

「はい、恥ずかしながら……」

「分かりました。今回は調査から討伐まで全て含めて、金貨三枚でお受けします」

「ほ、本当ですか!」

「はい。このままだと村が危険にさらされます」

「あ、ありがとうございます!」

「ではさっそく今夜、討伐に入ります」


 レイに考えがあるのだろう。

 俺は黙ってレイの話を聞いていた。


「村長さん、篝火台(かがりびだい)と燃石はありますか?」

「はい、ございます」

「提供していただいてもよろしいですか?」

「もちろんです。量はいかがいたしますか?」

「篝火台は二台、燃石は二十キルクほどよろしいでしょうか?」

「かしこまりました。ご用意いたします」

「クエスト中は拠点として、この宿に滞在することになります。大丈夫ですか?」

「はい、滞在中の宿泊料と食事代は、全てこちらで支払います」

「ありがとうございます」


 さすがレイだ。

 全てのことがすぐに片づいていく。

 俺も今後のために、しっかりと話を聞いていた。


 改めて直請けクエストの契約を交わすために書類を作成。

 そして、篝火台と燃石の提供を受けた。

 手続きが終わったので、俺たちは一旦宿の部屋に入る。


「ねえレイ。直請けクエストとして、今回の報酬は大丈夫かな?」

「スカベラスの群れとなると少ないわね。本来ならギルドは受けないわ」

「え? じゃあ制裁とかある?」

「Aランクの私が報告書を添付すれば大丈夫よ。緊急事態ですもの」

「そうなんだ。でも……レイに何か不利益はない?」

「大丈夫よ。ありがとう。こういう時に私の実績が役に立つのよ。私の報告書であれば、ギルドも納得せざるを得ないわ。ふふふ」


 普段のレイは自身の実績をひけらかすようなことはしない。

 むしろ隠している。

 だが、他人を助けるためなら、地位や実績を使うことに抵抗はない。

 俺は駆け出しの冒険者の身だが、レイのこういった姿勢を見習いと思う。


 そのまま仮眠を取り、日没後に改めて墓場へ向かった。

 墓場の入り口に篝火台を立て、燃石を入れ火を起こす。


 俺たちは茂みに身を隠した。

 この日は新月で月明かりがない。

 篝火台がなければ、辺りは完全に闇になっていただろう。

 新月ということで篝火台を用意してもらったレイはさすがだ。


 風で揺れる森の木々。

 こすれる枝と葉が、非常に不気味な音をかき鳴らす。

 レイは俺の腕を強く掴んでいる。

 強がっているが、本当は怖いのだろう。

 無理させてしまっている。


 長丁場になるので、俺たちは交互に仮眠を取ることにした。

 何回目かの交代をすると、生き物の気配を察知。

 それと同時に近づいてくる複数の足音。


「レイ起きて。来たよ」

「ええ、気づいたわ」

「あれは……やっぱり腐食獣竜(スカベラス)だ」

「予想通りね」


 俺は初めて見るが、モンスター事典のイラストと全く同じ姿だった。


 スカベラスたちが墓地に入る。

 実は村人から、比較的新しく埋葬した墓を教えてもらっていた。

 その新しい墓に数頭のスカベラスが集まっている。

 スカベラスの巨大な眼球が、ぼんやりと白く光っていた。

 確かに何も知らなければ、光る物体が飛んでるように見えるだろう。

 スカベラスは顎や鼻先を使い、器用に墓を掘り始めた。


「腐肉食のスカベラスとはいえ、人の墓を漁るなんて聞いたことがないわね」


 レイが小さな声で呟く。


「このままだと遺体が掘られてしまうな」

「そうね。それは阻止したいわ。牽制して住処まで追跡しましょう」

「分かった。レイとエルウッドはここにいて。俺が牽制してくる」

「気をつけてね」


 俺は身をかがめながら、静かに墓の方へ向かった。

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