封印された魔女
世界地図に描かれた中央の国であるリネンブルエから西方に位置するある小島には、魔女と畏れられる人物が厳重に拘束され、封印されていた。
魔人と称される生物が現代を生きてはいるが、この時代を生きる人々にはその生物の存在ごと記憶から抹消されている。
ムベイロ島の奥に南方の国々が原産であるコウコ石で建てられた小さな神殿がある。
その神殿の最奥の一室に、一つの石棺が石造りの地面から掘り出されたようにある。
その石棺にはこじ開けられるような隙間は存在しない。
石棺の前で膝を地面につけ、石棺の側面の淡い青色の光が発光した部分を片手で撫でながら、啜り泣く煤けた黒いローブを着た老人がいた。
「ああぁ、貴女様があの愚かな者どもにこのような暗く狭いとこに縛られて、どのくらいの年月が経ったのでしょう……このワタクシめが、貴女様を陽の下を歩けるように手を尽す所存であります。ロベーレラの地に住まうアポロドロスに——」
「オイオイ、ありゃ〜普通の青年だぜぇ!青年に業を背負わすなんて、とんだジジイだなぁ〜!ロベーレラ神話を纏め、いくらか有名な建築家のアポロドロスって青年を巻き込むんじゃねぇよ!」
「うるさいわ、髭を生やした小僧がァ!ワシが仕えた者にこんな惨めな思いをさせたまま死ねるかァ!」
しゃがれた声で背後から軽薄な声で声を掛けてきたむさ苦しい青年を怒鳴る老人。
「なんてジジイだ、呆れるぜ。この時代にあの悪夢に翻弄させられるのは御免だぜ、俺はな!あの嬢ちゃんに殺された何十万何百万の人々らに何も思わんか、クソジジイ」
「悪夢ぅ……?地獄じゃて、あの光景は。目の当たりにしたことのない小僧がベラベラと……90余生きるワシにはあの御方の姿を拝めんと生の実感が湧かん。河に巨大な石橋を架けたのはあやつくらいと聴いたぞ!それにロベーレラにはっ——」
「そうかい。俺はアンタのおもりなんて願い下げだぁ。他のやつを頼れよ、ジジイ〜」
「誰がオマエみたいな小僧に……」
くすんだ金髪を逆立てた青年が片手を挙げ、振りながら石棺の置かれた一室を後にした。
静寂になった一室で、石棺に両手を合わせる老人。
「……ワタクシめが、貴女様を。ワタクシめに——」
老人のしゃがれた声は震えていた。