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第355話 王たちの決断

 予定通り各国の王たちが到着。

 皇城内のひときわ豪華な応接の間を会場とし、会議が開始された。


 世界会議(ログ・フェス)と見間違えるほど、各国の代表が揃っている。

 挨拶を済ませると、レイが場を仕切ることになった。


「これから話す内容は全て事実です。衝撃的ですが、最後まで聞いていただきたい」


 レイは断りを入れ説明を開始。

 あまりに衝撃的な内容のため、何度も話が中断してしまうことを懸念していた。


 デ・スタル連合国の侵攻の理由である死の疫病と、疫病を防ぐ代わりに宣戦布告したこと。

 アルの説得により、ノルンはシドと協力して、死の疫病に効く薬を作っていること。

 アルが黒竜ウェスタードの対応をしていること。

 オルフェリアたちが白狂戦士(ハイバーサーカー)の侵攻を発見したこと。

 また、オルフェリアが冒険者ギルドのマスターに昇格したことも、あわせて報告した。


 レイの予想通り、各国の代表にとって言葉も出ないほどの内容だ。

 しばらくの静寂のあと、キルスが挙手。


「死の疫病は分かった。だが、結局のところデ・スタル連合国の身勝手な行動ではないか?」

「そうね。それは否めないわ。だけど、疫病の蔓延を防いでいるのよ。新薬が完成していない今の状況で、この死の疫病が世界中に蔓延したら対処の方法はない。老若男女無差別に感染していく。世界は終わるでしょう」

「そうかも知れぬが……。それとこれとは話が別だ。進軍が許されるものでもなかろう」

「ええ、それでもノルンが選択できる道は、これしかなかったのよ」


 レイが答えると、シルヴィアが挙手をした。


「通常であれば君主の責任じゃ。しかし、これはもはやノルン一人に負えるようなものではないじゃろう。国家の賠償なども莫大になる」

「ノルンを拘束するのですか?」


 シルヴィアに対し、ヴィクトリアが質問。


「その新薬とやらが完成次第、捕える必要はあるじゃろう」


 シルヴィアが答えた。

 レイが少し間を置き立ち上がる。


「皆様、ノルンの処罰はラルシュ王国に任せていただきたいのです。もちろん全てが終わったあとですが、然るべき処罰を行います。そして賠償含め、各国が納得できるよう努めます」


 レイはノルンの不老不死を隠し通すつもりだった。

 ノルンは間違いなく死罪になる。

 だが、不老不死であるため死なない。

 ノルンの不老不死が公になれば、シドにまで影響が及ぶ可能性がある。

 ノルンの罪は許されないが、その行動は世界を守ることを強調し、各国君主の心象を動かすよう振る舞っていた。


 腕を組みながら話を聞いていたキルスが、レイに視線を向ける。


「ノルンの処遇は全てが片付いてからだな。現在はシド殿といるのだろう? シド殿に危険はないのか?」

「それは大丈夫よ」

白狂戦士(ハイバーサーカー)となった国民は、その新薬で元に戻るのか?」

「まだ分からない。シドとノルンの開発次第よ。だけど、仮に戻ったとしても、狂戦士(バーサーカー)よりも強力な白狂戦士(ハイバーサーカー)は命を消費する。恐らくは……」


 レイは狂戦士(バーサーカー)から世界で唯一、人に戻れた事例だった。

 レイの適応力がある身体ではなければ、間違いなく死んでいたはずだ。

 その経験から、レイは白狂戦士(ハイバーサーカー)から戻った人間に待っているものは死だと考えている。


「新薬が完成しても、白狂戦士(ハイバーサーカー)たちは助からぬか。デ・スタル連合国は事実上の滅亡……。だが、世界へ蔓延する死の疫病を防ぎ、新薬完成の礎になるということか」

「それはあまりに好意的な捉え方じゃな」


 キルスに反論したロート。

 これまで瞳を閉じて沈黙していたロートが、静かに瞳を開く。

 視線は少し下を向いたままだ。


「皆よ、これを美談にするでない。死の疫病を防ぐ代わりに世界と戦うなぞ、身勝手過ぎる。国家としてあり得ぬ」


 全員がロートの発言に対し我に返った。

 君主として情に流されてはならない。

 ロートの圧倒的正論に、レイの思惑する方向へ傾きかけた議論が振り出しに戻った。


 だが、ロートの表情は真逆で、穏やかな表情を浮かべている。


「じゃがのう……儂は分からんでもない。儂の個人的な意見で恐縮じゃが、もし儂がノルンと同じ立場で、国内でどうしようもない死の疫病が流行り、国民が狂戦士(バーサーカー)を選んだら……と考えてしまうのじゃ。ただただ死を待つか、病は治るが狂戦士(バーサーカー)になるか。非常に難しい判断じゃが、国民が望むのであれば儂も叶えてやりたいとは思う。実行するかどうかは別としてな」


 ロートは誰の顔も見ず、うつむきながら独り言のように声を絞り出した。

 そして、顔を上げ全員を見渡す。


「彼奴らは病の蔓延を防ぐかわりに、恨みを持った世界と戦いたいのだろう? 儂らはその礼として、全力で殲滅させてやろうではないか。どうじゃ、若き王たちよ」


 ロートの発言に、皆驚きを隠せなかった。

 最も厳しい対応をすると思われていたロートが、最も人情に訴えるような判断を下したのだ。


「ロート陛下のご意見……私は賛成します。人類最強の私が殲滅させましょう」

「朕もじゃ。全てを飲み込んだ上で、我が騎士団の経験とさせてもらおう」

「私も賛成します。討伐隊の力をお見せしますわ」

「私も賛成ですし、アルも同じ意見です」


 キルス、シルヴィア、ヴィクトリア、そしてレイが賛成。

 これで正式に、白狂戦士(ハイバーサーカー)の侵攻を迎え撃つことになった。

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