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第342話 アルの決意と覚悟

 ノルンが目を閉じ、何やら考え込んでいた。

 それより気になったのが、シドが発した死の病という言葉だ。


「ノルン、死の病って……」


 俺が声をかけると、ノルンが全員を見渡した。

 そして俺の言葉を無視し、視線をレイに移す。


「レイとやら。貴様はニルスを覚えているか?」

「ニルス?」

「使役師じゃ」

「シーク・ド・トロイを使役したニルス・ハンスかしら?」

「そうじゃ。ニルスとロヴィチの二人は、この国で拾ったのじゃ。貴様に組織を潰され、路頭に迷っておったからの」

「私は何も悪くないわよ?」

「無論じゃ」

「それでどうしたの? 確か恩赦になったと聞いたけど」

「ニルスとロヴィチは死んだ。自ら狂戦士毒(バーサルク)を飲んだのじゃ」

「そう……」

「死に顔は満足げじゃったよ」


 続いてノルンはオルフェリアに視線を向けた。


「オルフェリアといったか、解体師や運び屋の差別は儂らが広めたのじゃ」

「そ、そうだったのですか?」

「冒険者ギルドを内側から崩壊させるためにな。じゃがそれほど効果はなかったようじゃ。今となってはその差別も解消されたしのう」


 そして、シドに顔を向けるノルン。


「シドの小僧。貴様の冒険者ギルドには千年もの間、邪魔され続けてきた」

「それは私の知るとことではない」

「もちろんじゃ。古代王国が滅び、儂も拠り所を作ろうと思ってな。じゃが、貴様のようには上手くいかなかった。グハハハハ」


 ようやくノルンが俺の顔を見た。


「アルよ。シドの小僧の言う通り、この国は死の病に侵された。感染したら必ず死ぬ病じゃ」

「なっ!」


 俺もレイもオルフェリアも言葉が出ないほど驚いていた。

 当たり前だ。

 国を滅ぼすほどの疫病なんて初めて聞いた。


 だが落ち着いているシドの様子を見る限り、これまでもあったのだろう。

 歴史に残らなかった病が。


「世界に恨みを持つ儂らじゃ。世界と戦う。それが儂らの意思であり、死にゆく者の希望じゃ」

「な、なんとかならないのか?」

「和解はない」

「違う。宣戦布告のことじゃない。病を治す方法だ。ないのか?」

「……薬がある」

「じゃ、じゃあ、それを使えば!」

「それが狂戦士毒(バーサルク)じゃ。狂戦士毒(バーサルク)を飲めば病は治る。じゃが狂戦士(バーサーカー)になって死ぬ。病で死ぬか、狂戦士毒(バーサルク)で死ぬか。その二択じゃ」

「そ、そんなバカな」


 俺は全てを理解した。

 レイもシドもオルフェリアも理解しただろう。


「どうせ疫病で死ぬのじゃ。であれば、儂の作った薬で狂戦士(バーサーカー)となって暴れて死にたいのじゃろう。世界に恨みを持つ者ばかりじゃからな。貴様とレイとやらは特に恨まれてるぞ。グハハハハ」


 もし俺がデ・スタル連合国の国王で、同じような状況ならどう判断するだろう。

 ノルンの判断も、ウルヒ陛下の希望も理解できるような気はする。

 だけど、俺なら……。

 俺の仲間たちなら……。


「ノルン。もういい。どうせ話し合いは平行線だ。俺はお前たちがどう動こうと関係ない。俺がしたいように動く」

「なんじゃ、貴様に何ができるのじゃ」

「俺は止める! 進軍も病も全部止める!」

「無理じゃ。すでに動き出しておる。この国の者は狂戦士毒(バーサルク)を飲み侵攻中じゃ。狂戦士バーサーカーとなった民も、モンスターも絶対に止まらん。止まる時は死ぬ時じゃ」

「それでもだ! それでも俺は諦めない!」

「グハハハハ。立派じゃのう。じゃが、いくら狂戦士(バーサーカー)とはいえ、貴様に民を殺せるのか? 首を飛ばせるのか! ええ?」


 覚悟はできてる。

 悪魔と言われようが、地獄に落ちようが、俺は自国の民を守る。

 そのために、他国の国民を殺す。

 それが俺の王としての責任だ。


 それに……人を斬る覚悟。

 レイに剣を教わった時に言われた言葉だ。


「できる! だけど、それは最後の選択だ! 俺は最後まで諦めない!」

「小僧に何ができる!」

「やってみなければ分からない! 俺は絶対に諦めない!」


 最後まで足掻く。

 諦めなかったから今の俺があるのだ。


「レイ」

「なあに?」

「少し無理をするかもしれない」

「ダメって言ってもやるんでしょう?」

「そうだ」

「止めても聞かないんでしょう?」

「そうだ」

「じゃあ、何を言っても無駄ね」


 レイが両手を大きく広げ、ため息をつく。


「これから別行動?」

「ああ、俺とレイにしかできないことをやろう」

「本当は離れたくないけど……仕方ないわね。いいわ」

「離れるのは少しだけさ。それに、気持ちはいつだって一つだよ。俺はレイと出会ったからここまで来れたんだ。君は俺の師匠で、最愛の人。俺の人生は最後までレイと……、いやその先も、永遠に君と一緒だよ。愛してるレイ」


 シド、オルフェリア、ノルンがいるが、俺は構わずレイに口づけした。

 しばらく抱き合う。


「レイ。俺の夢は君と冒険に出ることだ」

「アル……」

「だからさ、絶対に戻ってくるよ」

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