狙われた書物
セクリエトとレクシィが襲撃されたユブイマ村に足を踏みいれる一週間前に起きたユブイマ村の——大事件。
ユブイマ村は変わらぬ平穏な暮らしをおくっていた。
ある日の昼前に、20人にも満たない集団がユブイマ村に足を踏み入れ、村に火を放って襲撃された。
逃げ惑う村人を一方的に20人にも満たない集団が虐殺していった。
二時間も経たずに村長を含む村人らは無惨に殺された。
地下に逃げた成人になりたての女性を追い詰めた3人の青年は、彼女を嘲笑っていた。
「ハハッ、こんな辺境の村に隠すとは笑っちまうよォ!なぁ〜お前ら」
「まったくですぜ、ワイラルク団長。残ったのがこんな弱ぇ娘なんて、殺るのがつまんねぇ。なぁ、サヴェリッニ〜?」
「アンタらといっしょくたにすんな。強者でもない娘を殺して、満たされるものは何もありゃせんだろ。こんなことは反対したのに……抵抗の意志を折れればそれで良いはずの遠征だろう。アンタらの遣り方には、眼を潰れぬモンがある。すまないな、キミ……当初の計画では村人を殺すには到らなかったのだ。キミの背後にあるその書物を回収するのが目的なのだ。大人しくソレを寄越す気があれば、危害は加えまい。どうかね、お嬢さん?」
サヴェリッニと呼ばれた左頬に痛々しい斬られた傷が刻まれた青年が脅しとも似た交渉をした。
「コレは、原本じゃないんです……写本でもない。奪われたくない奴が或る者に精巧に書き換えさせた偽物です、コレは……!あなたはこの世界を支配する気は無いでしょ!必要ないはず……あなたにはっ……ッハァ」
メノヴェールが言い終える直前に、ワイラルクに媚びへつらう青年が彼女に対し剣を一振り入れる。
剣で斬り付けられたメノヴェールは、一振りで負ったとは思えない痛みが全身を襲われ、何箇所も裂かれたように至る所から大量の血が噴き出てうつ伏せに倒れた。
「なにぃサヴェリッニさんに反抗してんだァッ、小娘の分際でよォ〜!殺すっ——ぁああ"あ"あ"っっっ!!!!……んで、ぇぇ……俺をォぅぅ……」
メノヴェールに剣を振るった青年の威勢のあった声が悲鳴に変わり、彼が立てなくなり膝で倒れそうな身体を支えようとしていた。
「テスタロッティ、この任務を終え戻ったら……教育か死のどちらで処されたいか選べ」
「はぁはぁ……うぅぅっ、すっすみまっ……せん……死ぬのはぁっ……どうかぁぁああっっうぐっうぅ……」
テスタロッティは剣を握っていた右腕の肘から指先を切断され、切断面から大量の血が敷き詰められた石に流れる。
「悪いね、お嬢ちゃん……テスタロッティが悪さぁして。話せるくらいには、治すからね……」
サヴェリッニはメノヴェールを仰向けにし、数十箇所にも及ぶ傷を負った内の一箇所に掌を触れ、傷を療す。
「……あ、あれ?私、死んだんじゃ……」
「ふぅー、意識が戻ったようで一安心だ。座れるかい、お嬢ちゃん?続きを聞かしてくれないかな?」
「えっ!?なんでこの人が死にそうになってるの?……えっと、続きって——?」
「その、死海文書についての——続きをさぁ。村長が口を割らずに亡くなってさぁ、解らずじまいで盗むハメになるとこだったからねぇ……知ってる人がいて安心だぁ〜」
「もっ……もしかして、村長を殺したのって——」
「まっさかぁ〜なぁ、ワイラルク団長?」
「えっ!オレっすぅっ——」
「ユブイマ村で殺してったのはワイラルク団長らで、私は一人も手を掛けてないよね?」
「はっはいっ!」
ワイラルクは額に冷汗をかいて、サヴェリッニに怯えていた。
「ぁあっ……話します、話しますからっ……殺さないでくださいっ」
「テスタロッティよりも賢いなぁ。助かるよぅ、お嬢ちゃん」
「ロキが話してくれたんです……コレは、偽物だって」
「ロキだとぉっ!ロキって、聖典に出てくるあの?」
「は、はい。そのロキです……」
「実在したのか!?まさか、そんな……フフッ、面白くなってきた」
サヴェリッニは驚いてから彼女の額に片手のひとさし指で触れてから、膝に手を置いて立ち上がり、笑ってから呟き、メノヴェールに礼を告げずに、地上に続く石段を上がり始めた。
「……」
「サヴェリッニさん、待ってくださいよ〜!いきなりどうしました?」
ワイラルクがテスタロッティに肩を貸しながら、サヴェリッニの背を追いかけて、石段を上がっていく。
メノヴェールは、ワイラルク団長が率いる集団に殺されずに済んだユブイマ村の唯一の村人となる。
セクリエトとレクシィは、メノヴェールが生存してるかを知らない。