表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
329/414

第317話 休暇

 夕方を迎え今日の執務を終えようとしたところ、ユリアが入室してきた。


「陛下、世界会議(ログ・フェス)の出席者はいかがいたしますか?」


 二年に一回行われる世界会議(ログ・フェス)

 我々にとって、建国後初の世界会議(ログ・フェス)となる。

 さらに開催地はここアフラだ。


 世界会議(ログ・フェス)は公平を期するため、出席者は一国から三名までと決められている。


「うーん、俺とレイ、あとはユリアかな」

「私ですか? シド様は?」

「最近のシドは国家の運営にあまり関わってないし、冒険者ギルドで忙しいからね」

「忙しいかどうかは別として、確かに国家の取り決めなら私の方がいいかもしれませんね」

「そういうことだよ。よろしくユリア」

「かしこまりました」


 優雅にお辞儀をしたユリア。

 そのままミニキッチンへ向かい、珈琲を淹れている。

 すると、ドアをノックする音が聞こえた。


「アル、そろそろ終わりでしょ? 一緒に帰りましょう」


 レイが入室してきた。

 狂戦士(バーサーカー)から完全復活したレイは、これまで以上に勢力的な働きを見せ、内政や外交で完璧な結果を残している。

 その容姿の美しさとは裏腹に、他国はレイの辣腕を恐れていた。


「あらユリア。どうしたの?」

「レイ様も珈琲でよろしいですか?」

「ええ、お願い」

「陛下と世界会議(ログ・フェス)の打ち合わせです。もう二ヶ月後ですから」

「そうね。飛空船の登場で移動時間が短縮されたけど、以前だったら遠方の国は移動を始めてる時期ですものね。お迎えの準備はできている?」

「もちろんです。迎賓館も完成しましたし、保冷庫を使った料理をエルザが試作してます。そろそろ両陛下にも試食していただくことになるでしょう」

「それは嬉しいわね」


 メイド長のエルザは王宮料理長も兼任し、王宮のメニューを考案していた。

 だが、エルザがキッチンに立つことは滅多になく、配下の副料理長が実際に取り仕切っている。

 なお、俺とレイの食事に関しては、未だにエルザが毎日作ってくれていた。


「ねえアル。あなた議長だけど大丈夫?」


 世界会議(ログ・フェス)は開催地の代表者が議長となる。

 つまり俺だ。


「うん。緊張しないように頑張るよ」

「ふふふ。まあ、あなたなら大丈夫よね」

「そ、そそそうだね。えーと、議題は決まったのかな?」

「今調整してるわ。今は国家間で大きな問題がないから、平穏な世界会議(ログ・フェス)になるでしょうね」

「そうか。それは良かった」

「もし問題があるとすれば、あなたの竜種討伐くらいかしら。もう異常ですもの。三体の竜種殺し(トライトロン)様」

「ちょっと! やめてよ!」


 レイとユリアが笑っていた。


「まあそのことだけどさ。俺も色々と考えてるんだよ。竜種と始祖の関係とか、自然環境とか。竜種を三体も討伐した俺が言えることではないけど……竜種と始祖って地形を作って、自然や生態系を育てていると思うんだ。人間が最も自然を壊してるような気がしてね」

「自然の中で生きてきたあなたらしいわね」


 幼い頃に両親を亡くした俺は、十九歳まで世界で最も高いフラル山でエルウッドと暮らしていた。

 必要な分だけ鉱石を採掘して生活費を稼ぎ、たまの贅沢を楽しむ程度だ。

 自然に生かされていたと思う。


「ウォン!」


 俺の横で伏せている始祖のエルウッドを見つめると、笑顔で応えてくれた。


「でも人間だって、より良い生活のために生きていく権利はある。そのために自然を壊していくことだってある。現に俺たちもやってるしね。だけど近頃は、竜種と共存できないのかなって思うんだ」

「難しい問題ね。アルの言うことは理解できるわ。でも実際、アフラの街が竜種に襲撃されたらどうするの? 竜種の襲撃は実際にあったでしょう?」

「……そうだね。俺は国王だから国民を危険に晒すことはできない。その時は竜種を討伐する」

「ごめんなさい。意地悪な質問だったわね。アル、これはあなた一人でどうにかできる内容じゃないわ。それこそ世界会議(ログ・フェス)で議題にして、人類全員で考える内容よ」


 ユリアが珈琲をローテーブルに置く。

 俺とレイは並んで応接用ソファーに座り、対面にユリアが腰を下ろす。


「陛下、近頃思い詰めてませんか? 世界会議(ログ・フェス)まで時間がありますから、少し休んだ方がよろしいかと」

「でも休むと怒るじゃん」

「怒ってません! 来週のローザとアガスの結婚式が終わったら、しばらく休んでください」


 そう、来週はローザとアガスの結婚式が予定されている。

 建国してから初めての幹部クラスの結婚式だから、俺は盛大に祝うつもりだ。

 ユリアが認めてくれたので、費用は国家予算から捻出する。

 そのため、この式で世界会議(ログ・フェス)の予行練習をすることになっていた。

 王宮に務める料理人、給仕人、メイド、清掃等を行う使用人にとってはいい経験になるだろう。


「休みか。じゃあお言葉に甘えようかな。レイは?」

「レイ様は世界会議(ログ・フェス)の最終調整がありますので」

「え? じゃあ俺もいいよ。レイに負担かけちゃうもん」


 レイが俺の肩に手を置く。


「私のことは気にしないでアル。少し息抜きしてきなさい。あなたはここまで誰よりも頑張ってきたもの」

「そんなことないけど……。分かったよ。ありがとう」

「二週間くらいは平気よ。王の赤翼(ラルクス)で好きなところへ行ったらいいんじゃない?」

「そんなに? 大丈夫?」

「平気よ。何かあっても私たちで対処するわ。ねえユリア」


 ユリアが頷き、微笑んでくれた。


「ありがとう。じゃあ、エルウッドとヴァルディを連れて行ってくるよ」

「ふふふ、お土産を楽しみにしてるわ」


 俺は飛空船が完成した時から、行きたい場所があった。

 せっかくなので、その地へ行ってみようと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ