表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
372/414

第359話 作戦と呼べぬもの

 翌日、帝都から飛空船が次々と出航していく。


 連合軍は二手に別れている。

 一つはキルス率いる三国の精鋭。

 香辛料の道(アルシッド)のゴドイム大橋へ向かい、二十万人にもなる白狂戦士(ハイバーサーカー)の国境超えを阻止する。


 コート騎士団の蒼き盾騎士(フォルーザ)二千人。

 皇軍の砂漠の獅子(デルソル)三千人。

 そして、帝国騎士団フォルロス二万人。

 総勢二万五千人の移動である。


 クリムゾン王国の旗艦神々の詩(グローリー)と三十五隻。

 エマレパ皇国の旗艦獅子の双翼(マルティラ)と四十隻。

 そして、フォルド帝国の旗艦五色の月虹(スペ・トルム)と四十隻。


 帝国騎士団フォルロスは二万人もいるため、何度も往復し輸送する必要がある。

 帝都からゴドイム大橋までは、大型船サンシェル級であれば半日程度の距離だ。


 軍を率いるキルス以外も、各旗艦にはロート王とシルヴィア皇帝が搭乗。

 レイは止めたが、世界の存亡をかけた戦いを見届けると言って聞かなかった。

 当然のように、ファステルも獅子の双翼(マルティラ)に乗り込む。


 連合軍で最後の出発となる獅子の双翼(マルティラ)

 キルスは、見送りに来たレイと固い握手を交わす。


「レイ! 何かあったら飛空船で連絡する」

「ええ、頼んだわキルス」

「それでは武運を祈る!」

「あなたも! 生きてまた会いましょう!」


 獅子の双翼(マルティラ)は、ゴドイム大橋に向かって出航した。


 もう一つの軍が、レイ率いる対モンスター部隊。

 こちらはリマとウィル、クロトエ騎士団の討伐隊が千五百人だ。

 ラルシュ王国の旗艦旅する宮殿(ヴェルーユ)と、イーセ王国の旗艦女神の六翼(リリオン)と三十隻。


 レイが出航の指示を出していると、女神の六翼(リリオン)の前に一人の美しい女性が現れた。

 ヴィクトリア女王だ。

 騎士団の鎧を着ているヴィクトリア。


「ねえ、ヴィクトリアがなんでついてくるの? 遊びじゃないのよ?」

「私がクロトエ騎士団の指揮を取るのよ」

「は? 何言ってるのよ。ジル・ダズ! 止めなさい!」


 レイは騎士団団長のジル・ダズを睨みつける。

 だが、それに慣れているジル・ダズであった。


「ハッ! お言葉ですがレイ陛下。クロトエ騎士団の最高責任者は国王陛下でございます。まさか元団長であられるレイ陛下がお忘れだとは」

「あのねえ。それは形式上でしょう? 普段なら認めたかもしれないけど、今回はダメよ。ヴィクトリアの命がかかってるのよ?」


 ジル・ダズが、いつになく真剣な眼差しをレイに向ける。


「レイ様。承知しております。それでも、陛下たっての希望でございます。レイ様より賜った騎士団長の剣(クロトエ・ル・シャン)に誓って、我が騎士団が陛下をお守りします」


 ヴィクトリアもレイに向かって頭を下げた。


「レイ姉様、お願い。この戦いは私も見るべき戦いよ。絶対に邪魔はしない」


 ヴィクトリアの言い分も理解できるレイ。

 各国が協力して、これほどの戦いに挑むなぞ過去に例を見ない。

 王としての責務を感じているのだろう。


「もう! 分かったわ! でも今回は本当に過酷よ。弱音は吐かせないからね」

「レイ!」


 ヴィクトリアがレイに抱きついた。


「ありがとう!」


 レイを説得したヴィクトリアは、女神の六翼(リリオン)に搭乗。

 船団はビオル湿原に向かって出向した。


 今回の作戦に参加しなかった世界の理と条約(ログ・ロック)加盟国のジェネス王国とエ・ス・ティエリ大公国からは、大量の物資が届いており、各部隊に分配している。

 兵糧は十分ある。

 さらに飛空船で補給も容易だ。


 飛空船の登場は戦に革命をもたらした。

 特に大規模な戦いでは、それが顕著に現れている。


 各国は競うように飛空船を建造。

 それを一手に掌握するラルシュ王国は、今や世界の覇権を握ったと言っても過言ではない。

 だが、アルもレイもそれを望まない。

 ラルシュ王国が中心となり、世界の理と条約(ログ・ロック)加盟国はこれまで以上に和平交渉に力を入れていた。


 ――


 太陽が傾き、徐々に空が赤く染まる頃、レイたちはビオル湿原に到着。

 即座に軍本部を設営し、分隊長以上の約二百人が集合した。

 軍議の開始だ。

 レイは全員を見渡す。


「時間がないので自己紹介は割愛する。だけど、私はここにいる全員の名前と顔を覚えているわ。信頼する仲間だったもの」


 そう言うと、レイはここにいる討伐隊の分隊長たちの顔を見ながら、一人一人フルネームで呼んでいった。


「私は退団した身だけど、またこうして皆と戦えることを誇りに思う」

「ハッ!」


 全員が寸分の狂いもなく敬礼する。


「も、もう全員の心を掌握してしまった。本当に恐ろしい人……」


 ヴィクトリアが誰にも聞こえない声で呟いた。


 レイはジルに合図を贈る。


「ジル・ダズ団長。よろしく頼む」

「ハッ! それでは作戦を伝える」


 ――


「そ、それは危険すぎます!」

「私たちが前線に立ちます!」


 この場で初めて作戦を聞いた分隊長たちがざわめく。

 なぜならば、作戦と呼べるようなものではなかったからだ。

 一人の分隊長が挙手した。


「お、お言葉ですが! そ、その、レイ様が……た、倒れてしまったら……」

「シュールス分隊長、意見ありがとう。今回は元々絶望的な戦いだったのよ。でも、オルフェリアやマルコの情報で光明が見えたの。僅かな可能性だとしても、賭ける価値はあるのよ。それにモンスターの戦いはどうするのかしら?」

「しょ、少数精鋭で対応いたします」

「その通りよ。大部隊では不利になることが多いわ。だから最高戦力である私が最前線に立つの。もちろん多勢に無勢は変わらない。皆のフォローが必要よ」


 意見を出した分隊長を頭ごなしに否定せず、しっかりと説明するレイだった。

 

 作戦はこうだ。


 満月の日に現れるモルシュ河の天然の橋。

 全長は三キデルト。

 最も道幅が狭くなる河の中心地は、横幅が十メデルト。

 そこにレイが立つ。

 左右をリマとウィルが守る。

 背後にはジルと討伐隊隊長デイヴ、そして三百人の騎士を配置。

 残りの千二百人は陸地で待機。

 討伐隊は三百人ずつ、五組に分けローテーションする。


 またモルシュ河を上空から渡るモンスターがいた場合には、待機組が矢で迎え撃つ。

 ただし深追いはしない。

 帝国内に入ったとしても、冒険者の特別クエストで順次討伐していく。


 つまりレイを中心に、戦闘能力が高い個人が最前線で、ただひたすらモンスターを迎え撃つという作戦だ。

 いや、もはや作戦とも呼べるようなものではないが、これが最も確実な方法だった。


 実はキルスと昨日行った軍議でも、大反対だった内容だ。


「アルならこうするでしょう?」


 だが、この一言でキルスも認めざるを得なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ