第114話 隊長会議
翌日、朝から騎士団隊長による三番隊ピーター・バルスの騎士団葬を行った。
ハウが私のために用意してくれた正式な騎士団の鎧に喪章をつけ、騎士団墓地で葬儀。
私たちは必ず仇を取ることを約束した。
そして私はザイン・フィリップの墓にも赴き、一輪の花を届けた。
王城に帰還後、クロトエ騎士団の隊長会議が開始。
十二人の隊長による敬礼で出迎えられながら、私は会議室へ入室。
ここにいるのはイーセ王国の最高戦力。
その姿はまさに圧巻だ。
その後ヴィクトリアが入室。
私を含め全員最敬礼で出迎える。
ヴィクトリアが私の隣に座るのを見て、号令をかけ全員を着席させる。
「すでに知ってると思うが、私は騎士の責務と交換条件でここにいる。退団した身でこの場にいることを許して欲しい」
「ハッ!」
隊長全員が一斉に答えた。
◇◇◇
近衛隊 リマ・ブロシオン 二十七歳 女 王室
一番隊 ハウ・ギブソン 四十六歳 男 イエソン城
二番隊 アラン・ブラック 三十二歳 男 ロンハー地方
三番隊
四番隊 ビル・フォード 三十五歳 男 フースト地方
五番隊 ウェイク・マーク 二十九歳 男 キーズ地方
六番隊 シャル・ウッド 三十三歳 女 グラト地方
七番隊 アリナ・レンデ 二十八歳 女 ルイヤ地方
八番隊 スティーヴ・ホル 二十七歳 男 ユニオ地方
九番隊 ジル・ダズ 三十五歳 男 カトル地方
十番隊 イゴル・コロフ 四十五歳 男 マグニ地方
十一番隊 ジョディ・ペリー 三十歳 女 ワインド地方
十二番隊 ケイ・シェプセン 二十五歳 女 ミラザス地方
前団長 レイ・ステラー 二十二歳 女
女王 ヴィクトリア・イーセ 二十歳 女
◇◇◇
隊長会議は司会役が順番で回る。
今回の担当は六番隊だ。
「六番隊のシャル・ウッドです。今回の司会進行役を承りました。皆様、よろしくお願いいたします」
シャル・ウッドは三十三歳の女性だ。
六番隊は王国北西部のグラト地方を守護している。
グラト地方の国境はジェネス王国とクリムゾン王国の二国に接しており、地政学的に国内でも最重要な地方だった。
その地を任せられている彼女は、判断力と交渉力に優れている。
「今回の議題は三つです。ピーター隊長暗殺の件、王の一撃紛失の件、次期騎士団団長の件です。皆様、忌憚なきご意見をお願いいたします」
ジル・ダズが挙手。
「ヴァリクス紛失からピーター隊長暗殺と、これまでの騎士団ではあり得なかった事件が続きました。皆様独自の調査ルートをお持ちでしょうが、今回は自重ください。本件は女王陛下承認のもと、私が全て取り仕切ります。今回は情報戦です。一つの誤情報が命取りとなります」
「うむ、我が騎士団で最も情報に精通しているジルだ。皆も異論あるまい」
ハウが各隊長に根回ししてくれたおかげで全員賛成だった。
「皆様、ありがとうございます。それでは、ここまでの調査を共有します」
◇◇◇
何者かが隊長室に侵入しピーターを絞殺。
死因は窒息死だが、首の骨も折れていた。
内部犯行の調査では問題なし。
隊長室の前には常に二人の守衛がおり、犯行時に不審者はいなかった。
隊長室は砦の最上階五階にあり、外からの侵入は不可能。
ピーターの首の周りに大量の粘液が付着。
建物の外壁や内壁、天井にも乾いた粘液が付着していた。
騎士団の砦、それも高階層にある隊長室へ侵入し、隊長暗殺は可能なのか?
否、人間には不可能である。
粘液はモンスターの物と思われる。
そのため、粘液を分析に出した。
◇◇◇
私は気になった点をジル・ダズに質問することにした。
「その粘液はどこへ分析に出したの?」
「冒険者ギルドの研究機関です。彼らはモンスターのプロですから」
「外部に頼ったのか!」
反論の声が聞こえるが、私はそれを制する。
「よい、続けろジル・ダズ」
「ハッ! シグ・セブンに提出したところ、どうやら砂潜竜の舌の粘膜に似ているという第一報をもらいました。これからさらに解析するそうです」
リマが挙手した。
「サンキロスはレイと討伐したことがある。体長は三メデルトほどだ。侵入すれば気付かないわけないだろう? それに剣の達人のピーターさんだぞ?」
私は一つ思い当たる点があった。
「待ってリマ。心当たりがある」
全員が私の顔を見る。
「サンキロスのネームドにいるのよ。身体を周囲の景色と同化させることができる個体が。確か名前はシーク・ド・トロイ」
「な、なんだって! じゃあそいつが侵入して暗殺したってことか? でも五階だぞ?」
リマの疑問はもっともだ。
「シーク・ド・トロイは壁どころか天井も歩くことができるわ。壁に残っていた粘液の跡がその証拠よ。それにシーク・ド・トロイの名前の意味は、見えない侵入者だもの」
ジル・ダズが呆れたような表情を浮かべている。
「レイ様が全て説明してくださいました。シグ・セブンの資料には、シーク・ド・トロイの名がありました」
隊長たちがざわつく。
「ど、どうやってネームドを使役するのだ?」
「そもそも、ネームドを使役することなんてできるのか?」
そこでジル・ダズが挙手した。
「恐らく高等な使役師の仕業でしょう」
モンスターを使役する使役師という職業がある。
甲犀獣を使って運搬する運び屋も使役師だし、ネームドのエルウッドを従えるアルも、広義の意味では使役師に該当するだろう。
何者かがそのシーク・ド・トロイを使って、ピーターを暗殺したのは間違いないようだ。
「分かったわ。シグ・セブンへの調査依頼は今後も進めてちょうだい。何かあれば私の名前を出していいわ。というか、出した方が早いわね」
「承知いたしました。ご配慮ありがとうございます」
私はジル・ダズに指示を出した。
すると、ハウが口髭を触りながら挙手をする。
「ジルよ。暗殺方法が分かったとして、王の一撃盗難はどうなんだ?」
「恐らくは同一犯でしょう。方法は分かりませんが、シーク・ド・トロイを使って王城に忍び込み、ヴァリクスを持ち去ったかと思われます。現在、王城内に痕跡が残っていないか調査中です」
「目的は何なんだ?」
ハウの疑問はもっともだろう。
だが、確実な答えなんて不明だ。
「目的なんてたくさんありすぎで分からないわ。犯罪組織にとって騎士団は恨みの対象ですもの」
「確かにな……レイの言う通りか」
ハウも、さすがに納得せざるを得ないという表情を浮かべていた。
するとジル・ダズが再度挙手。
「今回は犯罪組織による犯行で間違いないですが、どうやら新たな犯罪組織のようです」
「それって、以前私たちが討伐した霧大蝮と関連のある組織かしら?」
「ハッ、その可能性が高いと思われます」
ジル・ダズが全員を見渡す。
「皆様、警備を厳重にしてください。敵は目に見えないモンスターです。それもネームドです。隊長格を狙ってるのは間違いないでしょう。最大限の警戒をお願いいたします」