第312話 戦い終わって
旅する宮殿は素材を載せ、ナブム氷原を出発。
目的地はフォルド帝国の帝都サンドムーンだ。
ナブム氷原から半日もかからない距離なので、アガスが一人で操縦。
シドは研究室で、竜種リジュールから血清を作るための準備に取りかかる。
抽出には一週間ほどかかるそうだ。
レイは寝室で寝ている。
狂戦士により、肉体の限界を越えて身体を酷使したため、腕から出血していたり体中の内出血が酷かった。
意識もまだ戻っておらず、しばらくは動けないと思う。
始祖二柱はリジュールの血を舐めた。
これでリジュールの能力を獲得。
現時点でリジュールの能力は分からないが、その内判明するだろう。
オルフェリアとローザは、倉庫でリジュールの素材を確認。
本格的な解体や研究は帰国してからとなる。
旅する宮殿は、予定通りサンドムーンに到着。
シルヴィア陛下に面会を求め、竜種討伐を報告。
陛下や家臣たちは大変驚いていた。
それもそうだろう、俺たちが討伐を行うと連絡した翌日には討伐完了だ。
我ながら恐ろしいスピードだと思う。
陛下からは、リジュール討伐やナブム氷原の正常化について、直接感謝の言葉をいただいた。
また、光る鉱石などの発掘に関しても、我々ラルシュ王国と共同で発掘することになる予定だ。
高い技術を誇るラルシュ工業に、ウグマ鉱山のリフトのような装置の開発を期待しているのだろう。
我々にとっても光る鉱石の採掘はありがたいので、ギブアンドテイクの関係だ。
その夜、急遽晩餐会が催された。
レイはまだ動かせないので、ラルシュ王国の代表は俺一人。
さらにシド、オルフェリア、ローザ、アガスが出席。
リマ、エルザ、マリンは、レイの看病で旅する宮殿に残った。
シドとオルフェリアは夫婦なので、こういった場では当然ながらパートナーとして振る舞う。
今やオルフェリアもドレスに慣れており、その清楚な姿に感嘆の声が漏れていた。
ローザは年齢よりも大幅に若く見えるのだが、ドレスを着るとしっかり年相応に見える。
その美しい姿からは、神の金槌の称号を持つほどの鍛冶師とは想像できない。
今回、ローザのパートナーは正装したアガスが務める。
「ロロロローザさん。よよよよろしくお願いいたします」
「何をそんなに緊張しているのだ。アガスよ」
「あ、いや、その……」
シドがアガスの肩を叩いた。
「ハッハッハ。アガスはローザが好きだからな。今日はチャンスじゃないか?」
我々は皆知っていたが、アガスはローザのことが好きだった。
だが、恋愛に疎いアガスは何もできずに日々過ごしている。
ローザはアガスのことを全く気にしていないし、そもそも恋愛に興味があるのかも分からない。
シドの言葉を聞いたオルフェリアが、驚きながら焦った表情を浮かべた。
「ちょ、ちょっとシド! もう……あなたは相変わらずですね」
「本当だよ。空気ってものが読めないんだから。そりゃレイに嫌悪されるわけだ」
オルフェリアと俺は呆れていた。
当の本人であるアガスの顔が夕焼けのように赤く染まり、滝のような汗が流れ出す。
「み、皆さん! 勝手なことを言わないでください!」
「なんだアガス。私がいいのか?」
ローザがアガスの顔を見つめている。
「え? い、いや、その、あの」
「ハッキリしろ。ハッキリしないやつは好かんぞ」
「は、はい! 僕はローザさんが好きです!」
「ふむ……そうだな……」
腕を組み考え込むローザ。
「いいぞ。うむ。お前だったらいいぞ」
「え?」
「「「え?」」」
当事者のアガスはもちろん、俺、シド、オルフェリアが同時に声を出した。
「ま、待てローザよ。いいとはどういうことだ?」
「シド様。私も四十歳ですよ? 遅すぎましたが、そろそろ身を固めようかと」
「身を固める? は? け、結婚だと?」
付き合うとかではなく、いきなり結婚のようだ。
常日頃からローザの決断力は凄いと思っていたが、あまりに突然の結婚宣言だった。
「ロ、ローザよ。アガスでいいのか?」
「私のことを好きであれば問題ありません。アガスの人柄は知ってますので」
「そ、そうか」
さすがのシドも驚いている。
ローザと結婚が決まったことで、一番驚いているのがアガス本人だった。
アガスは完全に身体が硬直。
「アハハ。おめでとうローザ、アガス」
「アルよ。証人はお前だぞ」
「もちろんだよ。俺とレイが証人になるよ」
俺にとって、長年苦楽を共にしてきたかけがえのない仲間であるローザとアガス。
それに俺が国王になってから、仲間内で初めての結婚だ。
これは盛大に祝うことにしよう。
身内でハプニングがあったものの、晩餐会は無事終了。
この日は宮殿に宿泊し、翌日帰国の途に就く。
報酬の金貨十五万枚やその他の条件については、また改めてシドが帝国へ赴き調整することになった。