第161話 緊急手術
「オルフェリア! オルフェリア大丈夫!」
「うぐぅ、うぐぅぅぅ」
「見せて!」
アルが私たちを庇ってくれたおかげで、火球の直撃は避けることができた。
だけどオルフェリアは唸り声を上げている。
どうやら、オルフェリアに溶岩の破片が当たってしまったようだ。
腹部を手で押えているオルフェリア。
その手は血だらけだ。
「うぐぅぅぅ」
破片は拳よりも一回り小さいが、運悪く尖っていたことで、オルフェリアの下腹部に刺さっていた。
「オルフェリア! しっかり! 大丈夫よ! 頑張って!」
「ふうう、ふうう」
「オルフェリア! 息を吸って! 吸って!」
「きゃああああああ!」
私はすぐに破片を除去した。
しかし、腹部が焦げて穴が空いている。
出血もかなりの量だ。
「うううう」
「オルフェリア! 大丈夫よ!」
オルフェリアの意識はあるようだ。
だからこそ激痛だろう。
私は辺りを見渡し、騎士団の救護キットを探した。
災害などが発生すると、いつでも怪我人の救護ができるよう街中に配置している。
近くにあった救護キットで応急処置を行う。
「レイ!」
シドが走ってきた。
「シド! オルフェリアが怪我を!」
「分かった! 見せろ!」
シドがオルフェリアの傷口を見る。
「レイ、湯を沸かせ!」
「分かったわ!」
「熱湯を使う! それと沸かした湯を体温ほどに冷まして塩を入れろ!」
「はい!」
救護キットから緊急手術用パックを取り出し、すぐに湯を沸かした。
オルフェリアの腹部は血で真っ赤になっている。
だが、オルフェリアの意識がある状態で、ネガティブな発言は絶対にしない。
心の持ちようで容態は変わる。
それはシドも分かっているはずだ。
「オルフェリア、君は世界でナンバーワンの解体師だ! だからこそ、毒耐性の高い君に麻酔は効かない! これは誇らしいことだぞ!」
「わ、分かって……ます……フフ」
「そうだ! その調子だ! 今からここで手術をする!」
「はい……ぐうう……。わ、私は……皆と……生きるのです……旅を続……うっ……のです」
「そうだ! いいぞ! その調子だ!」
シドが必死になってオルフェリアに声をかけている。
「シド! 熱湯と冷ました塩水よ!」
シドは躊躇なく熱湯に自分の手を入れた。
「クッ!」
シドの手が真っ赤になった。
自身の手を煮沸消毒したのだ。
「オルフェリア! 傷口を洗う! 激痛だ! だが生きてる証拠だ! 頑張れ!」
「きゃああああああああああ!」
シドは傷口に塩水をかけた。
傷口の洗浄だ。
数回に分けて傷口に塩水をかける。
そして傷口を凝視。
「オルフェリア喜べ! 内臓に傷はない! 全く問題ないぞ!」
「あ、ありが……ぐっ……ござ……ます」
「オルフェリア! 今から傷口を縫う! タオルを噛め!」
シドが私の顔を見る。
「レイ! タオルだ!」
「はい!」
私はオルフェリアの口にタオルを入れる。
時間との勝負なのだろう。
凄まじいスピードで傷口を消毒し、縫合に入った。
「ぐうううううううう!」
「オルフェリア! 頑張れ! レイ! 足を抑えろ!」
「はい!」
オルフェリアが暴れる。
想像を絶する激痛が走っているのだろう。
「ぐうううううううううう!」
「頑張れ! もう少しだ!」
私はオルフェリアの身体を押さえつけながら、シドの縫合を見ていた。
私も戦場で応急処置はしてきたし、医師の緊急手術に何度も立ち会っている。
それこそ雨の中や泥の中でも手術を行う。
シドはその誰よりも速く、最も清潔で、恐ろしく正確に処置していた。
服飾のほつれを縫うよりも速く縫合していく。
人間の身体を知り尽くしているのだろう。
拷問され続けたシドだから……。
「よし! 縫合は終わりだ! オルフェリア! よく頑張ったな! もう大丈夫だ!」
「ぐふううう、ふう、ふう、ふう」
救護隊の騎士を呼び、オルフェリアを最も近い救護施設のベッドへ運んだ。
私はその間ずっとオルフェリアの手を握り励ます。
「オルフェリア、あなたは本当に凄いわ。よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。安心して」
オルフェリアは苦痛と涙で顔を歪ませていた。
それでも私を安心させるつもりで、笑顔を見せようとしている。
本当に強くて優しい女性だ。
ベッドに寝かせ、シドが傷口を消毒し包帯を巻く。
そして、鎮痛、解熱、睡眠効果のある薬草を煎じて飲ませた。
オルフェリアには効かないと思うが、ないよりはましだろう。
私とシドは廊下に出た。
オルフェリアに会話を聞かれないためだ。
もちろん、その間もオルフェリアから視線を外さない。
「オルフェリアの内臓に傷があった。内臓も縫っている」
「見ていたわ」
「何より出血が心配だ。今夜が峠だろう。はっきり言って……助かる見込みは三割程度だ」
「……分かったわ」
「くそっ! 私だったら何も問題なかったのに! 代わってやりたい! くそっ!」
シドが壁に拳を叩きつける。
その手から血が流れていた。
「シド! オルフェリアは大丈夫よ。あなたの手術は本当に素晴らしいものだったもの。安心して」
私はシドの手を取り、頭を胸に抱きかかえた。
「シド、オルフェリアは大丈夫よ。大丈夫。安心して」
シドの様子が落ち着いたようだ。
一旦離れると、シドが私の瞳を見つめてきた。
「……ふうう。君の言葉は安心感があるな。すまない。ありがとう。みっともない姿を見せたな」
「いいのよ。愛する人の危機だもの」
「気付いていたか?」
「ええ、まさかあなたがオルフェリアを好きになるとはね」
「ああ、二千年生きてきて最も惹かれた女性だ。何としてもオルフェリアを助けたい」
「できることは全てやりましょう。オルフェリアは私たちの大切な仲間よ」
「ありがとう、レイ」
シドが少しはにかんだ顔をしている。
「さあ、病室へ戻りましょう」
病室へ戻ろうとすると、リマが走ってきた。
「レイ! ここにいたのか! アル君が! アル君が!」
「アルが?」
体力のあるリマの息が切れている。
全速力で来たのだろう。
「レイ! ここは任せろ! 行ってこい!」
「リマ! 案内して!」
私はリマと走った。




