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第15話 罪と罰

「ぐぅぅ。な、なんひゃ! じゃれをにゃぐったと思っちゃる!」


 血が流れる顔を必死に抑えて、大声で叫ぶギルマス。

 だが、歯が折れたせいか、言葉は聞き取れない。


「無礼者め! このお方はラルシュ王国国王、アル・パート陛下であらせられる! 跪け!」


 ギルマスを殴りつけたのは帝国騎士団(フォルロス)の騎士だった。

 白狂戦士(ハイバーサーカー)との共闘の時に見た顔だ。


 騎士の迫力に負けたのか、その場にいる全員が跪く。

 だけど正直恥ずかしい……。


「い、いや、ちょっとそれはやめようよ」


 俺の呟き虚しく、数十人の騎士が一斉にロビーを取り囲み跪いた。

 そして、最後に建物へ入ってきた純白の鎧を身に着けた騎士が、俺の目の前で跪く。


「陛下。この度は大変失礼いたしました」

「デッド団長!」


 帝国騎士団(フォルロス)団長デッド・フォルドだ。


「来てくれたんだ!」

「はい。皇帝陛下より命を受けております」


 俺はデッドの手を握り立たせる。

 デッドは少し照れたような表情を浮かべていた。


「後処理は帝国騎士団(フォルロス)にお任せください。アル陛下はサンドムーンへご移動をお願いいたします。飛空船をご用意してございます」

「分かった。ありがとうデッド団長」

「ご案内いたします」


 デッドに案内され、俺は出口に向かって歩く。


「アアア、アル陛下だったとは。ごごご、ご無礼をお許しください」


 ランカが筋肉隆々の大きな背中を丸めて立っていた。


「ランカ班長。さっきは本当に助かりました」

「わ、私ごときがアル陛下のお役に立てるなんて」


 俺はランカの肩に手を置く。


「あなたは勇敢な鉱夫だ。これからも帝国のために尽力してください。あなたのことは報告しておきます」

「は、はい! あああ、ありがたき幸せ!」

「そう緊張しないで。ランカさんに尊敬してるって言われた時は、俺の方が緊張してましたから。アハハ」

「あ、あれは! ももも、申し訳ございません!」

「アハハ、嬉しかったですよ。では」

「は、はい! あ、あの! 俺、じゃない。わ、私はいつかアル様の元で鉱夫として働きたいです!」

「え? 本当に? じゃあその時はラルシュ王国を訪ねてください。うちでも腕の良い鉱夫は募集してるから」

「あ、ありがとうございます!」

「待ってますよ」


 もう一度ランカの肩を軽く叩き、出口へ向かう。


「ま、待て……」

「ワイズか」


 意識を取り戻したワイズが、声を振り絞っていた。


「こ、この借りはいつか必ず返す。お、覚えていろ」


 近くにいた騎士がワイズに詰め寄る。

 それをデッドが片手を上げて制した。


 俺は振り返りワイズに近づく。

 まだ起きれず、肘をついて這いあがろうとするワイズの前に進み、片膝をつき、視線を落とした。


「やめときなよ。復讐は何も生まない。悲しみの連鎖だ。それより前を向いて歩きなよ」

「俺は暗殺者だ。貴様を殺すことしかできない」

「暗殺者なんてやめればいいだろ? なぜ縛られる? 日の光を浴びろ。自由になって光の道を歩け」

「無理だ……」

「自分で自分の可能性を閉ざすな」

「お、俺は……暗殺者だ」

「俺だって鉱夫から王になった。人は何にでもなれる」

「貴様は……特別だ」

「まあ確かに仲間に恵まれたかな」


 俺はそっとワイズの肩に手を乗せた。


「ワイズのことは嫌いじゃないよ?」

「くそ! ほざいてろ!」

「真っ当に罪を償うんだ。何年かかっても、一生かかってもだ。もし償うことができたら、うちに来ると良い」

「な! くっ、くそ……。お、俺は……死罪だ。暗殺者の末路なんて……そんなもんだ」

「そうかもしれない……。だけど俺は願ってるよ。ワーズに幸運を」


 無言でうつむくワイズ。


「陛下、そろそろ」

「ああ、ごめん」


 俺の隣に来たデッドが頭を下げた。

 俺は出口へ歩く。


 緊張を強いられる潜入調査だったし、想定していなかったモンスターとの戦いもあった。


「だけど……やっぱり鉱夫は楽しかったな」


 俺は振り返った。


「じゃあ行くよ。皆ありがとう!」


 宿舎のロビーにいる全員に向かって声をかけた。


 ――


 サンドムーンの皇城に到着。

 すでに深夜だったため、ひとまず客室で就寝。


 翌朝、シルヴィアの執務室へ案内されると、シルヴィア自ら出迎えてくれた。


「アル陛下。此度は我が国の騒動に巻き込んで申し訳なく思う。心から謝罪を。そして最大の感謝を」


 シルヴィアが頭を下げた。


「へ、陛下! 頭を上げてください! こちらこそ死人を出してしまい申し訳ありませんでした」


 シルヴィアに促され、応接ソファーに座る。


「洞窟に帝国騎士団(フォルロス)を派遣したのは、ルーファ家当主サムエルの証拠が揃ったからじゃ。ナブム採掘ギルドを押さえようと思ってな」

「そうだったんですね。本当に助かりました」

「助かったのはこちらじゃ。ギルドを襲った岩食竜(ディプロクス)を討伐したのだろう?」

「ええ、その点も後日改めて報告します」

「人の手で作り出されたモンスターか……」

「陛下。あのディプロクスの死骸は、研究機関(シグ・セブン)も合同で研究させていただきたい」

「うむ、当然じゃ。モンスター研究において、研究機関(シグ・セブン)を超える機関はないからの」

「ありがとうございます。それと、調査や研究は極秘事項に指定してください。あのディプロクスは危険すぎます。Bランクモンスターが、与える食料によって竜種に匹敵するのです。それこそ過去の白狂戦士(ハイバーサーカー)をも凌駕するかもしれません。未だにはびこる犯罪組織や、場合によっては国家の兵器にもなり得ます」

「それほどか……。分かった。箝口令を敷く」

「ありがとうございます」


 メイドが入室し、優雅に紅茶を淹れてくれた。

 その仕草はさすがの一言だ。


「今回の始末じゃが、ナブム洞窟ギルドは解体する。そして帝国資源局(ウィシュハ)の人員を総入れ替えし、新たな組織を作り上げる。ルーファ家は断絶じゃ。当主のサムエル・ルーファは死罪。関わった上層部の者も全員死罪。末端は罪に応じた罰を与える」

「はい。厳正な処置かと」


 帝国司法に口を挟むことはできないため、ワイズの死罪については分からない。

 司法に委ねるだけだ。


「関わっていた暗殺者ギルドはどうされますか?」

「難しい問題じゃ。あの組織は国家が絡むことも多く、裏の世界とはいえ歴史がある。シド様も知っておるじゃろう。どの国にも属さず、どの国にも存在する。国家の黒い部分を暴いてしまう恐れもある。もし本気で潰すとなると、世界会議(ログ・フェス)の議題にせねばならぬのじゃ」

「そんなに難しい組織なんですか?」

「うむ。そうなのじゃ。歴史ある国家は必ず関わっておる。ここだけの話、王家の血なぞ闇じゃ。しかし、ラルシュ王国は一切関わってないじゃろう? アルはどうしたいのじゃ? 今の世界はアルの意見が通るぞ」

「え? そ、そんな、俺ごときの意見なんて通りませんよ。ですが……暗殺者ギルドは解体したいと考えております」

「ふむ。では次回の世界会議(ログ・フェス)で議題にするのもいいじゃろう。アルも帰国したら、シド様に相談してみるが良い」

「分かりました」


 紅茶と一緒に出されたスイーツを口にする。

 驚くほど美味い。

 これはお土産にいいかもしれない。

 あとでさっきのメイドに聞いてみよう。


「ところで、アルの帰国はいつじゃ?」

旅する宮殿(ヴェルーユ)の迎えが来るそうです。恐らく明日の夕方には到着するかと思われます」

「では今日も宿泊か。どうせなら明日も泊まっていくが良い。旅する宮殿(ヴェルーユ)で就寝できるとはいえ、クルーにも休息は必要じゃろうて。全員歓迎する」

「いいのですか? ありがとうございます。では、お言葉に甘えて明後日の帰国とします。あ、そうだ。恐らく今日中に始祖たちが皇城へ来るはずです。彼らは皇城へ勝手に侵入してくると思うのですが……」


 ナブム洞窟で三柱と別れた。

 ウェスタードは自ら飛行して帰るだろう。

 エルウッドとヴァルディも自分で帰れるのだが、きっと旅する宮殿(ヴェルーユ)に乗りたがるはずだ。


「偉大な神じゃ。我らの力が及ぶものではない」

「ありがとうございます」


 シルヴィアが珍しく満面の笑みを浮かべた。

 年齢は五十代と聞いているが、帝国の女性は若く見えることで有名だ。

 シルヴィアも三十代に見える。


 紅茶を口に含むシルヴィア。


「それにしても、ラルシュ王国に持っていかれた人員が痛いのう。特にユリアは大きな痛手じゃった。ユリアがいたのならば帝国資源局(ウィシュハ)を任せたかったのじゃがのう」

「そ、それは……」


 俺は何も言い返せない。


 ラルシュ王国の宰相であるユリアは帝国議会の元議員だった。

 帝国政治の不正を追求し、賄賂まみれだった議会を一掃。

 唯一皇帝に意見を言える女傑と恐れられていが、敵も多く命の危険があり、シドが冒険者ギルドにスカウトしたという逸話を持つ。


 今ではラルシュ王国の政治を担い、シドの不老不死も知っているほどの最重要人物の一人だ。

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