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第10話 騎士団勧誘

 ザインさんが顎に手を当て、俺の身体を確認するかのように凝視している。


「アルの力が強いのは認めよう。しかし、剣術はどうなんだ?」

「け、剣は触ったことすらありません。私はツルハシだけです」

「なるほど。入団試験を受けるとなると剣術が必要になる。試験までに剣術を鍛えないといけないな」


 俺は六歳の頃からツルハシを振ってるが、これまで剣なんて握ったこともない。

 採掘中、極稀にモンスターに遭遇することはあったが、石を投げると逃げていった。


「文字は読めるのか?」

「はい。読み書きはできます」


 イーセ王国の識字率は七十パーセントほどと聞いたことがある。

 貧富の差で勉強環境は変わるが、他国より識字率は高いそうだ。


 それにしても、話が完全に入団試験を受ける方向に進んでいる。

 俺は不安で仕方がない。

 そんな俺の心を読んだのか、レイさんが微笑みかけてくれた。


「今年の入団試験の試験監督は私だから、多少のことは大丈夫よ」

「確かにそうですね。剣術の試験官は私ですし」


 とんでもないことを言い出す二人。

 騎士団の試験がそれでいいのだろうか……。

 話が現実味を帯びてきたことで急に不安になり、自分の境遇を伝えることにした。


「俺が騎士なんて無理です……。両親とは死別してるし、まだ十八歳の若造です。誇れる経歴もありません。本当にただの鉱夫です」

「確かに以前の騎士団は家柄も重要だったわ。しかし今は完全なる実力主義で、誰もがチャンレジできる環境なのよ」


 そうは言っても、剣も持ったことがない俺が騎士になれるわけがない。

 それにまだ十八歳だ。

 若すぎるだろう。


「アル、本気で考えて欲しい。ちなみに私は十五歳で騎士団に入っているから、年齢のことは大丈夫よ」

「じゅ、十五歳で?」


 十五歳で騎士団入団なんて信じられない。

 レイさんって、もしかして化け物なのだろうか。

 そんな失礼なことを思いつつ、我が国の騎士団、それも一番隊の隊長と副隊長からの要望となれば無碍にできない。


「わ、分かりました。考えさせてください」


 即断はできなかったので、そう返答した。

 ちょうどそのタイミングで、レイさんとザインさんが部下に呼ばれ席を立つ。

 俺はそのままロビーで珈琲を飲んでいると、エルウッドが戻ってきた。


「もう、どこに行ってたんだよエルウッド。部屋へ行くよ」

「ウォウ」


 部屋に入ると、まずその広さに驚いた。

 豪華なリビングに寝室。

 大きな窓から光が差すことで、室内はとても明るい。

 そして浴室とトイレまである。

 さすがは高級宿だ。

 銀貨五枚払った価値はある。


 荷物を置き、柔らかい高級ソファーに深く座り込む。

 俺はレイさんの言葉を思い出していた。


「俺が騎士……」


 今の鉱夫生活に不満はない。

 それどころか一人で気楽な上に金も稼げ、たまの贅沢もできる。

 ただ、標高五千メデルトの山に一人で住み、天空とも言える山岳地帯で鉱石を採掘し、週一回の下山で鉱石を売る生活に、夢や未来はないのかもしれない。


 両親が読み書きを教えてくれたので、俺は本を読めるし字も書ける。

 教師だった母親は数学も教えてくれた。

 家には学術本もあり、今でも自分で勉強している。

 さらに、父親の故郷だったというフォルド帝国の言葉も話すことが可能な上に、鉱石鑑定もできるから、商人として活動できるかもしれない。


「鉱夫を続けるか。騎士団を受験するか。商人として商売をやってみるか」


 俺は将来のことについて考え始めていた。

 間違いなくレイさんやザインさんに、入団試験を勧められた影響だ。

 両親がいない俺は、自分一人で将来のことを考えなければならない。


「ふうう。将来か……」


 大きく溜め息をつき、ソファーの背もたれに身体を預けた。


 ◇◇◇


 ザインがレイに問いかける。


「隊長、あの者の騎士団勧誘は本気ですか?」

「ああ、本気だ。力あるものは騎士団に欲しい」

「し、しかし、腕力が強いだけのただの鉱夫です。あの場は同調しましたが、勧誘はやりすぎなのでは?」

「アルの力の強さは本物だ。磨けば光るだろう。それに……」

「それに?」

「アルには引っかかるものがある。もしかしたら任務が進むかもしれん」


 ◇◇◇

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