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第37話 ヴィクトリア姫殿下

 王城の客室で窓の外を眺める。

 月明かりに照らされた庭園がとても綺麗だ。


 先日、王都に着いたばかりなのに、俺はなぜ国王に謁見して王城に泊まっているのだろう。

 最近は信じられないことばかり起こる。


 それにしても、騎士団に推薦枠があるとは知らなかったし、自分がその枠に入ることにも驚いた。

 だが、試験は受ける必要がある。

 もちろん全力で挑むつもりだ。


「ん? 誰だろう?」


 扉をノックする音が聞こえた。

 出てみると、廊下にメイドが二人立っている。

 そして、その後ろにいる綺麗なドレスを着た女性。


「ヴィクトリア姫殿下!」


 二人のメイドとヴィクトリア姫殿下が部屋に入ってきた。

 何もおもてなしができないと焦ったが、一人のメイドが当たり前のように紅茶を用意。


 姫殿下は先程の謁見時とは違い、薄桃色のワンピースドレスを召していて、とても可愛らしく見える。

 謁見用のドレスとは違い、これが姫殿下の好みの服装なのだろう。


 もう一人のメイドが椅子を引き、姫殿下が席につく。

 俺はテーブルから三歩ほど離れて直立している。


「アルも座って」

「ハッ! かしこまりました」


 恐れ多いが、姫殿下の正面に着席。

 失礼だとは思いつつ、姫殿下に視線を向けた。


 ウェーブのかかった金色の長髪。

 瞳の色は薄赤色で、透き通るような白い肌。

 これほどまでの至近距離で、姫殿下の顔を見ていいのだろうか。

 だが、姫殿下は気にしてない様子だ。


「アル、あなたはレイに剣を教わったのよね?」

「左様でございます」

「……ねえアル、普通に話して?」

「い、いや、でも」

「公式の場以外は普通に話して。それとも命令する? 普通に話をせよと」

「わ、分かりました」

「レイは誰にも剣を教えないことで有名だったのに、なぜあなたは教わることができたの?」

「俺にも分かりません……」


 レイさんが俺の家へ来ることへの交換条件だったとは言えない。


「そっかー。ねえ、アル。騎士団を受験するのでしょう?」

「はい、先程陛下に推薦枠と仰っていただきました。ただ、もちろん全力で受験します」

「うふふふ、真面目なのね」


 ヴィクトリア姫殿下が美人なのは間違いなのだが、その笑顔は可愛らしく、とても柔らかい印象だ。

 レイさんとは正反対の美人だと思う。


 メイドが紅茶を淹れてくれた。

 これほど香り立つ紅茶は初めてだ。

 カップに口をつける。


「これは! 美味しい紅茶ですね!」

「あら、あなた紅茶が分かるの?」

「い、いえ。ただ、これほどの香りは初めてなので」

「うふふふ、マリアが淹れる紅茶は一番だもの。良かったわね、マリア」


 メイドのマリアさんが、お辞儀をしながら微笑んでくれた。


「アル。あなた騎士団に入団したら、近衛隊を志願しなさい」


 騎士団は王室を警護する近衛隊と、それぞれの地方を守護する十二の隊で編成されている。

 騎士団のエースである一番隊は王都イエソンを守護。

 俺が住んでいるカトル地方は九番隊が守護していた。


「近衛隊ですか?」

「ええ、そうすれば私の警護で指名できるし、私もエルウッドといつでも会えるもの」

「ウォウ!」


 エルウッドが嬉しそうに笑う。


「エルウッドは私の言葉が分かるのかしら?」

「はい、人語を完全に理解しています」

「えー! じゃあ、私エルウッドとお友達になるわ!」

「ウォン!」


 エルウッドがお辞儀をして尻尾を振る。


「か、かわいい!」


 席から立ちエルウッドの頭を撫でる姫殿下。

 こうしてみると、姫殿下も普通の女の子だ。


「し、しかし、俺なんかでは近衛隊は務まらないかと。俺よりも相応しい騎士がいるはずです」

「あなた、初めて剣を持った日にレイと互角だったんでしょ?」

「な、なぜそれを!」

「私とレイはお茶友達なの。こっそり教えてくれたわ」


 確かに引き分けたが、それは試合だからだ。

 圧倒的に経験値が足りない俺は、戦場に出ればすぐ殺されるだろう。


「彼女があれほど嬉しそうに人のことを話すのは初めてだったわ。うふふふ」

「そ、そうだったんですね……」

「ねえ、あなた鉱夫なんでしょ? その話を詳しく聞かせて?」


 しばらくの間、採掘について話した。

 俺の話は通常の鉱夫とかけ離れていると思うが、王族の彼女にとっては刺激的だったようだ。

 時に身を乗り出して熱心に話を聞いてくれた。


「知らないことばかりで、とても楽しかったわ。アル、試験頑張ってね。また会いましょう。エルウッドもまたね」

「ウォン!」


 どうやら予定していた時間よりも遅くなってしまったようだが、姫殿下はとても満足した様子で帰った。

 エルウッドはすっかり姫殿下と友達になったようだ。

 俺は自分の対応に失礼がないかヒヤヒヤしていた。


 そしてその夜、俺は人生初の王城で宿泊を体験した。

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