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第11話 相席

 窓の外を見ると、空は赤く染まっていた。

 俺はいつの間にか寝てしまったようだ。


 夕食の前に、室内の風呂に入ることにした。

 宿の個室に風呂があるなんて、さすがは高級宿。


「エルウッド、風呂に入ろう」

「ウォン」

 

 風呂でエルウッドの身体を洗う。

 おとなしく従うエルウッド。

 本当にいい子だ。


「さあ、食堂へ行こうか」


 身体の汚れを落とし、宿の食堂へ向かう。

 いや、食堂というより高級レストランだ。


「お一人ですか?」

「は、はい。それと、この子も大丈夫ですか?」


 エルウッドを指差す。


「狼牙ですね。声を出さないようにしていただければ問題ございません」

「分かりました。エルウッド、声を出しちゃだめだよ」


 エルウッドが声を出さず頷く。

 生息数が少ない狼牙は希少価値があり、貴族など富裕層に飼われることが多い。

 そのため、こういった高級レストランでは、すんなり受け入れられるようだ。

 狼牙はある程度人語を理解することも、受け入れられる理由だろう。

 しかも、エルウッドは狼牙の中でも超希少種の銀狼牙で、人語を完璧に理解している。


 俺は角大羊(メリノ)のコース料理と葡萄酒をボトルで注文。

 そして、エルウッドには高級な生肉と生野菜をお願いした。

 メニュー表を見て金額に驚いたが、今の俺は金貨を持っている。

 今日は贅沢すると決めたし、エルウッドにも良い食事をさせたかった。


 葡萄酒を口に含む。

 黒葡萄のふくよかな香りが口に広がる。

 驚くほど美味しい。

 角大羊(メリノ)は臭みがなく、衝撃を受けるほど柔らかい。

 いつも食べてる干し肉とは大違いだ。

 エルウッドも美味しそうに生肉を食べている。


「エルウッド、これ美味しいな」


 エルウッドは無言で頷く。

 しっかりと言いつけを守っていた。

 コース料理を食べ終わり、葡萄酒のボトルは残り半分ほど。

 時間もあることだし、あとは少しずつ飲みながらまったりと過ごすつもりだ。


「アル!」

「え? レ、レイさん!」


 突然名前を呼ばれて驚いたが、相手はレイさんだった。


「夕食はここで?」

「はい、今日は特別に贅沢しています」

「そう、それは良かったわね。ふふふ」


 レイさんが優しく微笑む。


「レイさんも食事ですか?」

「私は先程、駐屯地で打ち合わせがてら食事を済ませたわ。少しだけお酒を飲みに来たの」


 ラバウトには騎士団の駐屯地がある。

 だが、ちょうど宿泊施設を改装中らしく、レイさんたち一番隊はこの宿に泊まることになったそうだ。


「相席いいかしら?」

「も、もちろんです」

「あら、美味しそうな葡萄酒を飲んでるわね」

「レイさんも良かったら飲みませんか?」

「いいの? ありがとう。ふふふ」


 グラスをもう一つもらい乾杯した。


「ところで、宿に泊まってるってことは、あなたの家はラバウトじゃないのかしら?」

「はい、俺はフラル山の標高五千メデルトに住んでます」

「え? どういうこと?」

「両親が家を作ってそこに住んでいたんです。でも両親は他界したので一人暮らしで、今は週に一回、鉱石を売りに街へ下山する生活をしてます」

「標高五千メデルトって、人が住めるのかしら?」

「はい、意外と快適ですよ?」

「ふふふ、そうなのね。一度行ってみたいわね」


 レイさんが驚きの発言をした。

 俺の家はまだ誰も来たことがないし、誰も来ることができない家だ。


「ん? アル、この子は?」

「一緒に暮らしてるエルウッドです」

「この子は狼牙ね。あら、この子は角があるのね……。角って……。え! ぎ、銀狼牙!」


 エルウッドが銀狼牙であることに驚くレイさん。

 銀狼牙であることを見抜くとは、さすが騎士団の隊長だ。


「よく分かりましたね」

「え、ええ。そ、そうね。文献を読んだことがあるのよ。銀狼牙は知的でとても誇り高い種族よね」

「エルウッド、レイさんが褒めてるぞ」

「エルウッド、よろしくね」


 エルウッドは言いつけ通り声を出さず、嬉しそうにレイさんを見上げていた。


 俺はエルウッドの目線の先を見る。

 改めてレイさんの美しさに驚くばかりだ。

 これほど美しい女性は見たことがない。

 紺碧の瞳に吸い込まれそうになる。


 レイさんって、まつ毛長いな。


「ふふふ、何を見てるの?」

「あっ、いえっ! ご、ごめんなさい!」


 つい、レイさんに見惚れてしまった。

 俺は焦りを隠すように葡萄酒を飲む。

 レイさんは笑顔で、俺を見つめている。


「ねえ、アル。あなたは明日、山へ帰るのよね? 私も一緒に行っていい?」

「そうです。山に帰……。ええっ!」


 危うく葡萄酒を吹き出すところだった。

 まさに青天の霹靂である。

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