第129話 アルの真実
「ちなみにアルよ。不老不死の確認方法を知ってるか?」
シドが奇妙な質問してきた。
「不老不死の確認方法? そ、それって……ま、まさか」
少し考えると想像できた。
しかし答えたくない内容だった。
「君は賢いな。そうだ、本当に殺すのだ。私は何度も殺された。それこそ、この世の全ての拷問を味わった。地獄を超えた地獄だったよ。不老不死でも痛みはある。人間という生き物は歴史上最も残虐な生き物だ」
想像通りだ。
この世の全ての拷問。
しかも痛みがある状態。
まさに地獄だろう。
「肉を削ぎ落とされ、手足はちぎられ、ギロチンも串刺しも火炙りだってされたよ。それはもう悲惨だった。地獄だった。奴らは私のために数々の拷問器具を開発してくれるのだから」
話を聞き、恐ろしくて震える。
「不老不死の石で不老不死になると、身体欠損も修復される。生き返るたびに拷問だ。数年間は生き返るたびに拷問は続いた。当初は不老不死を確認するためだったが、いつしか狂った為政者たちの玩具にされていたよ。本当に死にたかった。次から次へと新しく開発された拷問が待っていたからな」
現存する拷問器具は、全てシドのために開発されたとのこと。
その全てを経験したそうだ。
「当時の私は復讐を考えていた。だが、奴らは寿命で勝手に死んでいったよ」
思い出したくない記憶だろう。
シドの声が少し震えていた。
「だがな、そんな地獄よりも恐ろしい地獄があることを知ったのだ」
「全ての拷問よりも恐ろしい地獄?」
「ああそうだ。君に分かるかな?」
「い、いや……。分からない」
「ハッハッハ、そうだろうな。それはな、私を知る者が全員死んでいくことだ。私は常に取り残される。いつしか私にとって、生きるということは最大の地獄になった。奴らは死にたくないと喚いていたが、寿命で死ぬということは幸せなことなのだ。私にとって、エルウッドだけが救いだったよ」
シドに寄り添うエルウッド。
そのエルウッドの頭を撫でるシド。
二千年もの間一緒にいた絆だろう。
言葉が出ない。
シドの身体の痛みも、心の痛みも分からない。
あまりに現実離れした内容だ。
しかし、俺はふと我に返った。
なぜシドは、そんな世界を震撼させるほどの話を俺にしているのだろう?
「ま、待って! な、なんで俺に秘密を?」
「アルよ。君は自分の身体に疑問を持ったことはないか?」
「え? 疑問?」
「そうだ。あまりにも人間離れしてるだろう?」
「そう言われれば、確かにそうだけど……」
「君はエルウッドと一緒に育って、紫雷石も持っていた。影響がないとでも?」
「な! バカな! お、俺も?」
「安心しろ。不老不死ではない。しかし、その影響はある。君の寿命は伸びているだろう。どれだけ伸びたか分からんがな」
「お、俺の寿命が?」
突然の言葉に俺は混乱した。
だが、ここまできてシドが嘘を言うわけがない。
俺は自分の両手を見つめる。
この身体がそんなことになっていたなんて……。
「雷の道はな、徐々に人体構造を変えるのだよ。バディから、エルウッドと紫雷石を近付けるなと言われていなかったか?」
「た、確かに! 父さんから、絶対に近付けるなと言われていた!」
「君も見ただろう? エルウッドの角に紫雷石を近付けると発生する雷の道を」
「ああ。小さな雷が発生していた」
「雷の道はバディも見たことがある。ただの雷だと認識していたがな」
父さんも雷の道を見たことがあったのか。
「しかしな、バディは気付かなかったようだが、同じ家の中の距離程度なら目には見えない薄くて細い雷の道が発生するのだ」
「え?」
「君の人間を超えた肉体は、長年エルウッドと一緒にいた影響だ。雷の道に触れ続けると、心臓の鼓動が極端に少なくなる。だから九千メデルトの世界でも生きていけるのだ」
「な、なんだって!」
「ちなみに、不老不死の石はさらに特別でな。これを飲んだ時点で、細胞と呼ばれる身体を作る組織の老化が止まり、破壊されても勝手に修復するのだ。ただし、不老不死の石でも全ての人間が不老不死になれるわけではない。むしろ不老不死になれる確率はごく僅かだ」
自分の肉体の秘密を知った。
心臓の鼓動なんて気にしたこともなかった。
「それと、君は怪我をしても治りが早くないか? エルウッドは怪我をしてもすぐに治るぞ」
「そう言われれば、医療機関の先生に治りが異常に早いと言われた。確かにエルウッドもそうだった……」
「私以外で、君は最もエルウッドと長くいる人間だ。恐らく不老不死の石の効果も少し出てるようだ。君は不老不死になれる肉体を持っているのだろう」
「不老不死? エルウッドを犠牲になんてさせない!」
「もちろんだ。エルウッドは私にとっても大切な家族だ。だが君は私と同じで、この世でごく僅かな不老不死になれる肉体を持つということだ」
正直混乱している。
何が何だか分からない。
不老不死に興味なんてない。
一生懸命生きて、人生を全うしたい。
「寿命が伸びたって本当なのか?」
「ああ、そうだな」
頭の中は真っ白になっている。
そこへ光が差すように、レイの顔が頭に浮かんでいた。
俺にとってレイは希望。
生き方を示してくれた大切な存在だ。
そんなレイとの別れが確実となってしまった。
シドの言う通り、取り残されるのは確かに辛い。
シドはそれを二千年も耐えてきたのか。
そしてこれからも……。




