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第53話 地獄の試験

 翌朝、部屋に朝食が運ばれてきた。

 俺たちの部屋は別々だったが、使用人が気を利かせてくれたので、一緒の部屋で朝食を取る。


「アル。試験の日程を調べたら、今日が試験日だったのよ。タイミングが良かったわ」

「そうか、試験は週一回か」

「どのランクを受けるの? あなたなら共通試験は問題ないでしょう。好きなランクの討伐試験を受験できるわよ?」

「まだ経験がないから、Cランクを受験するつもりだよ。だって、俺が討伐したモンスターは霧大蝮(ネーベルバイパー)一頭だけだから」


 レイが呆れたような表情で溜め息をついた。


「あのねアル。Eランクでネーベルバイパーを討伐した冒険者なんていないのよ?」

「え? そうなの?」

「ええ。そもそもEランクのクエストに討伐はないの。調査だったり、採取や収集のような簡単でおつかい的なクエストのみ。だからEランクには討伐試験がないのよ」

「じゃ、じゃあ、Eランクの俺がモンスターを倒したのはまずかったのかな?」

「そんなことはないわ。だって、騎士団が討伐を認めているから」 

「良かった。問題ないんだね」

「ええ、問題はないのだけど、冒険者カードに初めて記載される討伐スコアがネーベルバイパーなのは異常だけどね」


 レイが冒険者カードと討伐スコアについて教えてくれた。


 冒険者がモンスターを討伐した際に、冒険者ギルドか、もしくは騎士団などの公的機関が討伐を認めると、自身の冒険者カードに討伐スコアとしてモンスター名が記録される。

 これにより、過去に討伐したモンスターや討伐数が分かるようになっていた。


「あの時トレバーにお願いして、騎士団の討伐証明書を発行してもらったのよ。だからこの書類を持ってギルドへ行けば、あなたと私の討伐スコアにネーベルバイパーが記録されるわ」

「そんなシステムがあるんだね」

「冒険者カードを見せれば討伐実績が分かるから、依頼者が騙されるようなことが少ないのよ」

「へえ、凄いんだね。あ、レイの討伐スコアを見てみたいな」

「そうね。そのうちね」

「ちぇっ」

「ふふふ」


 朝食を食べ終わり支度をする。


「そうだ、アル。筆記試験は今日すぐに結果が出るけど、討伐試験は日数がかかるわ」

「前にギルドで教えてもらったよ。Aランクだと一ヶ月はかかるんでしょ?」

「ええ、そうよ。Cランクでも、恐らく一週間近くかかるんじゃないかしら」

「調査、発見、追跡、討伐、報告まで全部一人でやるんだよね。受かるかな……。自信無くなってきた」

「何言ってるの。あなたなら簡単に合格するわ。ふふふ」


 レイは笑いながら優しく励ましてくれた。

 レイの言葉には説得力がある。

 騎士団の鼓舞(トール)でもそうだが、レイの声を聞くと何でもできるような気がしていた。


「ねえ、アル。カミラさんに言って宿を変えましょう」

「そうだね。時間がかかるから、いつまでもお世話になるのは申し訳ない」

「ええ、滞在日数が分からないものね」


 俺たちは支度を終え、受付でカミラさんに試験の日程を説明。

 しかし結局、カミラさんから合格の前祝いということで、そのまま滞在するように押し切られた。


 受かるか分からないのだが……。


 ただ、部屋は一つにしてもらった。

 どうせ俺は、討伐試験で野宿をするから宿に戻ってこない。

 そもそも俺たちが泊まっている部屋は、広いリビング、応接室、寝室が二つ、キッチン、風呂、トイレという信じられない広さだったので、一部屋でも全く問題なかった。


 カミラさんとファステルが、ロビーで見送ってくれた。


「アル、頑張ってね! いってらっしゃい」

「アルさんなら合格できますよ!」

「ありがとうございます! いってきます!」


 俺たちはアセンの冒険者ギルドへ向かう。


 ――


 冒険者ギルドは、カミラさんの宿から五キデルトほど離れていた。

 さっきまでいた高級商業区とは違い、少しばかり荒んでいて、お世辞にも立地がいいとは言えなかった。

 ただ、冒険者ギルドはこういった場所にある方が、治安維持のために良いそうだ。


 ギルドへ入る。

 昨年行ったイエソンの冒険者ギルドよりも狭く、どちらかというと酒場のような感じだった。

 俺たちはバーの前を通り受付まで進む。


「おい、見ろよ! あの女、すげーぺっぴんじゃねーか」

「姉ちゃん! ちょっとつき合えや!」

「そんな小僧より俺たちと飲もうぜ!」


 下品な声をかけてる彼らが、どうか殺されませんようにと祈る俺。

 レイは慣れているようで、完全無視を貫き全く気にしてない。

 俺はひとまず安心した。


 受付で試験に来たことを伝え、共通試験の受験料金貨一枚支払う。

 試験まで少し時間があるため、俺は内容をおさらいした。


 ◇◇◇


 ○共通試験 受験料 金貨一枚

 筆記 六科目

 体力 五種目 


 ○討伐試験 受験料

 Aランク 金貨二百枚

 Bランク 金貨百枚

 Cランク 金貨五十枚

 Dランク 金貨二十枚


 ○合格基準

 Aランク 共通九十点以上 + 討伐試験

 Bランク 共通八十点以上 + 討伐試験

 Cランク 共通七十点以上 + 討伐試験

 Dランク 共通六十点以上 + 討伐試験

 Eランク 共通五十点以上


 ◇◇◇


 まず共通試験の筆記六科目と、体力テスト五種目を受験する。

 Cランクを取るためには、七十点以上が必要だ。


 試験が始まった。


 筆記は六科目。

 モンスター学、地理学、鉱石学、数学、薬草学、言語学だ。

 昨年も受けているし、さらに勉強もしている。

 恐らく問題ないはずだ。


 続いて体力テスト。

 受験生は全員広場へ移動。

 三百人はいると思う。

 その前に試験官が立つ。


「体力テストは五種目だ! 今から貴様らに目隠しをする! 指示するまで絶対に外すな! 外したらその場で試験失格だ! 田舎へ帰れ! 二度と来るな!」


 なかなか厳しいことを言っている。

 受験者は全員目隠しをされた。


「いいか! この体力テストは各種目、最初の脱落者が最下位、最終的に残ったものが一位となる! 順位によって点数が割り振られる! 少しでも順位を上げろ! 最後まで力を振り絞れ!」


 考える余裕などなく、すぐにテスト開始となった。


「一種目目は腕立て伏せだ! 用意! 開始!」


 銅鑼の音に合わせて腕立て伏せを行う。

 目隠しをしてるので、周りの様子は分からない。

 銅鑼を叩く音のスピードは速く、すぐに五百回を超えた。

 思ったよりも回数は伸びて、千五百回を超えた辺りで一種目目が終了。


 しかし、一切の休憩なく二種目目が開始。


「二種目目は懸垂だ! 用意! 開始!」


 即座に懸垂がスタート。

 銅鑼の音と同時に懸垂を行う。

 これまた銅鑼のスピードが速い。


 百四十回を超えたところで終了。

 またすぐに次の種目が開始された。


「三種目目は懸垂だ! 用意! 開始!」


 二種目目と全く同じ種目だった。

 今度は五十回ぐらいで終了。

 先程に比べ、すぐに終わってしまった。


 ◇◇◇


 体力テストは五種目。

 種目は事前に知らされておらず、何が行われるのか開始の瞬間まで分からない。

 それもそのはず、試験官がその時の受験者の様子を見て決めていた。


 この体力テストは最初の脱落者が最下位となり、脱落ごとに順位が決まっていく。

 最終的に残った者が一位だ。

 つまり、二位が決定した瞬間、その種目は終了となる。


 このテストの恐ろしいところは、終わりが分からないことだった。

 何回やればいいという目安が一切ないのだ。

 さらに、次の種目までにインターバルがない。

 無理に一位を取ると、体力や筋力の回復時間がないまま次の種目に入らなければならない。

 わざと落脱すれば、その種目が終わるまで体力回復の時間は取れる。

 しかし、目隠しをしているので自分の順位は分からない。

 狙った順位で終わることができないのだ。


 結局、限界までやるしかない。

 ゴールが見えない長距離走を全速力で走っているようなものだ。

 実際本当にその種目もある。


 これが地獄の体力テストと呼ばれる所以である。


 ◇◇◇


「四種目目はスクワットだ! 用意! 開始!」


 種目が腕から下半身になったことで、回数が一気に伸びた。

 三千回は超えただろうか。

 そこで終了となった。


 また教官が声を張る。


「五種目目は走るぞ! 目隠しを取れ! 一周ごとに最下位の者は終了だ! 周回遅れになった者もその瞬間終了だ! 最後の種目だ! 死ぬ気で走れ! 用意! 開始!」


 目の前にある一周二百メデルトほどの楕円状に引かれた線に沿って全員で走る。

 最下位は即脱落だから全員全速力だ。

 最後の種目ということでペース配分もない。

 しかし、ここまでの疲労か、一周もできずに倒れ嘔吐する者が続出。

 それでも一周目は半分以上の二百人ほどが残った。


 ここまで俺は一切の休憩がない。

 ただ、体力も筋力も余裕はあるので問題なかった。


 ◇◇◇


 アルに休憩がないのは当たり前だった。

 ここまで全種目で一位を取っているからだ。

 アルは目隠しをしていたので見えないが、教官たちは皆驚きの表情を浮かべている。


「おい、あいつもしかして、昨年イエソン本部で満点出したやつじゃないか?」

「そ、そうかもしれん」

「それにしても圧倒的だろ!」

「わざと懸垂を二回繰り返したのに、意味なかったぞ」

「ああ、ありゃ化け物だ。人間じゃない……」


 教官たちは小声で話していた。


 ◇◇◇


 二周目、三周目と脱落者が増えていく。

 四周目ともなると、周回遅れも出てくる。

 周回遅れの時点で終了だ。


 八周目で残り二十人となった。

 全員ペースはかなり落ちている。

 しかし、正直俺は全然疲れてないので、一人でダッシュを続けている。

 十周ほどで、全員を一周遅れにして俺が一人残った。


「これで終了だ! このテストの疲労は一ヶ月取れない! 無理せずゆっくり安め! 試験結果はこのあと掲示板に張り出す! ご苦労だった!」


 試験は終了した。

 あとは結果を待つだけだ。

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