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第292話 アルの百頭斬り

「ふうう、やったか?」


 俺は辺りを見渡す。

 なんとか全てのモンスターを討伐したようだ。


「エルウッド! ヴァルディ! 大丈夫か?」

「ウォンウォン!」

「ヒヒィィン!」


 二柱とも無傷の様子。


「良かった」


 安心したが、そもそも人間ごときが始祖を心配するのもおこがましいだろう。

 そんなことを考えていると、二柱が俺にすり寄ってきた。


「全部で百頭はいただろうけど、二柱が圧倒してくれたおかげで討伐できたよ。ありがとう」

「ウォン!」

「ブフゥゥ!」


 右手でエルウッドの頭を撫で、左手でヴァルディの顔を擦る。

 すると飛空船が下降して、オルフェリアが走ってきた。


「アル!」


 そのまま俺に抱きついてくるオルフェリア。


「アル! 怪我はありませんか!」

「アハハ、大丈夫だよ。俺にはこの装備もあるし、始祖がいるからね」

「ウォンウォン!」

「ヒヒィィン!」

「本当に良かったです。二柱ともありがとうございます」


 オルフェリアが一旦離れ、俺の顔を見つめている。

 その瞳は薄っすらと涙を浮かべていた。


「あたなに何かあったらレイに顔向けできません」

「心配かけてごめんよ。でもちゃんと考えてるよ?」


 確かにオルフェリアと飛空船を守るためとはいえ、百頭ものモンスターに立ち向かうのは無謀に思えるかもしれない。

 だが、俺は自分の立場を理解している。

 一国の王としての非常に重い責任を持つ。

 だから簡単に命を投げ出さなし、自己犠牲もしない。

 冷静に確実に、最も生存確率が高い方法を選択している。


「本当にもう……。それにしても、また一つ伝説が生まれましたね」

「伝説?」

「アルの百頭斬りです」

「ちょっと! やめてよ!」

「これはまた国民が喜びますよ。皆さんアルの活躍が大好きだから。フフ」


 俺をからかうオルフェリア。

 どうやら落ち着いたようだ。

 すぐにモンスターの死骸を調べる。


「アル、これは研究機関(シグ・セブン)で研究するのでサンプルを持ち帰ります。あと、高価な素材も持ち帰りましょう。飛空船で使用する高級素材が足りないとアガスがぼやいていたので」

「ああ、分かった。百頭分だからたくさん獲れるね」


 俺はオルフェリアから解体師用の特殊器具を借り、AランクやBランクの高ランクモンスターのレア素材を剥ぎ取った。


 暴王竜(ティラキノクス)の強固な鱗。

 槍豹獣(サーべラル)の大爪。

 一角虎(ガーラ)の一本角。

 鉤爪竜(キプラトス)の鉤爪。

 大牙猛象(エレモス)の大牙。

 猛火犖(バルファ)の大角。


「凄いな、これだけで一財産だぞ」

「そうですね。たった一回でこれほどの素材を剥ぎ取ったことはありません。本当に凄いです」


 飛空船の倉庫へ積み込みが完了した。


「アル、調査はどうしましょうか」

「そうだな……」


 この地に到着してすぐにモンスターと戦ったので、調査は何もできてない。


「引き続き今日と明日はこの周辺を調査しよう。その結果次第で、調査続行か帰還か決める」

「分かりました」


 少し休憩して、この周辺をくまなく調査。

 さらに飛空船に乗り、移動しながら何箇所か調査するも特に発見はなかった。


「やっぱりモンスターがいませんね」

「ああ、そうだね。百頭ものモンスターなんて初めて見た。きっとこの地のモンスター全てが集まっていたんだろう」

「そうですね。私もそう思います」


 そろそろ日没を迎える時間帯だ。

 停留地を決めキャンプを張る。


「アル、お風呂を沸かしたので入って下さい」

「ああ、ありがとう」

「夕食も作っておきますから」


 オルフェリアの言葉に甘え、風呂に入った。

 キッチンではオルフェリアが夕食の用意をしてくれている。


 水角牛(クワイ)のシチューに、アフラ産の小麦で作ったパンだ。

 オルフェリアのシチューは絶品と有名だった。

 口に入れると肉汁が溢れ、簡単にとろける水角牛(クワイ)の肉。

 アフラの畑で採れた野菜や、アフラ樹海で栽培されたキノコもたくさん入っている。


「エルウッドとヴァルディの分もあるので、たくさんありますよ」


 皆でオルフェリアの料理を堪能。

 片付けを終え、珈琲を飲みながら今日の出来事を振り返った。


「それにしても、これほど多種多様なモンスターが、自主的に集まることなんてある?」


 手に持つ珈琲カップをテーブルに置くオルフェリア。


「モンスターは縄張りを持ってます。自分の縄張りに同種モンスターが入っただけで激しい戦いになるというのに、多種モンスターまで同じ空間にいることは考えられません。それも孤高の存在とも言える、誇り高きAランクのモンスターまで……。モンスター学の観点から見ても、これは絶対にあり得ないことなのです」

「そうか。じゃあさ、人為的に集められた可能性は?」

「どんなに優秀な使役師でも無理でしょう」


 モンスターを操る使役師という職業がある。

 稀に二頭や三頭を同時に使役する凄腕の使役師がいるそうだが、百頭なんて不可能とのこと。


「それに、今回は死んだと思われたモンスターが動き出したのです」

「そうだよな。使役師でも死んだモンスターを動かすことなんてできないよな」


 俺は珈琲を口にしながら、様々な記憶を辿っていた。


「あっ、寄生虫の可能性は? 宿主を乗っ取る寄生虫もいるって本で読んだことがある」

「私もその可能性を考えたのですが、どれほど強力な寄生虫でも死んだ宿主を動かすことはできません」

「そうか……じゃあ毒は?」

「生き返らせる毒なんてありません。ですが……あくまでも私の知識の範囲なので……。シドならあるいは……」

「分かった。じゃあ、明日の午前中も調査を行って、何もなければ正午に出発しよう」

「分かりました」


 翌日、早朝から調査を行ったが、特に発見はなくアフラへ帰還した。

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