第15話 普通じゃない採掘
翌朝、日の出と共に目を覚ます。
横ではレイさんが寝ていた。
レイさんを起こさないように、そっとベッドから出て朝食の準備。
珈琲を淹れ、乾燥パンをスープで柔らかくし、サラダとチーズを用意。
レイさんを起こしに行くと、すでにベッドから出ていた。
窓際に立ち、下界からの日の出に見入っている。
「凄い景色……。綺麗……」
日の光が当たるレイさんの横顔に、俺は見惚れてしまった。
そんな俺に気付いたレイさん。
「アル、おはよう」
「あ、お、おはようございます」
「ふふふ。何緊張してるの?」
「し、してないですよ! それより朝食の準備ができてます」
「ありがとう。何から何まで悪いわね」
食事をしながら今日の予定を話す。
「今日は希少鉱石を採りに行くので、標高六千メデルト付近まで登ります。採掘状況にもよりますが、丸一日採掘作業になると思います」
「分かったわ。私も何か手伝えることがあったら言ってね」
「はい、ありがとうございます」
食事を終え、採掘の準備。
天秤棒、籐かごを二つ、そしてツルハシを二本用意した。
「アル、ちょっとそのツルハシを持たせてもらえるかしら?」
「え? いいですよ」
レイさんにツルハシを渡すと、鈍い金属音が響く。
ツルハシを落としてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「気にしないでください。それより、怪我はありませんか?」
「ありがとう、大丈夫よ。それよりアル。このツルハシの重さは?」
「二十キルクあります」
「二十キルク!」
「ラバウトの鍛冶師、クリスに作ってもらった特注品です」
レイさんが驚いている。
確かにツルハシとしては重いが、それには理由がある。
「この山で希少鉱石を採掘するには、これくらいの重量があるツルハシが必要なんです」
「それにしたって二十キルクは規格外よ。これを一日中振り続ける筋力と体力も凄いし、その衝撃にも耐える身体も凄い……」
「そんなに凄いことじゃないですよ! ただ慣れてるだけです!」
なんだかレイさんの目が、人間を見る目じゃなくなってきたような気がする。
落ちたツルハシを拾い、今日の採掘地へ向かう。
荒々しい岩場を越え、小さな崖を何度か上り、採掘場に到着した。
さっそく採掘を開始する。
俺は二十キルクのツルハシを使い、岩を削っていく。
長年の勘で、希少鉱石が埋蔵されている場所を予想できる俺は、今日最初の希少鉱石を発見。
「レイさん、見てください。竜石です」
「岩に埋まっている竜石なんて初めて見たわ。こんな状態なのね」
「この竜石を傷つけないように、周りの石を削って綺麗に取り出します」
「細かい作業が必要なのね」
「はい。ツルハシの反対側で削っていきます」
俺が使用するツルハシは、片方が尖っていて掘ることに特化している。
もう片方は短く平たい形状をしており、削りに特化。
その短い方で竜石の周りの岩を削っていく。
細かい作業になるので、左手で竜石を掴み、右手でツルハシの柄を短く持って削る。
「あ、あなた、それを片手で持つの?」
「細かい作業は片手の方がやりやすいんです」
「だからって二十キルクよ? こんなことができる人間なんて騎士団にもいないわよ。本当に信じられないわ」
レイさんが呆れたような表情を浮かべていた。
「レイさん、採れました!」
「こんなに大きい竜石……。凄いわね」
「これはかなりの大物です! 滅多に採れません! この調子で採掘していきますね」
「ねえアル、私もやらせてもらっていいかしら?」
「もちろんです! そう思って予備のツルハシも持ってきています」
「これも二十キルク?」
「そうです。最初は振りかぶらずに、落とすように軽く振ってください。慣れたら徐々に、可能な範囲で振りかぶってください」
レイさんは俺のアドバイス通り採掘を始めた。
「これは相当キツいわね。でもトレーニングになるわ」
しかし百回ほど岩を掘ると、レイさんの手が止まってしまった。
「はあ、はあ。アル、ごめんなさい。どうやら私は限界みたい」
レイさんは完全に息が切れている。
そして、レイさんの手が血だらけになっていた。
どうやら手のマメが潰れたようだ。
「レイさん! 大丈夫ですか! すみません無理させて! すぐに止血します」
「大丈夫よ。私だって騎士だもの。血マメくらい慣れてるわ。それより、この空気が薄い中、これを丸一日振ることができるあなたはどうかしてるわよ」
レイさんは俺に驚いているが、標高六千メデルトで、このツルハシをいきなり百回振れる人も大概おかしいと思う。
ここで一旦昼食を取り、そして採掘再開。
レイさんは岩に座って休んでいる。
そんなレイさんを心配してか、エルウッドがレイさんに寄り添っていた。
「ふふふ、ありがとうエルウッド。優しい子ね」
レイさんはずっと俺のことを見ている。
というのも、身体の動き、筋肉の使い方を見て、俺に合った剣術を考えるとのこと。
見られることで緊張していた俺も、次第に採掘に没頭して、周りのことを一切意識しなくなっていった。
結局、この日は稀にみる採掘量で、竜石、緑鉱石、黒深石、白鉱石、赤鉱石が採れた。
全てレア五の希少鉱石だ。
採れた鉱石の重量は約五十キルク。
恐らく金貨五枚前後になるだろう。
たった一日でこれは本当に凄い。
鉱石を籐かごに入れ担いで自宅へ戻る。
「ねえ、アル。ちょっと担がせてもらっていいかしら?」
「もちろんです」
レイさんが鉱石を入れた天秤棒を担ぐ。
「標高六千メデルトだと、これを担ぐだけでも大変なのね。少し歩いてもいい?」
「はい。でも無理しないでくださいね」
レイさんは百メデルトほど進んで限界を迎えたようだ。
それでも俺は素直に凄いと思った。
「これを初めて担いで歩けるなんて。さすがです」
「そう言うあなたの手には、二十キルクのツルハシが二本。それも左右の手で一本ずつ持つなんて、どんな握力してるのかしらね」
苦笑いしながらも、レイさんは可能な限り鉱石を運ぶと言ってきた。
息を切らし、何度も休憩を挟みながら、なんとか日没前までに帰宅。
疲労困憊のレイさんのために、今日も風呂を沸かし夕食の準備。
そして、今日は早めに就寝した。
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単位
1セデルト=1センチメートル
1メデルト=1メートル
1キデルト=1キロメートル
1キルク=1キログラム