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第300話 二冊の本

 シドが珈琲カップを持ちながら、食堂の席に座る。


「もしかして、君たちはカル・ド・イスクが吹雪を起こすと思っていたのか?」

「え? 違うのシド様?」

「この吹雪はリジュールだぞ」

「リジュール?」

「竜種だ」

「りゅ、竜種!」


 リマが驚いている。

 もちろん俺とレイも同じだ。


「シド、ナブム氷原は竜種が住んでるのか?」

「そうだ。リジュールは休眠期に入っていたのであまり知られてないがな」

「だ、だって、この地域は人が住んでいただろう?」


 レイたちがカル・ド・イスクを討伐した時は、小さな村を拠点としていた。

 だが、カル・ド・イスクに襲われたことで廃村になっている。


「竜種の休眠期は数百年単位だ。どうやらここ数年で活動期に入ったみたいだな。その証拠に、ここ数年のナブム氷原の天候は非常に崩れやすくなっている。永久凍土の地とはいえ、百年前は比較的穏やかな気候だったのだ」


 実はラルシュ王国の幹部には、シドの年齢を伝えていた。

 それは不老不死ではなく、以前イーセ王国にも伝えた不老長寿の薬を飲んだという内容だ。

 そのため、シドの寿命は二百年で、現在の年齢は百五十歳ということになっている。

 幹部連中は驚きつつも、全員素直に受け入れた。

 元々シドの知識や存在感などから、年齢がおかしいと感じていたそうだ。

 残りの寿命が五十年だと聞き、最高齢のジョージは「儂らのほうが先に逝きますのじゃ」と笑えない冗談を言っていた。


「実はな、竜種の研究を進めていたところ、本が送られてきたのだ」

「本?」

「古代語で書かれて、私しか読めない」

「古代語って……古代王国?」

「そうだ」


 古代王国は二千年前まで存在していた王国だ。

 シドは古代王国の最後の王族だった。


「アル、ちょっと場所を移す。私の研究室へ行こう」

「わ、分かった。レイ、悪いけど先に寝ていてくれないか?」

「ええ分かったわ」


 これはレイも参加するようにという隠語だ。

 恐らく不老不死や古代王国のこと、さらには世界の理に触れるような話になるのだろう。

 俺とシドは三階の食堂から、二階の研究室へ移動した。


 シドが旅する宮殿(ヴェルーユ)内に勝手に作った研究室。

 旅する宮殿(ヴェルーユ)の二階は、洗濯場、大浴場、歓談室、自由作業室、三等相部屋が用意されていた。

 これは大人数の搭乗を想定していたのだが、現在は王室専用機ということで最大乗員数を大幅に減少。

 そのため、歓談室と三等相部屋は不要となり、現在はシドとローザの研究室に改装している。

 船内はトーマス工業の組み立て構造を採用しているため、自由に間取りを変えられるのだった。

 

 しばらくすると、レイとオルフェリアが来た。

 レイは紅茶セット、オルフェリアは珈琲ポットを持っている。


「アルとシドは珈琲ですよね?」

「うん、ありがとう」


 オルフェリアが珈琲を淹れてくれた。

 レイとオルフェリアは紅茶を手にする。

 以前よりも広くなった研究室。

 部屋の中央にある四人がけのテーブルにつく。


「さて、まずはこの本だが、同じ内容が二冊送られてきたのだ」

「二冊?」


 シドが机に二冊の本を置く。

 巻角山羊(カフクス)の皮を薄く伸ばした羊皮紙で作られている古びた本と、現代の紙で作られた本だ。


「どうして二冊あるんだ?」

「そうだな。正確な理由は分からんが、失われたはずの古代王国時代の本を持っていることを知らせるため。他には情報提供、宣戦布告、色々と考えられる。それとな、もしかしたら私の正体を知っている可能性もある」

「な! バ、バカな!」

「そうでなければ、古代王国の本なぞ送ってこないだろう。古代王国の本を読めるのはこの世に私しかいないのだからな」

「シドから盗んだ可能性は?」

「ない。なぜならば、これは初めて読んだ本だ」


 レイが紅茶のカップを置いた。


「憶測で考えても結論は出ないわ。で、本の内容はどうだったの?」

「ああ、竜種と始祖についてだ。我々が研究していた内容は、この本に全て記されていた。いや、それ以上のことが記されている」

「そ、それほどの内容なの?」

「そうだ。これまでの通説が間違っていた点も分かった。これは世界の理の一つだ」

「で、でも、あなただって古代王国の王族で、古代の知識はあったわけでしょう?」

「古代王国は一万年も続いてな。私が生まれたのは国家崩壊直前だった。その頃はすでに知識も技術も失われていたよ。書庫で可能な限り古代書を読み漁ったが、全てを読みきれるわけはなく王国崩壊。私は不老不死になり逃亡生活を送った。五百年後に足を運んだ時は完全に風化し、書物はほとんど全て失われていた。僅かに残っていたものを私が持ち帰ったのだ」

「その場所に今も本が残っていて、それを偶然拾ったって可能性は?」

「ない。完全に崩壊していたし、この本の保存状態は信じられないほど素晴らしい。まるで当時のままだ。しかもだ、現代の紙に書写してある。古代語の知識がないと無理だ」


 俺は書写された本を手に取りページをめくる。

 俺でも読める文字だ。


「これは……フォルド語」

「そうだ。フォルド語で書いてあるもの、私へ隠れたメッセージだろう」

「ど、どういう意味だ?」

「フォルド帝国は私の名前が由来だ。建国は千五百年前。私の年齢を……不老不死を知っているということだろう」


 現在の世界最古の国はフォルド帝国で、実はフォルド帝国の建国はシドが関わっていた。

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