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第16話 優しさのベッド

 レイさんが家に来て三日目の朝。

 俺は日の出と同時に起き、朝食の支度だ。

 レイさんはまだ寝ている。

 昨日の疲労が溜まっているのだろう。


 よく考えたら、王都イエソンから千キデルトもの距離を移動してラバウトまで来たと思ったら、フラル山の標高五千メデルトまで登山。

 さらに鉱石の採掘をするという、超人的な行動をしている。

 疲れない方がおかしいし、レイさんじゃなきゃ本気で死んでると思う。

 今日はゆっくり休んでもらうつもりだ。


 朝食ができたので、レイさんを呼びに行く。


「レイさん、朝食ができました」


 返事がないのでベッドに近付いてみると、レイさんの顔が真っ赤になっていて呼吸が荒れていた。

 身体に触れるのは失礼かと思ったが、額に手を当ててみる。


「す、凄い熱だ」

「はあ、はあ。アル……ごめんなさい……」

「レイさん! 大丈夫ですか!」

「恥ずかしいのだけど……身体が……動かなくて……」


 これまでの疲労の蓄積だろう

 熱が出ている。

 しかもかなりの高熱だ。


「レイさん、今日はこのまま寝ていてください」

「はあ、はあ。ごめんなさい……」

「大丈夫ですよ。安心してください。食欲はありますか?」

「……ないの」

「分かりました」


 俺はすぐに薬草棚へ向かい薬を作る。

 解熱効果の薬草と、睡眠効果の薬草を取り出し、専用の器具で調薬した。

 長年一人暮らしをしてるので、薬草の知識はある。

 薬を煎じてレイさんの元へ持っていく。


「レイさん、薬です。辛いですよね。でも、これは頑張って飲んでください」


 レイさんの上体をそっと起こし、薬を飲んでもらった。

 全て飲みきったレイさんを寝かす。

 しばらくすると薬が効いたようで、レイさんは眠りについた。


「俺のせいだ。レイさんなら大丈夫と勝手に思い込んで、無理をさせたんだ……」


 俺のせいでレイさんに辛い思いをさせてしまった。

 静かに眠るレイさんの顔を見ながら、自分の愚かさを猛省。

 今日は採掘を休み、ずっと看病することにした。


 午前中は部屋の片付けや、ツルハシなど道具の手入れを行いつつ、レイさんの様子を見る。

 その間エルウッドはずっと寝室にいて、レイさんのそばから離れない。 

 エルウッドも心配していた。 


 昼になりスープと薬を用意。


「レイさん、スープを作りました。飲めますか」

「はあ、はあ。ありがとう……」


 レイさんの熱はまだ下がっておらず辛そうだ。

 しかし、レイさんは頑張ってスープと薬を飲み干し睡眠。


 夕方になり、俺はもう一度スープと薬を用意。

 幾分かレイさんの症状が軽くなっているように感じる。


 だが、もし明日もレイさんの熱が下がらないようなら、早朝に家を出てラバウトの薬屋で薬草を買い占めて、すぐに戻って来ようと考えていた。

 一日で下山と登山をやったことはないが、レイさんのためなら何でもやる覚悟だ。


 俺はベッドの横に座り、レイさんの顔を見つめていた。


 ◇◇◇


「アル。あなたは本当に優しい子ね」

「母さん……」


 俺の頭を撫でる母。


「母さん……?」


 これは……夢?

 誰かに頭を撫でられている?


 ◇◇◇


 目が覚める。

 俺はいつの間にかベッドに伏せて寝ていたようだ。


「ふふふ。お母さんじゃないわよ」


 レイさんが上体を起こし、俺の頭をゆっくりと優しく撫でていた。


「あっ! レ、レイさん! ご、ごめんなさい!」


 恥ずかしさから、顔が赤く火照っているのが分かる。


「アル、ごめんなさい。私が言い出したことなのに、迷惑をかけてしまったわ」

「とんでもないです! 俺が無理をさせてしまったから」

「違うの。私が勝手に無理したの。騎士団の隊長として、己の力量と体調を見誤るなと部下に言ってることなのに。恥ずかしい……」

「そ、そんなことは……」

「アルのおかげで熱も完全に下がったわ。本当にありがとう」


 レイさんの体調はもう大丈夫そうだ。


「それにしても、アルは調薬もできるのね」

「はい。一人暮らしですし、こんな山の上ですから、基本的な薬草は常備するようにしています」

「凄いわね」

「それに父が薬師だったので、調薬を教えてくれたんです。父が死んでからは、自分でも勉強しました」

「そうなのね。あなたは何でもできるのね」


 レイさんが優しく微笑む。

 レイさんに褒められ、また顔が赤くなってしまった。


「そうだ、レイさんお腹は減ってませんか?」

「そうね、確かに少しお腹が減ってるかも」

「軽い食事を作りますね」

「ありがとう。アルは本当に優しいのね」


 日は落ちたばかりだが、夕食を用意。

 レイさんには、胃に優しく消化に良い食事を作った。

 ベッドの上で食事を取ってもらう。

 その横で、俺は簡単な食事を取った。


 レイさんと一緒にいると、時間がゆっくり流れているようで全てが和やかに感じる。

 とても落ち着く。

 これが家族の安らぎなのか……。


 そんなことを考えていると、レイさんが俺の顔を見つめていた。


「アル、明日は剣の稽古をしましょう」

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ、アルのおかげよ。体調はもう完全に回復したわ」

「良かったです。じゃあ今日は俺、床に寝るのでそのままベッドで寝てください」

「一緒に寝ましょう」

「え? い、いや」

「ふふふ。一緒に寝ましょう」


 俺は断りきれず、レイさんの隣で就寝した。

 明日からついにレイさんの稽古が始まる。

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