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第18話 幸せの声

 俺とレイとウィルの三人で街を歩く。

 さすがに目立つようで、大勢の街の人から声をかけられるのだが、その内容はリマを見たという情報ばかりだった。


「いた! リマです!」


 ウィルが声を上げた。


 一軒のレストランで食事をしているリマ。

 いや、食事というより飲んでるだけか。

 街道に面したテラス席に座っており、通行人から丸見えだ。

 新しく設立する騎士団団長に内定しているとは思えない。


「リマ!」

「え? アル様? レ、レイ様も!」


 俺が声をかけると、驚いた表情を浮かべるリマ。


「オイラもいるよ」

「何だよウィル。オマエまでいんのかよ。ってか、仕事しろよ!」

「陛下の警護はオイラの仕事だ!」


 俺たち三人はリマのテーブルについた。

 リマは気にせずグラスに葡萄酒を注ぎ、一気に飲み干す。


「ぷはー。やっぱイーセ産の葡萄酒は美味いね」

「ねえ、リマ姉さん。何やってるの?」

「フハハハ。美味くて安い店ができたって聞いてね。様子を見に来たんですよ」

「様子って……葡萄酒の空き瓶の数が酷いわよ?」

「まだ三本しか飲んでませんよ。フハハハ」

「信じられない。まだお昼よ」

「今日は休み! や、す、み! フハハハ、これはアタシの権利だ! レイ様でも止められない!」


 リマが四本目の葡萄酒を注文した。


「アハハ。休みを満喫して素晴らしいよリマ。じゃあ、ここは俺がご馳走するから、好きなだけ飲むといい」

「え! ど、どうしたんですか?」

「クエストでリマが役に立ったから、そのお礼だ」

「アタシなんかしましたっけ?」

「ギャンブルで負けまくる鉱夫を演じたんだけど、リマをそのまま体現したんだ。そしたらさ、驚くほど上手くいったんだよ。もう本当に感謝だよ」


 俺の発言の意味が理解できないようで、目を丸くするリマ。


「ブッ! ハハ! ギャハハ! ギャハハ! 腹いてー!」

「ふふふ」


 ウィルは腹を抱え、レイは口に手を当て笑っている。

 すると、その意味に気づいたリマ。

 酒で赤みを帯びた顔が、さらに茹でた大挟甲蟹(アキュラータ)のように真っ赤になった。


「ちょっ! アル様! アタシはね! 勝ちまくってるんですよ! 賭博師って異名を忘れたんですか!」

「はいはい。勝てない賭博師ね」

「アル様!」

「アハハ。今日は好きなだけ飲んでくれ。レイとウィルもいいよ。今日は賭博師につき合おう」


 突然のことで店のオーナーが驚いていた。


「アアア、アル陛下。私はこの街に越してきたばかりで、ご挨拶もできずに大変申しわけございません」

「驚かせてすまないね。とりあえず、四人分の食事を用意してもらえるかな? 大丈夫?」

「かかか、かしこまりました! 光栄に存じます!」


 オーナーは厨房へ走っていった。


 リマが新しく開けた葡萄酒を四つのグラスに注ぐ。

 そして俺のクエストクリアを記念して乾杯。


「それにしても、あのルーレットってギャンブルは簡単だよね。止まる数字が分かるもん」

「確かにルーレットってギャンブルとして欠陥よね。私も数字が分かるわ」

「だよね。最初は当てすぎて驚いちゃったよ。まあ、だから確実に外すことができたけどさ。負け続けるのも大変だよ」

「そうね。ふふふ」


 葡萄酒を飲みながら、レイとギャンブルについて話す。

 するとウィルがグラスを置き、唖然とした表情を浮かべていた。


「え? 数字が分かる? ど、どうやって?」

「あー、忘れてた。レイ様もルーレットを当て続けることができるんだった。初めて会った時は預言者のように当ててたもんな。話を聞いたら、ルーレットの回転速度や白玉の投入速度なんかで分かるって言ってた」

「な、なんか引く。この二人って異常だよな」

「そうだぞウィル。アタシたちは普通の人間。こちらのお二人は人間をやめた存在。埋められない溝があるのだよ。フハハハ」


 ウィルとリマが勝手なことを言っている。


「酷い言われようだな」

「ふふふ、慣れてるわよ」


 そこへ運ばれてきたイーセ料理の数々。

 オーナーはイーセ王国出身なのだろう。

 俺にとっては懐かしい料理ばかりだ。


 さっそく食べようとしたところで、テラス席の冊に手をかける女性が見えた。


「あれ? 陛下? レイ様も! リマとウィルまで? こんなところで何を?」

「オルフェリア!」


 偶然にもオルフェリアが通りかかった。

 テラスで昼から国王が騒いでいれば、目立つのは当たり前か……。


「シドがギルドにいるって言ってたけど」

「はい。先程までギルドにいました。王城へ戻る途中なのですが……。皆様、お昼から酒盛りですか?」

「今日は休みでね。オルフェリアもどう?」

「フフ、私はまだ仕事が残ってますので」

「あー残念。クエストで討伐したモンスターの話があるんだよ。岩食竜(ディプロクス)なんだけどさ。これが亜種、いやネームドどころか竜種に匹敵するほどでね。新種に認定していいかも。オルフェリアにも見せたかったなあ。あ、フォルド帝国と合同で研究するから、研究機関(シグ・セブン)を派遣するよ」

「そ、そんなお話を伺ったら無理じゃないですか! アル様ってたまに意地悪しますよね。全くもう……」


 オルフェリアが大きく息を吐いた。


「ご一緒いいですか?」

「アハハ、もちろんさ!」


 モンスターの話になると、途端に興味を示すオルフェリア。

 今回のディプロクスはオルフェリアにとっても興味の対象だろう。


 初めて会った時から俺たちの立場は随分と変わった。

 右も左も知らない駆け出しの冒険者だった俺、差別の対象だった解体師のオルフェリア。

 それが今や国王と冒険者ギルドマスターだ。

 それでも話す内容は当時と全く変わらない。


 オルフェリアを加えて、改めて乾杯した。


 国王になっても、気軽に外食できる街。

 そして、気軽に接してくれる素晴らしい仲間たち。

 俺は本当に恵まれている。


「ウォンウォン!」

「エ、エルウッドまで?」

「ウォウウォウ!」

「ごめんよ。怒るなって。一緒にご飯を食べよう。懐かしいイーセ料理だぞ」

「ウォン!」


 始祖であるエルウッドまで参加した。


「アハハ。皆ありがとう」


 俺は仲間たちと、この国を守るためなら何でもする。

 本当にかけがえのない存在だ。


「ふふふ。私もよ。一緒に頑張りましょう」

「何でもお見通し?」

「もちろんよ。私の愛する旦那様」


 レイが俺の腕に、陶器のような美しい手をそっと乗せてきた。


「あー! 二人がイチャイチャしてる!」

「本当だ! こんなところで見せつけないでくださいよ!」

「フフ、シドに報告しちゃいましょう」

「ウォンウォン!」

「別にいいだろ! うるさいな! ほら! 今日は飲むぞ!」

「はいはい。程々にね」


 アフラの街に響く幸せの声。


「皆ありがとう」


 俺はもう一度小さな声で呟いた。


 ◇◇◇


 フォルド帝国、帝都サンドムーン。

 帝国騎士団(フォルロス)本部の地下に、犯罪者を拘束する牢獄がある。

 その中でも最も厳重な最深部の牢。


 そこへ純白の鎧を纏った一人の騎士が訪れると、警備の騎士五人が一斉に敬礼。


「様子はどうだ」

「ハッ! 何も供述しません」

「私がやる」

「え? ……か、かりこまりました!」


 訪問した騎士は、帝国騎士団(フォルロス)団長デッド・フォルド。

 団長自ら牢獄で取り調べを行うなど前代未聞である。


「開けろ」

「ハッ!」


 牢獄の檻は三重だ。

 一つ目の檻の鍵を開けデッドが入ると、配下の騎士がすぐに鍵を締めて二つ目の檻を開ける。

 二つ目の檻の鍵を締めてから、三つ目の檻の鍵を回す。

 一瞬たりとも檻を開放することはない。


 牢の中には手足を完全に拘束された囚人が一人。


「体調はどうだ?」

「よく見えるか?」

「フッ、そうだな」


 拘束されている囚人は暗殺者ワイズ。


「団長様自ら取り調べか。だが、話すことなぞ何もない」

「まあそう言うな。取引だ」

「取引だと?」

「暗殺者ギルドの情報を全て話せ。変わりに貴様の刑を軽くする」

「無理だ。そんなことをしたら殺される。どっちにしろ死罪だ。このまま殺せ」

「これはアル陛下のご希望でもある」

「なんだと?」


 アルは本気で暗殺者ギルドを壊滅させるつもりで、シルヴィアに相談していた。

 シルヴィアも賛同し、世界会議(ログ・フェス)加盟国に根回しを開始。

 賛否はあるものの、概ね賛同の方向へ傾いている。


「もし俺が自由の身になったら、何をするか分からんぞ」

「問題ない。開放された貴様を監視するのはラルシュ王国だ。今や冒険者ギルドの母体だぞ。調査機関(シグ・ファイブ)、ギルドハンター、Aランク冒険者がオマエを監視するのだ。逃げることは不可能。さらには騎士団が設立される。そして、始祖と竜種だ。貴様はあの三柱の本当の恐ろしさを知らない。人間如きが適う存在ではない。生物の神だぞ」


 ワイズは視線を床に向けている。


「さらに、その三柱を従えるお方がいるのだ」


 何も答えないワイズ。


「アル陛下に復讐なぞ無理だぞ?」

「……分かっている。あれは……人ではない」


 声を絞り出すワイズ。


「アル陛下に言われただろう? やり直せ。日の光を浴びるんだ。アル陛下は太陽そのものだぞ。陛下の元で光の道を進め」

「お、俺は……」

「フッ、明日また来る」


 牢から退出したデッド。

 口元は僅かに緩んでいた。

 なぜならば、デッドは未来が予想できたからだ。


「俺が……光の道……」


 小さく呟いたワイズ。

 アルの言葉を思い出していた。


「俺は……」


 片頬を伝う雫の一筋に、揺らめくランプの光が反射する。

 それはまるで希望の道筋のようだった。


 ◇◇◇

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