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第16話 世界最古の王族

「ウフフ。アルよ、冗談じゃ。今のユリアは幸せそうじゃしの」

「よ、良かった。もうやめてくださいよ」


 焦る俺を見つめながら、笑みを浮かべているシルヴィア。


「それとな、これは冗談ではなく、朕のことをシルヴィアと呼んで欲しい。言葉遣いも普通にするのじゃ」

「え?」

「アルとは親子ほど年齢が離れておるが、朕も気軽に接したいと思っておる。それに、先日のお主たちのやり取りを聞いて、正直羨ましかったのじゃ」

「それってレイやリマとの会話を聞いて?」

「そうじゃ」

「い、いやいや。世界最古の皇族に向かって、それはできません」

「何を言っておる。世界最古といえばノルン卿がおるじゃろう。それにシド様だって……」

「古代王国は滅んでます。って、え? シド?」


 古代王国の初代国王だったノルンと最後の王族シド。

 二人の年齢は一万年も離れているが、血筋は繋がっている。

 シドのことを知っている人間は、ラルシュ王国の極一部の人間とノルンだけだ。


「あの……もしかして陛下は……シドのことを?」

「シルヴィアじゃ。そう呼んだら答える」

「くっ、わ、分かった。……シ、シルヴィア……はシドのことを知ってるの?」

「アルには正直に言おう。シド様の秘密は、フォルド皇帝のみに伝わる極秘中の極秘事項じゃ。我らにとってシド様は、フォルド帝国建国の父として神の如き存在なのじゃ」

「やっぱりそうだったんだ。現存する世界最古の国家であるフォルド皇帝が、シドだけは常に敬っていたからおかしいと思ったんだよ。それにノルンが不老不死と知った時のシルヴィアの反応も一人だけおかしかった」

「ノルン卿の不老不死者は当然知らなかったが、不老不死者の存在は知っておったからのう。それにシド様は、本当に我らのご先祖かもしれぬのじゃ。初代皇帝との恋仲であることはアルも知っておるのじゃろう?」

「ああ、それはシドに聞いたよ」


 不老不死となり世界を旅した五百年を経て、シドは一人の女性と知り合う。

 その女性を助けたことでフォルド帝国が誕生し、女性は初代皇帝となった。

 フォルド帝国の名は、シドの本名であるフロイドが由来だ。


「初代皇帝陛下は崩御まで独身を貫いたと言われておる。しかし我ら子孫が存在するのじゃ」

「そうだね……」

「初代皇帝陛下は密かにシド様と婚姻関係にあったと思われるのじゃ。いや、婚姻関係ではなくとも、男女の関係であったことは間違いないじゃろう」


 実はシドからその話を聞いていた。

 フォルド帝国の歴代皇帝はシドの子孫ではない。

 なぜならば、不老不死になると子孫が残せないそうだ。

 これはノルンも言っていたから間違いない。


 生物は短命になればなるほど子孫を残す。

 逆に長命になると、子孫を残す必要がなくなる。

 つまり初代フォルド皇帝は、シド以外と、あるいは何らかの形で子孫を残した。

 それは歴史に記されていない遠い過去の話。


 ――


 フォルド帝国での手続きを終え、俺はラルシュ王国へ帰還した。

 久しぶりの王城だ。


「陛下、おかえりなさいませ」


 執事のステムが出迎えてくれた。


「ありがとうステム。変わりはない?」

「はい。いつも通りでございます」

「それは良かった」

「アル様、本日は予定を入れておりません。休息日としてください」

「え? サンドムーンでしっかり休んだよ。大丈夫だって」

「いえ、これはレイ様のためです」

「レイの? どうして?」

「レイ様も本日は休日です」

「なるほど。それは重大だ。お言葉に甘えて休むよ」


 自室へ戻るとレイが出迎えてくれた。

 レイの笑顔を見ると安心する。

 この笑顔を守るためなら、俺は何でもするだろう。


「おかえりアル」


 俺の胸にそっと頭を寄せるレイ。


「ただいま。ねえ、レイ」

「なあに?」

「色々と世話になったね。おかげで無事に岩食竜(ディプロクス)を討伐できたよ」

「私は何もやってないわよ。でも、アルの手助けになったのなら嬉しいわ」


 俺の顔を見上げるレイ。

 自然と唇を重ねていた。


「ウォン!」


 吠えると同時に、エルウッドが俺の肩に飛びついてきた。


「いて! エルウッド!」

「ウォウウォウ!」

「ああもう、分かったよ。エルウッドとヴァルディのおかげだ。ウェスタードも来てくれたしね」

「ウォン!」


 誇らしげな表情を浮かべているエルウッドだった。


「レイ、メイド室へ行ってくるよ」

「ふふふ、マリンへお土産ね」

「そうだよ」

「本当に仲が良いわねえ」

「うるさいからね。そのあと一緒に出かけない?」

「いいわよ。じゃあ待ってるわね」


 俺はメイド室へ足を運ぶ。

 ノックして扉を開けた。


「マリンはいるかい?」

「アル様! おかえりなさいませ! わざわざ来てくださったのですか?」

「ただいまマリン。これお土産。うるさいから先に渡しておく」

「う、うるさいって何ですか! 私がいつうるさくしましたか!」

「いつも。そして今も。これはエルザと一緒に食べなよ」

「え? 食べ物ですか? 嬉しいです!」

「帝都で今一番流行ってるスイーツだって。美味しいよ。シルヴィアのメイドに教えてもらったんだ」

「ふーん。他所様のメイドにね」

「な、なんだよ! 別にいいだろ!」

「浮気者ですねえ」

「は? 俺がどこのメイドと話してもマリンには関係ないだろ!」

「ありますわ。アル様のメイドは私だけですから」

「うるさいな……そろそろ配置換えするか」

「な、な、何を仰るんですか! 私以外にアル様のメイドが務まるわけないでしょ! 大変なんですよ!」

「むしろマリン以外なら誰でも務まるんじゃない?」

「酷い! アル様のために一生懸命頑張ってるのに! 酷い!」


 泣き叫ぶマリン。

 いつものことだが嘘泣きだ。


「あらあら、アル様ったらまたマリンを泣かしてるのですか? 本当に仲が良いですね」


 メイド長のエルザがマリンの背中を擦る。


「いつもの嘘泣きだよ。それよりエルザ。俺のメイドに配置換えしよう」

「うふふ。私はレイ様専属ですので」


 俺に一礼するエルザ。


「アル様も本当はマリンが一番いいでしょう?」

「ぐっ……。エルザはレイにそっくりだ」

「それは光栄ですわ。うふふ」


 エルザの達観した言い方はレイそのものだ。

 途端に泣き止んだマリン。

 そもそも泣いてないのだが。


「もうアル様! 私は離れませんからね!」

「分かった分かった。マリンでいいよ」

「で? でいいってなんですか!」


 しばらくいつもの言い合いが続いた。

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