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第349話 侵攻ルート

 手続きが終わり離陸した旅する宮殿(ヴェルーユ)

 デ・スタル連合国方面に戻り、上空から狂戦士(バーサーカー)による侵攻状況の調査を開始。


 旅する宮殿(ヴェルーユ)の乗員はオルフェルア、ローザ、マルコ、アガスの四人だ。

 全員で地図を確認しながら、狂戦士(バーサーカー)の侵攻ルートを探る。


「オルフェルアよ。八十万人もの狂戦士(バーサーカー)だろう? 秩序は保たれているのだろうか」


 ローザが疑問を口にした。


「ノルンの命令を聞くと言っていました」

「だとしても、もうノルンの手を離れているし、指揮官もいない状況では進軍などできぬ。この深い森林に入ったら死ぬまで迷うだろう」

「確かにそうですね。デ・スタル連合国の森林は古代種の針葉樹が多く、高いもので五十メデルト以上です。意識もろくにない狂戦士(バーサーカー)状態では迷ったが最後、森林から抜け出せないでしょう。他国への侵攻なのですから、デ・スタル連合国を出国できなければ意味がありません」

「ふむ。となると、街道を進むことが最も確実だろう。命令は街道を進めなどの単純なものじゃないか?」

「街道といえば……香辛料の道(アルシッド)

「そうだな。香辛料の道(アルシッド)はフォルド帝国、イーセ王国、クリムゾン王国を通るぞ」


 香辛料の道(アルシッド)は、大陸を横断する世界最長の街道だ。

 東はデ・スタル連合国、西はクリムゾン王国まで続く。


香辛料の道(アルシッド)を進み、行く先々で都市を破壊していくということですね」

「そうだ。しかも香辛料の道(アルシッド)は、フォルド、イーセ、クリムゾンの首都も通過している」


 オルフェルアとローザの言葉を聞いたマルコが、弟のアガスに視線を向けた。


「アガス、香辛料の道(アルシッド)上空を飛行する。一旦高度を上げよう。数十万の大群だ。ある程度上空からでも見えるはずだ」

「分かったよ兄さん」


 帝都を出発した旅する宮殿(ヴェルーユ)は、香辛料の道(アルシッド)上空を飛行し、東のデ・スタル連合国を目指す。


 ――


 帝都を出発してから一日経過。


 シドが開発した双眼鏡を使い、オルフェルアとローザは地上をくまなく探す。


「ローザさん! あれを!」

「どこだ!」


 オルフェルアが指差す方向に、花の蜜に並ぶ蜜蟻(ミュスト)のような長蛇の列が見えた。


「人の行列です!」

「確かに!」

「あれが狂戦士(バーサーカー)です!」


 ついに狂戦士(バーサーカー)の隊列を発見した。

 上空から見ると、まさに香辛料の道(アルシッド)上をうごめく蜜蟻(ミュスト)だ。


「オルフェルアよ。もしかして、かなり人数を減らしてるのではないか?」


 シドからは、デ・スタル連合国の全国民八十万人が狂戦士(バーサーカー)になったと聞いていた。

 しかし、大群とはいえ八十万人もいるようには見えない。


「そうですね。狂戦士毒(バーサルク)による狂戦士(バーサーカー)は、通常よりも遥かに力を発揮する代わりに寿命を削ってます。体力のない者たちから死んでいくのでしょう」

「ふむ。デ・スタル連合国の人口は八十万人だが、そもそも病で人口が減っていたのだろう。軍隊の人数なんて誇張するしな。この隊列を見ると、二十万人といったところか」

「ええ。それでも首を落とさない限り死なない白狂戦士(ハイバーサーカー)です。一国なんて簡単に落とせるほどの驚異でしょう」

白狂戦士(ハイバーサーカー)?」


 ローザが腕を組み、首を傾げる。


「通常の狂戦士(バーサーカー)と差別化するために名付けました。白狂戦士(ハイバーサーカー)になると、眼球は真っ白に変化します。その状態になると、首を落とさない限り死にません。私はこの目で見ています」

「そうだったな。白狂戦士(ハイバーサーカー)を最初に発見したのは、アルとオルフェリアだったな」

「そうです。アルの百頭斬りの時です」


 以前、アルとオルフェリアが、調査クエストで遭遇した百頭ものモンスター。

 それは当時のノルン達によって、実験として狂戦士毒(バーサルク)に感染させられた狂戦士(バーサーカー)、すなわち白狂戦士(ハイバーサーカー)だった。


白狂戦士(ハイバーサーカー)の軍隊か。確かに一国を落とすことなどたやすいだろう」


 ローザの言葉に全員が息を呑む。

 だがオルフェリアは、すぐに気持ちを切り替えた。

 ここで弱気になっても何も生まれないからだ。


「私たちが最前線です。この情報が世界の命運を分けます。確実に情報を持ち帰りましょう」

「「「はい!」」」


 マルコが地図上の香辛料の道(アルシッド)を指でなぞると、全員が目で追う。


「オルフェルアさん。もし香辛料の道(アルシッド)を進むのであれば、国境超えは一箇所しかありません。モルシュ河のゴドイム大橋です。この進軍は必ずゴドイム大橋を渡るでしょう」


 世界でも有数の大河であるモルシュ河。

 その河幅は数キデルトもあり、デ・スタル連合国とフォルド帝国を分断するかのように流れている。

 そのため、モルシュ河がそのまま国境となっていた。


 ゴドイム大橋は、香辛料の道(アルシッド)上でも五本の指に入る巨大橋だ。

 フォルド帝国側には国境の街ウルオがある。

 オルフェルアが地図上のウルオを指差す。


「最初はウルオを襲うでしょう」

「オルフェリアさん。ここからだと、ウルオまで徒歩で十日です。レイ様に大鋭爪鷹(ハースト)を飛ばしますか?」


 操縦桿を握るアガスが、オルフェルアに問いかけた。


「ハーストは危険です。白狂戦士(ハイバーサーカー)のモンスターに襲われる可能性があります。私たちが確実に伝えなければなりません」

「わ、分かりました」


 オルフェルアの発言を聞いたローザ。

 腕を組み、少し考えながらオルフェルアを見つめる。


「オルフェルアよ。軍隊の侵攻ルートは分かった。モンスターたちはどうなのだ?」


 今やモンスター学の世界的権威であるオルフェルア。

 アルから指示を受けた瞬間から、行動しながらも常にモンスターの進行を分析していた。


「翼を持つモンスターは手の打ちようがありません。ですので、冒険者ギルドの特別クエストとして、発見次第討伐するように連絡しました。その際は報奨金を上乗せします。各国の軍隊にも通達するように手配しています」

「地上を移動するモンスターはどうなんだ?」

「モンスターといえども、河幅が数キデルトで、さらに水深もあるモルシュ河を渡ることは難しいはずです。ですので、モルシュ河を渡る際には必ず浅瀬を進むでしょう」

「モルシュ河の浅瀬といったって、モルシュ河は全長数千キデルトだ。浅瀬の特定は難しいぞ?」


 オルフェルアの言葉を聞いたマルコとアガス。


「モルシュ河の浅瀬か……。特定できるかな」

「アガス、香辛料の道(アルシッド)から北へ約三百キデルトのビオル湿原だよ」

「さすがだよ! 兄さん!」


 運輸大臣として、世界の地形を猛勉強したマルコ。

 アガスはそんな兄を、尊敬の眼差しで見つめていた。

 操縦桿を握るアガスが全員を見渡す。


旅する宮殿(ヴェルーユ)はこのまま北上して、ビオル湿原を目指します」

「アガス、最速で進もう」

「分かったよ兄さん! 全速前進します!」

「了解!」


 オルフェルアが窓の外を眺める。


「待っていてくださいレイ。必ず情報を持っていきます」


 旅する宮殿(ヴェルーユ)は全速力で北上を開始した。

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