第168話 覚悟
俺は全員の顔を見渡す。
「俺はもちろんレイと結婚する。でも、あの……タイミングというものがあると思うんだ。その、い、今じゃない……というか……」
「ふふふ、分かってるわよ。私たちはずっと一緒だもの。いつでも大丈夫よ」
レイが気を使ってくれた。
「だけど……そうだよな、はっきりさせなくちゃいけないよな……」
俺は少し考え、決意を表明することにした。
「レイ。俺はヴェルギウスを倒す。そしてレイに結婚を申し込むよ」
「アル!」
レイが抱きついてきた。
「……嬉しい」
「俺はレイと絶対に結婚する。だからヴェルギウスにはもう負けない」
結婚すると決めたからには、別に今この場で結婚してもいいと思う。
そもそも俺は、レイと人生を共にするつもりである。
だがレイは騎士団の名誉団長だ。
これほどの死者を出した王国の今の状況で、慶事は控えるべきだろう。
それに俺はヴェルギウスに全く敵わなかった。
だからヴェルギウスを完全討伐し、誰もが安心できる状況でレイと結婚する。
これが最善だろう。
「アル、私の状況まで考えてくれてありがとう」
「アハハ、レイには全てお見通しだな」
シドがすかさず俺の顔を見る。
「アルよ、一応念の為に聞くがレイだぞ? 世界一強くて恐ろしい女だぞ? 浮気も一瞬でバレるぞ?」
「うるさいわね!!」
これまで言われ放題だったシドがやり返した。
皆の笑い声が病室に響く。
突然のことだったが、俺たちパーティーは一組が結婚、一組が婚約となった。
――
祝福ムードではあるが、俺はヴェルギウスと戦った情報を皆に共有した。
ヴェルギウスの主な直接攻撃は、尻尾の振り下ろしと薙ぎ払い。
とはいえ、今回はほとんど中距離で戦っていた。
そのため、接近戦では何が来るか分からない。
さらに溶岩を固めた火球を吐き出す。
大きさは直径約二メデルト。
これが厄介極まりない。
今回の戦いで吐き出した火球は六発だった。
吐き出せる正確な数は不明だが、戦った印象では多用はできないと思われる。
火球は猛スピードのため、吐き出してから避けることは不可能。
吐き出すモーションを捉えた瞬間に、避ける準備が必要だ。
俺は黒靭鎧のおかげで尻尾の直撃を耐えられたが、それでも一発か二発が限度。
それ以上は身体が持たない。
火球は一発だけ耐えたが奇跡に近い。
次も耐えられる自信はない。
正直、俺以外だったら即死するだろう。
あの轟音の咆哮にも注意が必要だと思われる。
至近距離では建物が崩壊するレベルだ。
こちらの攻撃は、俺の黒爪の剣でも通用しない。
今のところ効果がある武器は、シドが削り出したヴェルギウスの矢のみとなる。
シドは真剣な眼差しで、俺の話を聞いていた。
「戦いながら、よくぞそこまでの情報を……。アルは本当に凄いな。感謝する」
「シドならこれくらいの情報は持ってるでしょ?」
「いや、そんなことはない。竜種と戦った記録はゼロではないが、ここまで詳しいものは初めてだ。これは人類にとって貴重な資料だ」
レイも俺の話を神妙な表情で聞いていた。
「尻尾の攻撃はアルでも一、二発しか耐えられないということは、普通の人間に防御は無理よね。火球なんて当たったら即死でしょう」
「そうだな。結局、アル以外はヴェルギウスの攻撃を避けるしかない。で、アル以外というのはレイ、君のことだぞ」
「ええ、分かってるわ。私はスピードで対抗するしかない」
レイは戦う決意を持った表情だった。
その顔は凛としている。
だが俺はレイに事実を伝えることにした。
「待ってレイ。やはり竜種は危険だ。正直に言うと俺でも危ない。レイでは……無理だと思う」
「正直にありがとう。でも、もうあんな思いはしたくないの。私も戦うわ」
レイの覚悟をシドが後押しする。
「アルも覚悟を決めろ。我々は全員でヴェルギウスを倒すのだ。アルとレイが戦う。私とオルフェリアは全力でサポートする。私たちパーティーは最後までこれで行く。これ以外なない」
「……そうだな。分かったよ」
レイの想いはよく分かる。
もし逆の立場だったら、俺もレイと同じ行動を取るだろう。
「レイ、討伐まで時間がある。それまで鍛えよう」
「ふふふ、ついに私があなたから稽古を受ける時が来たのね」
「何言ってるんだ。俺の師匠はいつまでもレイだよ」
俺も覚悟を決めた。
一人で戦うのではなく、パーティー全員で一丸となって戦う。
準備も含めて全員で、あの恐ろしい竜種ヴェルギウスに立ち向かうのだ。




