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第371話 突撃

 日が昇る前には起床。

 俺は銀灰の鉄鎖(スタル・ヨール)内の一室を利用していた。

 準備を整え、ウェスタードの血液で漆黒に変色した紅炎鎧(ファラム)を装備。


「一度は折れた紅竜の剣(イグエル)だけど、今回は極限まで使うよ。最後まで……頼むな」


 これまで何度も危機を乗り越えてくれた紅竜の剣(イグエル)を腰に吊るし、銀灰の鉄鎖(スタル・ヨール)内の研究室へ移動。


「シド、行ってくるよ」

「アルよ。頼んだぞ」

「もちろんだ。すぐに終わらせてレイの元へ行く」

「私たちはここの兵士分の新薬を用意する」


 死の病に関しては、白狂戦士(ハイバーサーカー)化しているため感染はない。

 だが、念の為に人数分の新薬を用意するそうだ。


「ア、アルよ……」

「ノルン、大丈夫だ。俺たちがここで止めるよ」


 シドとノルンが研究を続けたことで判明したが、一ヶ月近く白狂戦士(ハイバーサーカー)状態が続いたため、ウェスタードの咆哮でも戻れず、当初の目的を果たすだけの存在となるそうだ。

 それはただひたすら進軍し、破壊することだった。


「た、頼むのじゃ」


 ノルンが頭を下げる。


「全てが終わったら、ノルンは罪を問われることになる。だけど俺も一緒に償うよ」

「すまぬ。じゃが儂のことは大丈夫じゃ。未来ある若者の世話にはならぬ」

「何言ってるんだよ。ノルンはもう仲間だよ。それに、行くあてもない老人を放おっておけないって。アハハ」

「……儂にだって考えはあるのじゃ」

「そうか。そうだよな。まあ無理強いはしないよ」


 ノルンの肩に手を置く。


「後は頼んだよ」

「儂が言えたことではないが、白狂戦士(ハイバーサーカー)化した鉄鎖の戦士(ブルバス)暗黒騎士団(マノウォル)は人を遥かに超えている。強いぞ。アルよ……死ぬな」

「ああ、もちろんさ。じゃあ行ってくる」


 銀灰の鉄鎖(スタル・ヨール)を降りると、全将軍が待機していた。


「お迎えに上がりました、アル陛下」


 帝国騎士団(フォルロス)団長デッドが声を上げると、全員が敬礼。


「ありがとうデッド団長。皆もありがとう」


 将軍たちと挨拶を交わし、本部へ案内された。

 いくつかの書類に目を通しているとキルスが入室。

 

「アルよ。斥候からの連絡が来たぞ。間もなくだ」

「分かった。軍の準備は?」

「完了している」

「じゃあ、ウェスタードと橋の中央へ行くよ」

「黒竜……ウェスタードは大丈夫なのだろうな?」

「もちろんさ」

「そうか。始祖すら従えるお前だ。信じよう」


 俺が二柱の始祖を従えていることは周知の事実だった。


「そうだキルス。こっちが片付いたら、俺はすぐにレイの元へ行くよ」

「うむ、無理するなよ」

「ああ。事後処理は任せていいかな?」

「もちろんだ」


 俺は立ち上がり、将軍たちに視線を向けた。


「皆、生き残ることだけを考えて」

「ハッ!」


 本部を出て口笛を鳴らす。

 すぐに漆黒の竜が上空から舞い降りてきた。


「ウェスタード。橋の中央で白狂戦士(ハイバーサーカー)を迎え撃つ」

「グゴォォ」


 ウェスタードといえども、白狂戦士(ハイバーサーカー)化した五万人の鉄鎖の戦士(ブルバス)暗黒騎士団(マノウォル)には敵わなかったそうだ。

 行動が制限される最も深き洞窟(エルサルド)内ではあったが、拘束されウェスタード自身も白狂戦士(ハイバーサーカー)化された。

 ウェスタードにとっても苦い経験だろう。

 だが今回は、その四倍もの人数を相手にする。


「ウェスタード。いくら君でも無理するなよ?」

「グゴォォ」

「じゃあ行こう」

「グゴォォ」


 俺はウェスタードの背に乗った。

 巨大な翼が四回羽ばたいただけで、ゴドイム大橋の中心地点に到着。

 背中から飛び降り、紅竜の剣(イグエル)を抜く。

 そして呼吸を整えると、遥か前方で砂埃が立ち上がった。


「来るぞ」


 前方から角笛が鳴り響く。

 襲撃の知らせと同時に、乗馬した数人の斥候たちが全速力でこちらに向かって馬を走らせる。


白狂戦士(ハイバーサーカー)の襲撃です!」

「良くやった! そのまま下がるんだ!」

「ハッ! ありがとうございます! 奴らは投石してきます! その威力は尋常ではありません!」

「分かった!」


 何人かは頭から血を流していた。


 白狂戦士(ハイバーサーカー)が橋の対岸に姿を現す。

 ゴドイム大橋の全長は三キデルトだ。

 その中心地に立つ俺との距離は、まだ一キデルト以上ある。

 だが、すでに白狂戦士(ハイバーサーカー)は投石を始めており、俺の眼前で石が転がっていた。


「この距離で届くのか」


 残りの距離が五百メデルトともなると、雨のように石が降る。

 俺の数十メデルト後ろで構えるデッド、イアン、グレイグの三将軍と配下の精鋭たちは、盾を取り出し投石を防ぐ。

 盾を持たない俺は剣で打ち落としていたが、ウェスタードが翼で俺の頭上を覆ってくれた。


「ありがとうウェスタード」

「グゴォォ」


 放物線を描いていた投石が、徐々に直線になる。

 凄まじい威力で、これだけでも小都市の城壁なら破壊できるだろう。


「将軍たち! 耳を塞げ!」


 俺は背後の三将軍に指示を出す。


「ウェスタード!」

「グガアァァァァアアァァァァ!」


 ウェスタードに合図を出すと、前方に向かって咆哮を上げた。

 空中を飛ぶ石が、ウェスタードの咆哮で粉々に砕け散る。


「ウェスタード! ここで壁となるんだ!」

「グゴォォォォ!」

「三将軍! ウェスタードの背後で戦うんだ!」

「ハッ!」


 もう三百メデルトまで近付いていた白狂戦士(ハイバーサーカー)に向かって、俺は全速力で走り出す。

 白狂戦士(ハイバーサーカー)たちも、俺の姿を認識したようで突撃してきた。

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