二人の追跡者
「おぉー、出てきたぜ。お嬢ちゃんの肩ンとこにハエみたいなのが飛び回ってるな〜」
「ハエみたいなの、ですか……と言うか、ハエとはなんです?この国も惜しい人材を失いましたね。御伽噺に出てくるあの一族が存在するとは、未だに信じられませんよ……私」
傾斜の激しい屋根にバランスよく立ち、トニッシュが医院の建物から出てきたのを筒状の望遠鏡で偵察する中年のバルドニック。
彼の発言に金縁眼鏡を掛けた気難しい顔をしたサノラヴァが疑問を訊ねて感想を漏らした。
「あぁーソレは気にすんな。黄金に富んだ一国をも滅ぼす兵隊がごろごろいるってとこに住んでた一族だっけ?」
「そうです、バルドニック。我々が滅ぼされるとしたら、その大都市の切り札として賭けたあの娘でしょう。彼女が最後の覚醒に目覚めれば、この世界は——神の審判によって齎されたあの災厄と同等の被害を被る。気を引き締めねば、です」
「その一族って、妖精を使役出来んのか、サノラヴァよぉ?」
「あの爺さんが調査した結果は、私には知りませんよ。国王と行政を仕切る連中くらいしか降りてきませんからね、そういうのは。貴方の目に、危険だと告げるものはあるんですか?」
「クフフっ、もしそうだったら、あの嬢ちゃんをぶちのめしてんよッッとっくになあぁ!!」
サラサラの長い緑髪を掻き上げながら、愉快そうに笑うバルドニック。
「それもそうですね。用済みな傀儡の処理は、貴方に任せましょう。済み次第、彼女の動向の監視を続行するように」
「分かったぜ、サノラヴァ」
バルドニックが返事するのを聞いたと同時に、サノラヴァが姿を消した。
彼もトニッシュが向かう港へと屋根を飛び越え、前方の屋根へと飛び移りながら走り続けた。