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神が授かりし万能ではない力

壺のような瓶を少女が天に掲げる石像が建つ噴水を眺めながら、コーヒーと呼ばれる飲み物を喉に流したレクシィがテラス席で寛いでいた。

彼女の正面の椅子に腰を据えたノルンという女性が睨んでいる。

「レクシィ、聞いてんのっ?さっきはよくも無視してくれたわね!それでもあいつらの娘なのっ!信じらんないわっ、あんたっ!殺してやりたいくらいなのに、澄ました顔してっっ!彼の首をへし折って殺そうとしたんでしょ、その力を私を襲ってきた連中にふるって助けなさいよッッ!!」

「うっさいわぁー、ノルン。あんたの処女が奪われるのを阻止したんだから良いでしょーが。あんただっておんなじことしたんだから、報いを受けなきゃ気が済まないわァっ!」

「私が授かってるモノを知ってるくせに、そんなこと思ってたの……?あんたは助けられる。私には助けられない。《運命》の神ではあるけど、対象者の運命……つまり運命()を弄れるわけじゃない。私が制裁を喰らわせられるのは私に殺される運命にある生物であって、しかもその生物の運命()を速めたり遅らせることは出来ないんだから。あの御方みたいに万能じゃないのよ、私のはね!」

「改めて言わなくても解ってるよ。でも致命傷くらいは与えられる。それに、あんただって完全な死を迎えることはない。妾らと比べ、脆い奴らの穢らわしい血ィ浴びるなんて嫌ね」

「むぅー、ってそういう発言をこんなとこで言うなレクシィっ!」

ノルンは短い唸りを漏らし、慌てた様子で顔を近づけ、咎めた。

肩にかかるくらいのくすんだオレンジ色の髪を乱れさして、レクシィの口を片手で押さえたノルン。

「で、あんたはいつまでこの街にいるつもり?」

「ぷはぁ、よくも弱ぇ分際で妾の口を押さえたなっ!さぁ、妾に聴くな。あいつについて行って各地を巡るだけの妾に、計画(プラン)なんて聴いてくれるな!此処は妾を愉しませてくれるサーカスなんていう余興が観れるのが最高でな〜ぁあ!」

「そう……私は彼の運命を占うことになってるから。ぷはぁ〜よっこらっしょ」

ノルンは下界の地上では生産されていない珍しい形のグラスを掴み、グラスに注がれている紫色の液体——神界でしかありつけない蜜酒を一気にあおって立ち上がり、レクシィの同行者の元へと歩き出した。

「……ふん。妾だって万能な力なぞ有しておらんわ、ノルン」

レクシィは小声で呟き、ノルンの背中を見送り、赤い果実がふんだんに載ったパイを素手で掴み、口一杯に頬張った。


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