第372話 アルの戦い
白狂戦士の投石が続く。
威力は凄まじく、味方に当たろうが関係ない。
俺は剣で叩き落としながら走る。
俺の後方でウェスタードが咆哮を上げると、放たれた投石が砕け、白狂戦士たちが倒れる。
俺は紅炎鎧の効力で咆哮は無効だ。
「いいぞ! ウェスタード!」
だが、白狂戦士たちは、倒れた仲間の身体を踏みがら突進してくる。
首を落とさないと死なない白狂戦士は、倒れても起き上がり俺めがけて突進してくる。
「アル・パートだ! 俺が相手だ!」
俺は大声を上げ、白狂戦士を引きつける。
眼前に迫った白狂戦士の首に向かって、左から右へ大きく剣を振った。
氷竜リジュールを葬った斬撃だ。
一気に二十人の首が飛ぶ。
「どうした! 世界と戦うことが望みだろう! かかってこい!」
俺が剣を振ると数十人の首が飛ぶ。
それでも白狂戦士は俺に襲いかかる。
すかさず首を切り落とす。
ゴドイム大橋の横幅は二十メデルトだ。
地の利はこちらにある。
俺は一人も抜かせないつもりだった。
大量の血を浴びようと、進軍の速度と圧力に負けぬように、ただひたすら剣を振る。
斬った相手の顔をしっかり見つめ、一人一人の罪を背負う。
「アル・パートはここだ! 全力でかかってこい!」
剣を振る。
九千メデルトの地でツルハシを振り続けたように。
◇◇◇
ウェスタードの背後に控える三将軍と精鋭百騎。
帝国騎士団団長デッドが長剣を抜き、コート騎士団団長のイアンは長槍を構え、皇軍大将軍グレイグが両手剣を握る。
「ほ、本当に人間なのか?」
「あれが噂に聞く三体の竜種殺しか」
「いや、そんな生易しいものではない。今のアル陛下は鬼神だ……」
突撃からしばらく経過するが、白狂戦士はただの一人もアルを突破できない。
もちろんウェスタードのフォローもある。
前方に向かって猛烈な咆哮を上げると、数百人単位で白狂戦士が倒れ込む。
首を落とさない限り死なない白狂戦士のため、すぐに起き上がるが、アルにとっては十分な時間だった。
僅かな隙で首を落とす。
すでに一万人は斬っただろう。
ゴドイム大橋の灰硬石が血に塗れ、滴り落ちる血でモルシュ河まで赤く染まっていた。
「まさか……陛下一人で」
「それはない! 二十万だぞ! 陛下も人間だ。疲労がくる」
「うむ。我らが油断してはならぬ」
三将軍はアルから一瞬たりとも目を離さず、武器を構えていた。
◇◇◇
「はあ、はあ」
二十万の大軍かつ、身体能力が異常なほど底上げされた白狂戦士が相手だ。
俺は最初から全力を出している。
体力だけはあると自負しているが、呼吸が乱れてきた。
白狂戦士は素手の者たちもいれば、鎧を纏い武器を持つ者もいる。
それが厄介だった。
時折凄まじい剣撃を見せる白狂戦士。
デ・スタル連合国の犯罪組織で編成されたという鉄鎖の戦士だろう。
鎧には鉄鎖と薔薇の紋章が見える。
鉄鎖の戦士たちの荒々しい攻撃で、俺の体力は削られていく。
だが時間をかけてはいられない。
一撃で数十人を斬る。
「はあ、はあ。嘘だろ!」
長さ十メデルトほどの大木が見えた。
巨体の鉄鎖の戦士が丸太を抱えている。
「あ、あんなものまで武器にするのか」
俺の頭上に振り下ろされる大木。
後方へステップするつもりが、地面に倒れ込んだ白狂戦士が俺の足を掴んでいた。
「くそ!」
頭上で両手を組み、防御の姿勢を取る。
「グガアァァァァアアァァァァ!」
頭に直撃するかと思われた大木が消え去り、丸太を掴んでいた鉄鎖の戦士の上半身も消滅。
ウェスタードの咆哮を超至近距離で浴びたのだ。
一瞬だけ背後に目を向けると、ウェスタードの姿があった。
「ウェスタード! 助かった! だけど持ち場を離れるな!」
ウェスタードは俺の体力を心配して助けに来たのだろう。
「グガアァァァァアアァァァァ!」
ウェスタードが再度咆哮を繰り出す。
俺は紅炎鎧の影響でウェスタードの咆哮を無効化できるが、正面にいる百人ほどの白狂戦士の上半身が消滅していた。
さらにその後方にいる白狂戦士が吹き飛ぶ。
「グガアァァァァアアァァァァ!」
「ウェスタード! 無理するな!」
強烈な攻撃ではあるが、全力を出しすぎている。
きっと限度があるはずだ。
今のウェスタードは白狂戦士ではない。
それにウェスタードは、五万人の白狂戦士に拘束された過去を持つ。
「ウェスタード! 無理だと思ったら空に逃げるんだ!」
「グガアァァ!」
「ダメだ! 命令だ!」
今や信頼する仲間となったウェスタードを失うわけにはいかない。




