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第320話 砂漠の生態系

 アフラから目的地までは六千キデルト。

 ノンストップで飛行しても三日はかかる。

 移動だけで往復六日だ。

 今回は俺一人なので、三日間ノンストップの飛行は難しい。

 何度か睡眠を挟む必要がある。


 予定では二週間のうち、十日を移動に当て、残りの四日で古代遺跡を探索するつもりだ。

 とはいえ、今回は遺跡を見るだけなので、滞在日数は一日か二日の予定にしている。


 飛空船がアフラ火山を超えた。

 眼下に広がるのは、溶岩が冷え固まった黒灰色の岩盤地帯。

 過去大噴火を起こしたアフラ火山から西へ流れ出た溶岩は、数百キデルトも広がった。

 もしこの溶岩が逆の東方面に流れていたら、今のラルシュ王国はなかっただろう。


 そして、この溶岩地帯を越えると、世界最大の砂漠に入る。

 東西に四千キデルト以上、南北に千キデルトと、大国の領土と同じ広さだ。


「こ、これが世界最大のクルシス砂漠か」


 上空から見ても見渡す限り砂漠が広がっている。

 東西南北全ての方角が砂漠だ。


「す、凄い。広いなんてものじゃない」


 ここにも始祖と竜種は存在するそうだが、今回は関わらず通過する。

 それにあまりに広大なため、遭遇する確率は限りなくゼロだろう。


 俺は王の赤翼(ラルクス)の高度を三十メデルトまで下げた。

 砂漠の様子を見たいからだ。

 この高さだと風紋がよく見える。


 地平線の彼方まで広がる風紋。

 それはまるで、地上に描かれた美しい絵画のようだった。


「あれは砂潜竜(サンキロス)だな。空から見ると結構いるんだ」


 視力が良い俺は、砂から出てるサンキロスの眼球が目視できる。

 サンキロスは砂漠や砂丘に生息するCランクモンスターだ。

 砂から大きな眼球を出し、近くを通る動物や小型モンスターを伸びる粘着質の舌で絡め取る。

 捕獲後は、砂の中を泳いで移動していく。

 俺は過去クエストで捕獲したことがあった。


「ん、あれは……」


 砂の中から、一本の巨大な柱が飛び出ている。

 三メデルトはあるだろう。


「砂漠に柱?」


 何かの遺跡かと思ったが、俺はすぐに思い出した。


「セ、砂泳角竜(セントラウス)か! 凄く立派な角だ」


 だが、角は一旦砂漠に潜ってしまった。


「消えた?」


 一瞬の静寂の後、砂漠が爆発し、巨大な物体が地上へ飛び出す。

 セントラウスが巨大な口でサンキロスを捕獲していた


「凄い! セントラウスの捕食シーンだ! オルフェリアに教えたら喜ぶぞ!」


 砂漠の王と呼ばれるAランクモンスターのセントラウス。

 以前砂に潜って移動している姿を見かけたことはあったが、全身を見るのは初めてだ。

 しかも捕食シーンを見られるなんて貴重な体験だ。


「オルフェリアの気持ちが分かるような気がするな」


 幼少期からモンスター事典を読んで育ったオルフェリア。

 今ではモンスター研究の最先端である研究機関(シグ・セブン)の局長まで上り詰めた彼女だが、未だにモンスターを見ると目を輝かせる。


 モンスターといえども、生態系を作る上では欠かせない生物だ。

 人間を襲うこともあるが、それは捕食者として自然の行動だと思う。

 近頃の俺は、人間も、動物も、モンスターも自然の一部と考えるようになっていた。


 その後も俺は、上空から砂漠のモンスターを探していた。


 ――


「今日はこのまま上空でキャンプだ」


 日が暮れ、月が顔を出す。

 この飛空船は夜間飛行も可能だが、俺は睡眠を取ることにした。


 この王の赤翼(ラルクス)旅する宮殿(ヴェルーユ)は、空中で停泊が可能だ。

 シドとトーマス兄弟が開発した新機能で、この二隻にしか搭載されていない特別な機能だった。

 振臓(アンプ)による空気の振動を細かく変化させ、上昇と下降の気流、前進と後進の気流を相殺することで長時間の停止が実現。

 説明されても、俺には全く意味が分からなかった。


 船体を空中で停止。

 さらに地上へ錨を下ろす。


「空中で停泊なんて信じられないよな。ラルシュ工業の技術は本当に凄い」


 王の赤翼(ラルクス)は竜種の素材を使用しているため、モンスターが近付くことはないだろう。

 急激な天候の変化さえなければ問題はないはずだ。


 キッチンへ移動し調理を開始。

 といっても、保冷庫から凍ったシチューを取り出し、火で温めて解凍しただけだ。

 保冷庫の温度は二種類設定されており、凍ってしまうほどの冷凍室と、冷やしておく冷蔵室がある。


 俺は冷蔵室から野菜を取り出しサラダを作った。

 あとは乾燥パンを切って完成。

 冷たい飲料も用意。


「保冷庫は便利だな。こんな場所でもエルザの料理を食べられるんだから」


 始祖二柱にも食事を出した。

 食後は珈琲を飲みながら地図を確認。


「今日一日で千五百キデルトは進めたかな。明日はもっと距離を稼ごう」


 何かあった時にすぐ対応できるように、操縦室のソファーで就寝。


 翌日は日の出前から飛行開始。


 地図と羅針盤を確認しながらひたすら前進。

 太陽が顔を出し、頭上を超え、地平線に沈む。

 それでもまだ砂漠地帯を飛行している。


「一体どこまで続いてるんだ」


 この砂漠が大陸の最西端まで続いていることは知っているが、実際に体験するとその大きさに驚くばかり。

 さすがは世界最大のクルシス砂漠だ。


「レイにも見せたかったな」


 日没を迎えたが、この日は限界まで進むことにした。

 月が頭上に来た深夜、眠気が限界に達したところで、飛空船を空中停止させ仮眠。

 そして、日の出前に出航。


 翌日も同じように進む。

 アフラを出発して四日目の朝、ようやく砂漠の終わりが見えた。


「海だ!」


 この海の先に目的の島がある。

 島といってもイーセ王国の半分近い面積があるそうだ。

 大陸と言ってもいいだろう。

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