第378話 戦いの報告
翌朝の早朝、俺たちラルシュ王国のメンバーはフォルド帝国の首都サンドムーンに向かって出発。
ヴィクトリアが乗船する女神の六翼も一緒だ。
クロトエ騎士団は事後処理のため、現地に残っている。
昼前にはサンドムーンに到着。
皇城内の空港に着陸すると、マルコとアガスはそのまま旅する宮殿の点検整備に入った。
俺、レイ、リマ、ウィル、エルザ、マリンは豪華なひときわ応接の間に案内され待機。
そこでヴィクトリアと合流した。
俺とレイは部屋の中央にあるソファーに座る。
レイの隣に座るヴィクトリアが、レイを心配そうに見つめていた。
「レイの体調は大丈夫なの?」
「ええ、心配かけたわね。もう大丈夫よ。ありがとう」
エルザが淹れた紅茶を飲みながら、シドたちの帰りを待つ。
「そうだ。冒険者ギルドに伝言を頼みたいんだ。城の執事を呼んでもらえるかな」
「かしこまりました」
ヴィクトリアのメイドであるマリアがお辞儀をした。
部屋を出ようとしたところで、ウィルが席を立つ。
「アル様、自分が行きます。ギルドには顔が利くので直接伝えますよ」
「え! いいの! 助かるよウィル」
ウィルがこの戦いに参加していて驚いたが、今後はラルシュ王国で働くことになったと聞き、さらに驚いた。
ウィルは俺を冒険者に誘ってくれた人物でもある。
白紙の紙に用件と国王のサインを記入。
それをウィルに手渡す。
「ウィル、俺の名前を出していいから、本部長のリチャードへ急ぐように伝えて」
「かしこまりました」
その様子を見ていたリマが立ち上がる。
「ウィル! アタシも行くよ!」
ウィルとリマが部屋を出た。
二人とも数少ないAランクの中でも、トップレベルの実力を持つ冒険者だ。
「ねえレイ。ウィルって相当な達人でしょ?」
「そうよ。双剣使いとして世界最高ね。昔は私とパーティーを組んでたもの」
「ウィルの移籍は問題にならない?」
ラルシュ王国は軍隊の保有を制限されている。
ウィルの参加は間違いなく、ラルシュ王国の戦力向上となるだろう。
他国から苦情を言われるかもしれないし、場合によっては許可されない可能性もある。
俺たちの話を聞いていたヴィクトリアが、静かに紅茶のカップを手に取った。
「アル、その点は私がフォローするから大丈夫よ」
「そうなんだ。ありがとうヴィクトリア」
「うふふふ、いいのよ。いつもお世話になってるもの」
ヴィクトリアが笑顔を浮かべながら紅茶を口にする。
「それにしても、本当にラルシュ王国は人材が集まるわね。全く……」
「でもイーセ王国とは規模が違うじゃん。国力は雲泥の差でしょ」
「それはそうよ。イーセは千二百年の歴史がある大国なのよ? でも建国数年の新興国に抜かれそうだけどね。皆ラルシュに行ってしまうわ。はああ、困ったものです」
ヴィクトリアが意地の悪い表情で、レイに視線を向けた。
「私はただアルと結婚しただけだけよ」
瞳を閉じ紅茶の香りを楽しむレイ。
ヴィクトリアの嫌味にも全く動じない。
「私もラルシュに行こうかな。アルの第二夫人にしてもらうの。いいでしょ?」
「ダ、ダメだって!」
後ろで控えてるエルザとマリン、マリアの冷たい視線が痛かった。
それからしばらくすると、ゴドイム大橋に滞在していたフォルド帝国の五色の月虹、クリムゾン王国の神々の詩、エマレパ皇国の獅子の双翼、そしてデ・スタル連合国の銀灰の鉄鎖が帰還した。
――
「シド、そっちは大丈夫だった?」
シドが応接の間に入ってきた。
「はい陛下。陛下が出発された後はキルス陛下指揮の元、夜には白狂戦士の進軍を止めることができました」
「そうか……」
進軍を止めるということは、全滅させたということだ。
「白狂戦士たちは、ゴドイム大橋を渡ったデ・スタル連合国側に埋葬して祈りを捧げております。ウルヒ陛下の埋葬はノルンも手伝ってくれました」
「ノルンは?」
「銀灰の鉄鎖にいます。戦争責任を全て負うと言っています」
「それに関しては、各国へ寛大な処置をお願いするつもりだよ」
「ノルンがすでに補償案を考えています。デ・スタル連合国の全てを献上するようです」
「そうか……。これからその話し合いになるだろう」
シドと話していると、部屋をノックする音が聞こえた。
「アル様、レイ様、ヴィクトリア様。これより会議を始めます」
「分かった」
執事に案内され会議室へ移動。
部屋に入ると、シルヴィア、ロート、キルスが円卓についていた。
そして、ノルンもいる。
「ノルン……」
ノルンは天板の一点を見つめていた。
メイドが紅茶を淹れ終わると退室。
キルスが手を挙げた。
「皆様、お疲れのところ恐縮です。さっそくですが、各地の報告と今後について擦り合わせを行いたいと思います。まずはゴドイム大橋の状況をお伝えします」
ゴドイム大橋は二十万人が全滅。
連合軍の死者は三千人あまりだそうだ。
そして、現在も連合軍により白狂戦士の埋葬作業が行われているとのこと。
続いてヴィクトリアが挙手。
「ビオル湿原では約三千頭のモンスターを討伐。クロトエ騎士団の死者は約百人と、想定よりも大幅に少ないです。これはほとんどアル陛下とレイ王妃が討伐したためです。現在、事後処理を行っております」
ヴィクトリアに続き俺も挙手した。
「帝国の冒険者ギルドから、解体師をビオル湿原へ派遣するように手配しました。数百人の解体師で作業し、素材は各国で分配します」
ウィルに伝言したのは解体師の手配だ。
ギルマスのオルフェリアはまだ動けないため、国王の権限を使わせてもらった。
モンスターの素材は貴重だ。
放置しておくと人が殺到し、盗難や争いが起こる可能性がある。
大まかな報告が終わり、ここから戦争賠償など今後について詰めていく。
「皆に謝罪する」
ノルンが立ち上がり頭を下げた。
広がる静寂。
ノルンはすでにゴドイム大橋で謝罪していたが、改めて公式の場で謝罪した。