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第166話 目覚め

 目を開けると建物の天井が見えていた。


 こんなところで寝た記憶がないのだが、どうやらベッドで寝ていたようだ。

 ふと横を見るとレイがいる。

 ベッドの隣に置いた椅子に座り、俺の手を握っていた。


「あれ? レイ、どうしたの?」

「アル! アル!」


 レイが泣きながら抱きついてきた。

 そこにはヴィクトリア女王陛下を始め、リマやジルもいた。


「ウォンウォン!」


 エルウッドの声も聞こえる。


「アル! アル!」


 レイは俺に抱きついて離れない。


「ちょ、ちょ、ちょっと! み、皆の前だよ!」

「アル! アル!」


 女王陛下がレイの肩をさする。


「レイ、本当に良かったわね」


 女王陛下の瞳からも涙が溢れていた。

 レイは俺から離れ、陛下の前に立つ。

 二人は目を閉じ、涙を流しながら抱き合った。


「ヴィクトリア、ありがとう」

「レイ。本当に……本当に良かったわね」


 一体何が起こっているのだろう……。

 俺は上体を起こす。

 すると、今度は陛下が俺に抱きついてきた。


「アル、無事で良かったわ」

「へ、陛下!」


 陛下が俺に抱きつくなんて、あってはならないことだ。

 どうしていいのか分からず固まる。


「竜種からこの街を守ってくれて、本当にありがとう」


 陛下の言葉で我に返った。

 そうだ、俺は竜種ヴェルギウスと戦っていたんだ。

 最後に弓を放ったところで、俺の記憶は途切れている。


「あの、ヴェルギウスはどうなったんですか?」


 陛下は一旦離れ、椅子に座る。

 そして御自ら説明してくれた。

 俺が戦っている様子を見ていた騎士がいたそうで、その騎士から一部始終説明を受けたとのこと。


「あなたはヴェルギウスの尻尾の打撃を防御し、火球に耐え、最後は弓でヴェルギウスを攻撃したのよ」

「その記憶はあります。ヴェルギウスの尻尾の打ち下ろしは強烈でした。火球の破壊力は凄まじく、全身が破壊されるかと思いました。実際、俺の腕は骨折してます」

「ええ、そうね。あなたは満身創痍だったわ」


 俺は自分の両腕を見る。

 骨折の治療のための固定器具がつけられていた。


「あなたは弓の攻撃と引き換えに、尻尾の打ち下ろしを受けたのよ。それも無防備で」

「はい、それしか方法がありませんでした」

「分かってるわ! 分かってるの! ……でも、自分を犠牲にするのはやめなさい」

「は、はい。すみませんでした」


 陛下の声に怒りの感情が含まれていた。


「あなたの弓の攻撃は、ヴェルギウスの眼球を撃ち抜いたわ」

「ほ、本当ですか」

「ええ、ヴェルギウスは右目を潰され街を去ったの。目撃した騎士によると、ヴェルギウスは激昂したようだけど、それ以上にダメージがあったようね。ふらつきながら火山へ飛び去ったわ」

「そうでしたか。……あの弓で右目を潰していたのか」

「アル。改めてイーセ王国国王として、あなたに感謝します」

「あ、いや、その……」


 陛下から直接感謝されてしまい俺は困惑した。


「ふふふ、素直に受け取りなさい。あなたは人類で初めて竜種を撃退したのよ」


 レイの声がいつもと同じトーンに戻っていた。

 そして、俺の顔を笑顔で見つめる。

 涙の跡があり目は腫れていた。

 それでもレイの美しい顔は変わらない。


「アル、あなたはヴェルギウスと戦ってから一週間寝ていたわ。ヴィクトリアもあなたが起きるのを待っていてくれたの」

「そんなに! 陛下、大変失礼しました」


 陛下が俺の手を握った。


「何を言うのアル。あなたのおかげで、この街も騎士団も守られたのよ。本当に感謝しているわ。今回私たちはあなたにクエストを依頼してるけど、王国としてまた改めてお礼をするわね。本当にありがとう」


 後ろに立つジルも俺にお辞儀をした。


「我々はこの目でヴェルギウスを目撃し、改めて竜種は国家を危機に陥れる存在と認識しました」

「はい、ネームドなんて比べ物にならないほどの強さでした」

「実際にネームドを討伐しているアルさんが言うと、説得力がありますね」

「ええ、正直あれほど強いとは。モンスターに負けたのは初めてです……」

「何をおっしゃいますか。人類で初めて竜種の撃退ですよ。引き分け以上、いや、勝ちと言っても過言ではありません」


 皆が同じように頷く。

 続いてジルはレイの顔を見た。


「レイ様、女王陛下は明日王都へ戻りますが、私とリマはアルさんたちがクエストを完了させるまで、サルガに残り陣頭指揮を取ります」

「騎士団団長が残ってくれるのは心強いわ。でもリマも? ヴィクトリアの警護は?」

「はい、リマが帰還するまで近衛隊は、ハウ一番隊隊長に兼任していただきます。これはもはや国家の戦いです。レイ様も今後は騎士団のことを考えず、クエストに専念していただきます」

「分かったわ。ありがとう」


 その後も少しだけ今後の騎士団運営について話していた。


「さて、それでは私たちは行きましょう。レイ、私は明日王都に帰るから見送ってね。アルは無理しないように」

「分かったわ、ヴィクトリア」


 陛下、ジル、リマが退室。

 部屋に残るのはレイとエルウッド。

 レイがベッドの横に椅子に座り、俺の手を取る。


「アル、身体は大丈夫?」


 改めて確認すると、腕には固定器具、頭も包帯が巻かれていた。

 だが痛む場所はない。

 身体は問題ないようだ。


「うん、大丈夫だよ」

「本当に良かった……」


 少しの静寂。

 レイの瞳には薄っすら涙が浮かんでいた。


「……アル。私はね、今回のことで分かったことがあるの」

「何が分かったの?」


 レイが真っ直ぐ俺を見つめる。

 何かを決意したような真剣な表情だ。


「あなたがいないと生きていけない。生きる意味もない。もう二度とあなたから離れない。生きるのも死ぬもの一緒よ」

「そ、それは嬉しいけど……俺はレイに生きて欲しい」

「分かってる。でも無理なの。もう絶対にあなたから離れない。絶対に。私はあなたと運命を共にするわ」


 レイが唇を重ねてきた。

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