第123話 護衛依頼
翌日、俺とレイはオルフェリアが講師をしている研究機関へ向かった。
受付で用件を伝えると、ちょうどオルフェリアが通りかかる。
「アルどうしたのです……。え! レ、レイ様!」
レイを見たオルフェリアが、息を大きく吸い両手で口を抑えている。
そんなオルフェリアを優しい笑顔で見つめるレイ。
「アセンのクエスト以来ですね。オルフェリアさん。改めましてレイ・ステラーと申します」
「オ、オルフェリア・コルトレと申します。わ、私はアセンよりも以前に、レイ様のクエストで解体させていただいたことがあります」
「そうだったんですね」
「はい! それ以来、いつかレイ様のクエストに参加したいと思っておりました」
「ふふふ、アルからお話は伺っておりますわ。アルと一緒にパーティーを組んでくださって、ありがとうございます」
「と、とんでもないです! あの、今後はレイ様ともご一緒できるのでしょうか?」
「そうですね。アルが私と一緒に行ってくれるのなら」
レイが意地の悪い表情を浮かべている。
「ちょっと! 何言ってるんだよ! まったくもう。今後はこのパーティーでクエストに行くよ!」
「ふふふ、分かってるわよ」
俺たちのやり取りを見たオルフェリアが笑っていた。
「フフ。レイ様とパーティーを組めるなんて本当に嬉しいです。レイ様は私の憧れでしたから」
「ありがとうございます。じゃあ、私たちはパーティーということね……」
レイがオルフェリアの顔を見つめる。
「これから私はオルフェリアと呼ぶので、あなたもレイと呼んでね」
「そ、それはできません!」
「ダメよ?」
年齢はオルフェリアが上だ。
「オルフェリア。俺も最初はそうだったんだ。さすがに抵抗があったけど、すぐに慣れたよ」
「ふふふ、そうよ。命を預ける仲間だもの。打ち解けましょう」
オルフェリアが意を決した表情を見せる。
「わ、分かりました。それでは、レ、レイと呼びますね」
「ええ。これからよろしくね。オルフェリア」
そこへシグ・セブン支部長のギル・リージェンが現れた。
「アル君、オルフェリア。こんなところで何を……。レ、レイさん! 帰還していたのですね!」
「ええ、昨日ウグマへ戻ってきました」
「そうでしたか。良かったら支部長室へ行きませんか?」
ウグマで話題になっている俺とオルフェリアのパーティーに、レイまで加わったことで周りに人だかりができてしまった。
支部長室へ入り、受付嬢が出してくれた紅茶を口にする。
すると、レイが姿勢を正してギルに頭を下げた。
「ギルさん。不在時はアルがとてもご迷惑をおかけしたようで、申し訳ございません……。特に買い取り面で……」
「はは。そんな迷惑だなんて。確かにアル君の捕獲が異次元過ぎて、すでに年間予算を使い果たしています。しかし、モンスター研究が五十年進む勢いなので、財務機関も追加予算を認めてくれました」
「シグ・ツーまで動かすって……」
「本当にそうですね。ただ、うちの局長は大喜びですよ。もっとアル君に捕獲させよとね。それに、レイさんが討伐したシーク・ド・トロイの話も伺いました。局長が大興奮してましたよ」
その話を聞いてオルフェリアが立ち上がった。
「え! レイ様……、レイはシーク・ド・トロイを討伐したのですか?」
「ええそうよ」
「あの見えない侵入者と言われるネームドをどうやって?」
「シグ・セブンが開発した粘着質の中和液を使ってね」
それを聞いたギルが、両手を叩いて歓喜の表情を浮かべる。
「あれが役に立ちましたか!」
「はい。あの中和液がなければ討伐は難しかったです。ありがとうございました」
「アル君が砂潜竜を捕獲してくれたおかげです」
俺もレイの役に立ったようで嬉しい。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
受付嬢の後ろにいるのは、ギルドのウグマ支部長リチャード・ロートだ。
「おお! レイじゃないか! 帰還していたのか!」
「リチャードさん。昨日帰ってきましたわ。この後ご挨拶に伺う予定でした」
「そうか。ギル支部長に用事があったのだが。うむ、ちょうどいい皆に用事があったのだ」
リチャードはソファーに座り全員を見回した。
「ここにいる全員に関係する話なんだ。まずオルフェリア」
「は、はい!」
「君には帝都へ行ってもらう」
「帝都ですか?」
「そうだ。君の実績が認められて、シグ・セブン局長から直接表彰されることになったんだ」
「え? ジョージ・ウォーター様から?」
「うむ。君は今後、Aランク解体師として皆の模範になるだろう。わっはっは」
リチャードが軽く咳払いをし、俺とレイの顔を見た。
「さて、レイは分かっていると思うが、君たちも帝都へ行ってもらう」
「……はい、分かっていますわ」
「そこで最も効率の良い方法を考えたのだが、オルフェリアの護衛を君たちに任せることにした」
「それは確かに効率が良いですね」
「これは護衛クエストとして依頼しよう。詳細は後ほど依頼書を渡す。オルフェリアのために馬車を出すこともできるがどうする?」
「護衛対象がオルフェリア一人ですから、オルフェリアにも乗馬してもらいます」
「うむ、分かった。それではギルドの馬を一頭貸し出そう」
リチャードが少し安心した表情を浮かべ、ギルの肩を叩く。
「ギル支部長。オルフェリアの講師に関して、スケジュール調整をお願いしたい」
「承知いたしました。適宜対応いたします」
オルフェリアと出発日を打ち合わせた結果、出発は一週間後となった。
ウグマから帝都サンドムーンまでの距離は約五百キデルト。
片道十日の旅路だ。
帝都の滞在日数などを考えると、往復で一ヶ月近くかかるだろう。
一通り用件が終わり、俺たちはシグ・セブンを出た。
「ねえレイ。オルフェリアの護衛は構わないんだけど、俺も帝都へ行く必要ってあるの?」
「ええ、あるのよ。ギルマスとの約束でね。私とアルに来いって言ってるの」
「ギルマスが? 会ったこともないのに……。まあでも一度は帝都へ行ってみたかったし、ちょうどいいか」
「そうね。遅かれ早かれ避けては通れないもの」
レイは本当にギルマスと会うのが嫌な様子だ。
続いて俺たちは、開発機関へ向かった。
レイの新装備を受け取るためだ。




