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第318話 ローザとアガスの結婚式

 一週間後、ローザとアガスの結婚式を迎えた。

 実は世界会議(ログ・フェス)前ということで、結婚式に関しては他国へ知らせていない。


 だが、今や世界最大の企業であるラルシュ工業の最高責任者と、世界最高の鍛冶師で冒険者ギルド開発機関(シグ・ナイン)の局長ローザの結婚だ。

 問い合わせが殺到し、結局千人近く招待することになった。

 ラルシュ工業や開発機関(シグ・ナイン)に取り入りたい商人たちもいることだろう。


 懐かしい面々も来てくれた。

 ラバウトの鍛冶師クリスと、その弟子となったシーラ。

 シーラの父親で、クリスの双子の兄ウォルターも出席。

 なお、ウォルターは開発機関(シグ・ナイン)のフォルド帝国支部長という局長に次ぐ地位に就き、フォルド帝国の帝都サンドムーンで業務を行っていた。

 その他にも他国支部のギルド関係者たちが出席。


 ローザは純白のウエディングドレスに身を包む。

 鍛冶師とは思えないほど美しい。

 アガスは大緊張の様子で挙動がおかしくなっていたが、俺とレイが証人として立ち会うと落ち着きを取り戻していた。


「アガス、今日の君は今までで一番輝いてるよ」


 俺は小さい声でアガスに告げた。

 親族として出席している兄のマルコは大号泣だ。


 そして指輪交換となった。

 ローザは結婚指輪を自分で製作。

 その鉱石は、アフラ火山で俺が採掘した虹鉱石だ。


「国王陛下が採掘して、花嫁自身が指輪を作るなど聞いたことがない。ハッハッハ」


 この話を聞いたシドは笑っていた。


 なお、ウエディングドレスとスーツは、ラルシュ王国で新たに立ち上げた服飾ブランドで製作。

 このブランドのメインモデルはレイで、瞬く間に世界で人気が出たのは言うまでもない。

 ブランド名はステラー。

 レイは嫌がっていたが、ユリアの説得により渋々承諾。


 なお、カミラさんの服飾ブランドであるカミーユも、この国に販売代理店がある。

 カミラさんは、思わぬライバルブランドの出現に嫌な顔一つせず、むしろ喜んでいた。


 結婚式は無事に終了。

 千人もの招待客に対しトラブルなく給仕ができたことで、使用人たちは自信がついたことだろう。

 世界会議(ログ・フェス)では、さらに高いレベルの仕事をしてくれるはずだ。

 メイド長のエルザや執事のステムは、大きな仕事を終え明るい表情を浮かべていた。


 俺は懐かしい面々と再会。

 ユリアがそのための時間を取ってくれたのだ。


「ア、アル陛下。こ、この度はお招きいただき」

「アハハ、そう緊張しないでクリス。国王なんかになったけど、俺とクリスの関係は変わらないよ?」

「あ、ありがとうございます」

「ラバウトの皆は元気?」

「はい。皆元気でやってます」

「セレナやファイさんにも会いたいな」

「それを聞いたら喜びますよ。帰ったら伝えますね」

「うん。ありがとう」


 ラバウトの鍛冶師クリスと握手した。


「シーラもありがとう」

「とととと、とんでもないですアル様」

「鍛冶屋の修行はどう?」

「じゅ、順調です!」

「本当! 良かった。そうだ、シーラに剣を一本頼みたいんだ」

「え! ぼ、僕にですか!」

「うん。友人が作った剣を持っていたいじゃん」

「そ、そんな! 友人だなんて!」

「できる?」

「は、はい! 喜んで!」


 シーラとも握手を交わす。

 シーラは可愛らしい女の子だが、その手のひらは固い。

 何度も金槌を振った鍛冶師の手だ。

 シーラの努力が垣間見えて、俺は心から嬉しくなった。


「ガハハハ。アル陛下。それはまだ早いですぜ!」


 横にいたウォルターが大声で笑っている。

 シーラの父ウォルターは冒険者ギルドに勤務しているので、この国の職員だ。

 俺が国王になってからも何度か会っていた。


「あら、どうして? シーラだってもう一人前でしょ?」

「レイ様、鍛冶師は一人前になるのに十年はかかると言われているんです。そうだろ、クリスよ」


 クリスとウォルターの会話は初めて見る。

 顔はもちろん、声や体型までそっくりな双子だ。


「まあそうだな。だけどな兄貴、シーラは頑張ってるぞ。今は固定客もついて、シーラの指名だって入るようになったんだ」

「さすがクリス師匠は分かってる! もう親父は黙ってて!」


 愛娘に怒られて、大きな身体を小さく丸めるウォルター。

 その姿を見て全員が笑った。


「クリス。アフラの宿を取ってあるから楽しんでいって。足りないものとかも用意するからさ」

「アル様。お心遣い感謝します」


 クリスがお辞儀をした。


「シーラ。ラバウトの皆にもお土産を用意してある。渡してもらえるかな?」

「は、はい! もちろんです!」


 皆にアフラを楽しんで貰うために、最高級宿を数日間押さえてある。

 もちろん俺のポケットマネーだ。


 俺は国王という立場になったことで、昔のように気軽な会話ができない。

 それでも俺にとっては大切な友人たちだ。

 こんなことしかできないが、お世話になった皆に、少しずつ恩返ししていこうと思う。


 ――


 俺とレイは、ユリアを伴って新郎新婦の部屋へ移動。


「アガス、本当におめでとう」

「アル陛下! ありがとうございます。陛下に出会えたことで僕の人生は変わりました。本当に、本当にありがとうございます」


 アガスが深く頭を下げた。


「そんなことないって。アガスの努力は知ってるもん。ここまで一緒に来ることができて本当に嬉しいよ」


 俺はアガスの肩に手を回す。


「俺たちの絆は永遠だ」

「は、はいぃぃぃ」


 号泣するアガス。

 アガスは冒険者時代からの友だ。

 当時の運び屋は差別されており、生活も苦しかっただろう。

 それでも俺のクエストのために、常に時間を開けてくれていたトーマス兄弟。

 俺は今でも感謝している。


「ローザ、おめでとう。あなたの結婚は本当に嬉しいわ。幸せになってね」

「レイ様、ありがとうございます。お二人のような夫婦になりたいと思ってます」

「あら。ふふふ、嬉しいこと言ってくれるわね」


 レイとローザが話していると、ユリアが二人の前に立った。


「ということは、アガスは尻に敷かれるのかしらね」

「ちょっと! 何よユリア! 私たちは対等に付き合ってるわよ」

「そうですか?」

「そうよ!」


 言い争う二人に微笑みかけるローザ。


「ククク、ユリアも結婚すれば分かるんじゃないか? 意外と結婚はいいぞ?」

「言うわねローザ……」


 女性陣の会話に入ると面倒なことになるので、俺はマルコにお祝いを伝えることにした。


「マルコもおめでとう。アガスの結婚は自分のことのように嬉しいんじゃない?」

「うぐぅ。は、はい。本当に肩の荷が下りたというか。うぐぅ。これで思い残すことはありません。うぐぅ」


 兄のマルコは涙が枯れるんじゃないかというくらい号泣していた。


「何言ってるんだよ。次はマルコの番だよ」

「へ、陛下! ちょっ! それは!」


 泣いていたマルコの表情が一変。

 ただひたすら焦っている。

 すると、後ろでユリアが睨んでいた。


「アハハ、マルコなら大丈夫だよ。俺はマルコの凄さを知ってるからね。君は本当に良い男だよ」

「ぐふぅ、ありがとうございます。頑張ります」


 呆れたような表情を浮かべたユリアが、アガスにハンカチを渡す。


「マルコ、あなたは運輸大臣なのよ? あまり人前で泣いたりしないの!」

「あ、ありがとうございます。でも、男手一つで育ててきたアガスの結婚です。こんなに嬉しいことはありません」

「もう……全く。今日だけよ。明日からシャンとしなさい」

「は、はい。ぐふぅ」


 その様子をレイとローザが温かい眼差しで見つめていた。


 戦友と言えるトーマス兄弟のお祝いだ。

 俺はまだまだ祝福したい気分だった。


「皆、今日は飲むぞ!」

「それってアルの奢り?」

「もちろんさ」

「さすが太っ腹ね。国王陛下」

「こういう時のために貯めてるんだもん。マルコの時だって全部出すよ!」


 やっぱりユリアが睨んできた。


 その後はシドやオルフェリア、他の仲間たちと合流。

 久しぶりに皆で夜遅くまで騒いだのだった。

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